長島 潤 Sing a mindscape

jun nagashima singer-songwriter

風邪の間の読書

2016-11-08 16:23:47 | 日記


先週から風邪をひいて体調を崩した。その間、ずっと小説を読んでいた。

中でもズシンときたのが角田光代の「ツリーハウス」。三世代に渡る家族の物語で、満州から引き上げた祖父母やその子どもたちの暮らしの中に見え隠れする「逃げる」というモチーフ。

奇をてらったサスペンスでもないし、ただただ平凡な暮らしぶりを描いているに過ぎないのだけど、同著者の「八日目の蝉」の読後感のように、なにかがゆらゆらと心の奥底に沈殿してゆく。

同じく角田光代の「かなたの子」は短編集。不気味さを帯びた夢物語のようなそれぞれの話に共通するのは、「生と死」や「過去と未来」や「恨みと許し」などの対立軸の境界がやがて曖昧なものになっていくという構図。

横溝正史の「白と黒」は、かの有名な探偵金田一耕助が登場する550ページの長編小説だが、地方の暗い因習や複雑な血縁関係を絡めた「八つ墓村」や「犬神家の一族」などとは正反対の、横溝が都会物を書くときにおなじみのおバカでエロなテンポのいい推理小説。

東野圭吾の「分身」は、体外受精や遺伝子操作という現代医学の危険な領域を描いたサスペンス。

連城三紀彦の「私という名の変奏曲」は、緻密な推理サスペンス。恋愛ものを書けば、超美文で繊細な心の機微をすくい上げる。推理ものを書けば、予測不可能などんでん返しが待っている。この人は凄いなぁ。