【社説②】:米最高裁判事 社会の分断を癒やせ
『漂流する日本の羅針盤を目指して』:【社説②】:米最高裁判事 社会の分断を癒やせ
性的暴行疑惑のかかるカバノー氏が米連邦最高裁判事に就任した。その是非をめぐって国論は二分し、米社会の分断の深刻さをあらためて映し出した。政治が修復に乗り出さないことを憂える。
トランプ大統領が最高裁判事に指名した保守派のカバノー氏をめぐっては、三人の女性が性的暴行を受けたと告発した。共和党は連邦捜査局(FBI)の調査を踏まえ、疑惑には裏付けがないと判断、六日に議会承認にこぎつけた。
調査は時間が限られ関係者九人への聴取に絞られた。犯罪捜査ではないので聴取に協力させる強制力もない。真相が解明できたかは疑問である。
女性の性被害を訴える米国発の「#MeToo(私も)」運動は世界的な高まりを見せ、議会承認前日には、性暴力と闘う二氏のノーベル平和賞受賞が決まった。この時流も見据えて議会はもっと慎重に対応すべきだった。
十一月の中間選挙を目前に、承認問題が政争にもみくちゃにされたことも残念だ。あおりで司法制度への信頼も低下した。承認に反対する抗議行動で数百人が逮捕される混乱も起きた。傷痕は深い。
議会の公聴会に立ったカバノー氏は疑惑について「計算された組織的な攻撃だ。トランプ氏の大統領当選以来、鬱積(うっせき)した怒りにあおられたものだ」と述べた。
こうした感情的で攻撃的な言動が目立ち、冷静さが求められる最高裁判事にふさわしいか、という資質問題も持ち上がった。
最高裁は同性婚、人工中絶、銃規制など価値観にかかわる対立の裁定者の役割を担い、その判断は社会の進路を決定付ける。
カバノー氏の就任で九人の判事は保守派が多数を占めることになった。だが、偏った判決も分断を深めることを最高裁は肝に銘じてほしい。
米国は近年、共和党はより右に、民主党は左にそれぞれ傾斜を強め、中間派は退潮した。党派対立は先鋭化し、党派を超えて合意形成を図ろうという機運は薄い。
国民融和の旗振り役であるべき大統領には、分断修復に努める責務がある。ところがトランプ氏は逆に対立をあおって大統領にのし上がった。
このままでは米社会はいたずらにエネルギーを内紛に費やす羽目に陥る。
政治が機能しない以上、国民の覚醒を期待するほかない。草の根の動きが出てくることに希望をつなげたい。
元稿:東京新聞社 朝刊 主要ニュース 社説・解説・コラム 【社説】 2018年10月15日 06:10:00 これは参考資料です。 転載等は各自で判断下さい。
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