日曜インタビュー:世界で平和を訴える元国連大学副学長・武者小路公秀さん /富山
◇「天下三分の計」を提案--武者小路公秀さん(79)
◇互いの立場認め合い、共存を
「人類の平和と発展」という国連の目的に学術面で寄与しようと、1975年に活動を始めた国連大学(本部・東京渋谷区)。その副学長を76年から12年間務め、現在も「世界平和アピール7人委員会」委員などとして世界中を巡って平和を訴えている武者小路公秀さん(79)=国際政治学、平和学=が昨年12月、富山大人間発達科学部の平和学講座で、特別講義「グローバル化する世界と人間の安全保障」を行った。100カ国以上を訪れた武者小路さんに、平和への提言を聞いた。【青山郁子】
--国連大学とは。
武者小路さん 1960年代、世界中で蜂起していた学生ら若者のエネルギーを結集して国連を改革しようと、69年に故ウ・タント元国連事務総長が構想を提案しました。72年の国連総会で設立が決議され、75年9月に活動を開始しました。
普通の学生はいません。途上国の大学院生らが、大学フェローとして研修やセミナー、研究会などに参加しています。東京本部のほか、世界13カ所に直属の研究所や研修センターなどがあります。
--どのような仕事をされましたか。
武者小路さん 「人間と社会発展」が担当でした。欧米中心だった開発のあり方が混迷する中、新しい開発のあり方を模索しようと、ラテンアメリカや社会主義圏、欧米などの研究者のネットワーク作りなどを手がけました。昨年、サブプライムローンのような米国の賭博場経済により金融危機が起きましたが、20年以上も前にグローバル危機に備えた研究も進めていました。
--北朝鮮にも行かれています。
武者小路さん 82年以降、平壌に7回行きました。84年からは、中国の社会科学院、東京大、韓国のソウル大、平壌にある社会科学者協会の協力でプロジェクトを組み、「近代化における国家の役割」を研究しました。南北両国が参加する共同研究は世界初でした。
冷戦終結後の訪朝時は、旧ソ連や中国の援助がなくなる中、北朝鮮が進めた「環境に優しい国づくり」への路線転換に関心を持ちました。バイオマスやバイオガスを積極的に取り入れた魚の養殖なども進んでいます。北朝鮮には諜報(ちょうほう)組織などタカ派もいますが、国際的な人権基準を守り、国を開こうという動きを進めるハト派もいるんです。
--現在、世界では「人間の安全保障」が脅かされています。
武者小路さん 80年代以降、モノづくりよりも金融や不動産売買などの「金づくり」経済が盛んになるにつれ、人間を含め生きとし生けるものの生命や文化の多様性が否定されるようになりました。とりわけ、先住民族や不正規労働者ら国家に排除されたマイノリティーの安全を国家が守れなくなっています。
私は今、新しい「天下三分の計」を提案しています。これまで欧州と米国中心だった国際経済や政治の舞台で、アジアやアフリカ、ラテンアメリカなど非西欧地域を日本や中国がうまくつなげてもう一つの極を作り、従来とは異なる平等互恵の経済システムを作る、という考え方です。
これには、55年のバンドン会議で採用されたネール、周恩来共同声明の平和五原則((1)主権と領土保全の相互尊重(2)相互不可侵(3)内政不干渉(4)平等互恵(5)平和共存)の精神を生かすことが必要です。
--平和へのアドバイスを。
武者小路さん 人間と同じく他の生物の共存や多様性のある生き方を認めない限り、平和に共存できる世の中は生まれないと思っています。人間は、文化、文明が違うからこそ協力し合い、平等に付き合うべきです。グローバル危機を乗り越えるには、欧米と非欧米などの違いを補い合い、立場を認め合うことが最も大切です。
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■人物略歴
◇むしゃこうじ・きんひで
1929年10月、武者小路子爵家(当時)の三男としてブリュッセルで生まれる。学習院大政治経済学部卒業。上智大、明治学院大、フェリス女学院大、中部大で教え、76~88年に国連大学副学長を務めた。反差別国際運動日本委員会理事長、人権フォーラム21代表、ピースおおさか初代代表などを歴任。現在、大阪経済法科大アジア太平洋研究センター所長・特任教授。作家の武者小路実篤は叔父。英、独、仏、西の4カ国語を話し、中国語、アラビア語を勉強中。著書に「転換期の国際政治」(岩波書店)「人間安全保障論序説」(国際書院)など。東京都渋谷区在住。
毎日新聞 2009年1月18日 地方版

◇「天下三分の計」を提案--武者小路公秀さん(79)
◇互いの立場認め合い、共存を
「人類の平和と発展」という国連の目的に学術面で寄与しようと、1975年に活動を始めた国連大学(本部・東京渋谷区)。その副学長を76年から12年間務め、現在も「世界平和アピール7人委員会」委員などとして世界中を巡って平和を訴えている武者小路公秀さん(79)=国際政治学、平和学=が昨年12月、富山大人間発達科学部の平和学講座で、特別講義「グローバル化する世界と人間の安全保障」を行った。100カ国以上を訪れた武者小路さんに、平和への提言を聞いた。【青山郁子】
--国連大学とは。
武者小路さん 1960年代、世界中で蜂起していた学生ら若者のエネルギーを結集して国連を改革しようと、69年に故ウ・タント元国連事務総長が構想を提案しました。72年の国連総会で設立が決議され、75年9月に活動を開始しました。
普通の学生はいません。途上国の大学院生らが、大学フェローとして研修やセミナー、研究会などに参加しています。東京本部のほか、世界13カ所に直属の研究所や研修センターなどがあります。
--どのような仕事をされましたか。
武者小路さん 「人間と社会発展」が担当でした。欧米中心だった開発のあり方が混迷する中、新しい開発のあり方を模索しようと、ラテンアメリカや社会主義圏、欧米などの研究者のネットワーク作りなどを手がけました。昨年、サブプライムローンのような米国の賭博場経済により金融危機が起きましたが、20年以上も前にグローバル危機に備えた研究も進めていました。
--北朝鮮にも行かれています。
武者小路さん 82年以降、平壌に7回行きました。84年からは、中国の社会科学院、東京大、韓国のソウル大、平壌にある社会科学者協会の協力でプロジェクトを組み、「近代化における国家の役割」を研究しました。南北両国が参加する共同研究は世界初でした。
冷戦終結後の訪朝時は、旧ソ連や中国の援助がなくなる中、北朝鮮が進めた「環境に優しい国づくり」への路線転換に関心を持ちました。バイオマスやバイオガスを積極的に取り入れた魚の養殖なども進んでいます。北朝鮮には諜報(ちょうほう)組織などタカ派もいますが、国際的な人権基準を守り、国を開こうという動きを進めるハト派もいるんです。
--現在、世界では「人間の安全保障」が脅かされています。
武者小路さん 80年代以降、モノづくりよりも金融や不動産売買などの「金づくり」経済が盛んになるにつれ、人間を含め生きとし生けるものの生命や文化の多様性が否定されるようになりました。とりわけ、先住民族や不正規労働者ら国家に排除されたマイノリティーの安全を国家が守れなくなっています。
私は今、新しい「天下三分の計」を提案しています。これまで欧州と米国中心だった国際経済や政治の舞台で、アジアやアフリカ、ラテンアメリカなど非西欧地域を日本や中国がうまくつなげてもう一つの極を作り、従来とは異なる平等互恵の経済システムを作る、という考え方です。
これには、55年のバンドン会議で採用されたネール、周恩来共同声明の平和五原則((1)主権と領土保全の相互尊重(2)相互不可侵(3)内政不干渉(4)平等互恵(5)平和共存)の精神を生かすことが必要です。
--平和へのアドバイスを。
武者小路さん 人間と同じく他の生物の共存や多様性のある生き方を認めない限り、平和に共存できる世の中は生まれないと思っています。人間は、文化、文明が違うからこそ協力し合い、平等に付き合うべきです。グローバル危機を乗り越えるには、欧米と非欧米などの違いを補い合い、立場を認め合うことが最も大切です。
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■人物略歴
◇むしゃこうじ・きんひで
1929年10月、武者小路子爵家(当時)の三男としてブリュッセルで生まれる。学習院大政治経済学部卒業。上智大、明治学院大、フェリス女学院大、中部大で教え、76~88年に国連大学副学長を務めた。反差別国際運動日本委員会理事長、人権フォーラム21代表、ピースおおさか初代代表などを歴任。現在、大阪経済法科大アジア太平洋研究センター所長・特任教授。作家の武者小路実篤は叔父。英、独、仏、西の4カ国語を話し、中国語、アラビア語を勉強中。著書に「転換期の国際政治」(岩波書店)「人間安全保障論序説」(国際書院)など。東京都渋谷区在住。
毎日新聞 2009年1月18日 地方版
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