またまた広田弘毅のことです。
半藤一利、保阪正康、井上亮『「東京裁判」を読む』で、広田弘毅はこのように評されている。
半藤「私は始めから広田さんを認めない方なんです。(略)この人は大事なところで無能でしたよ。陸軍の言いなりで。責任は大きいですよ」
保坂「彼はやっぱり失態が多いですよ。一番問題なのは二・二六事件の後に首相として軍の要望を全部受け入れていったことです。(略)軍部大臣現役武官制も、陸軍から要求されて認めているし、五カ年計画だとか、みんな「ハイハイ」だもの」
半藤「「国策の基準」によって南方進出が確定したようなもんでしょう。それから日独防共協定でしょう。昭和史をあらぬ方向に動かす原点を作っています」
保坂「戦争のときにはいろんなタイプの外交官が出てきますが、昭和十年代に広田が外交官を代表する形で出てきたことは日本の最大の不幸ですね。出るべき人が出ないで、彼のような人が出たところが。重光も東郷も頑張ったけど、一番大事なときに広田があの場にいたことが一番の不幸です」
そこまで言うかというほどぼろくそ。
で、思いだしたのがアイヒマンである。
『スペシャリスト』は、1961年イスラエルで行われたアイヒマン裁判のドキュメンタリー映画。
「人類の敵」と糾弾されたアイヒマンとはどんな奴かと思ってたら、ごく普通のおじさんといった感じなのである。
極悪非道というわけではない。
裁判でアイヒマンは「命令に従ったにすぎない」と言っている。
たしかにアイヒマンは、強制収容所で何が行われているか、収容所のユダヤ人がどうなるかをわかっていたが、積極的に何かをしたわけではない。
「ユダヤ人問題の最終解決」を決定したヴァンゼー会議にアイヒマンは出席しているが、事務方の一人として座っていただけだという。
アイヒマンはユダヤ人を強制収容所に輸送する責任者で、与えられた仕事を忠実にこなす有能な管理職、つまり歯車の一つにすぎない。
そんなアイヒマンをハンナ・アーレントは「陳腐」「凡庸」と評している。
もしもアイヒマンが憎しみをぶつけることができるような悪の権化であれば、アーレントにとってよかったのかもしれない。
広田弘毅の無能とアイヒマンの凡庸は違うが、自分で考えようとせずにイエスマンに徹する点で共通しているように思う。
リヨンの人と呼ばれたクラウス・バルビーのドキュメンタリー映画が『敵こそ、我が友 ~戦犯クラウス・バルビーの3つの人生~』。
バルビーは実際に大勢のユダヤ人やレジスタンスの虐殺、拷問に関わっており、本来なら戦犯として死刑になっていたと思う。
ところがアメリカが、バルビーは共産党に対する情報網の設置に役立つ有能な人物と判断して、アメリカ陸軍情報部隊の工作員として利用した。
フランスからのたび重なる引き渡し要求のため、アメリカはバルビー一家を南米に移した。
そして、ボリビアでも重宝されたバルビーはゲバラの処刑にも関わっている。
ボリビアの政権が変わり、邪魔になったバルビーは1983年、70歳の時にフランスに引き渡された。
いくら有能であっても、歯車であるかぎり無用となれば捨てられてしまうわけである。
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これが、1983年1月26日に石川県羽咋郡志賀町で開かれた「原発講演会」(地元の広域商工会主催)での当時の高木孝一敦賀市長が明言した言葉である。
北陸電力原発の建設に絡んで、莫大な金額の表金・裏金および原発に起因する異常事態発生のたびに、北陸電力から恐喝まがいのやり方で多額の金をせびり取っていたことを、講演会で明らかにした。
その講演で市長は、原発賛成派の市民は、たとえば風評被害が生じた場合などに、実際の被害金額の何倍もの金を電力会社からせびり取っている様子を得意げに語っている。
これは敦賀市に限らず、どこの原発所在地でも同じことが行われていたことである。そうすると、いま福島原発事故で現地住民が大変な被害にあっているが、賛成派住民は汚いやり方で正当な補償以上の補償金を得ていたことになり、その額は普通の国民が生涯手にすることもできないような莫大なものであり、その金で安楽に暮らしていたわけだから、いまさら原発の事故のせいで困っている、と泣き言を言うのは少しムシが良くはないかという気がする。
以下は高木孝一元敦賀市長の講演内容である。
只今ご紹介頂きました敦賀市長、高木でございます。えー、今日は皆さん方、広域商工会主催によります、原子力といわゆる関係地域の問題等についての勉強会をおやりになろうということで、非常に意義あることではなかろうか、というふうに存じております。
…ご連絡を頂きまして、正しく原子力発電所というものを理解していただくということについては、とにもかくにも私は快くひとつ、馳せ参じさせて頂くことにいたしましょう、ということで、引き受けた訳でございます。
……一昨年もちょうど4月でございましたが敦賀1号炉からコバルト60がその前の排出口のところのホンダワラに付着したというふうなことで、世界中が大騒ぎをいたした訳でございます。私は、その4月18日にそうしたことが報道されましてから、20日の日にフランスへ行った。
いかにも、そんなことは新聞報道、マスコミは騒ぐけれど、コバルト60がホンダワラに付いたといって、私は何か(なぜ騒ぐのか)、さっぱりもうわからない。そのホンダワラを1年食ったって、
規制量の量(放射線被曝のこと)にはならない。そういうふうなことでございまして、4月20日にフランスへ参りました。
事故が起きたのを聞きながら、その確認しながらフランスへ行ったわけです。ところがフランスまで送られてくる新聞には毎日、毎朝、今にも世の中ひっくり返りそうな勢いでこの一件が報じられる。止むなく帰国すると、“悪るびれた様子もなく、敦賀市長帰る”こういうふうに明くる日の新聞でございまして、実はビックリ。
ところが敦賀の人は何食わぬ顔をしておる。ここで何が起こったのかなという顔をしておりますけれど、まあ、しかしながら、魚はやっぱり依然として売れない。あるいは北海道で採れた昆布までが…。敦賀は日本全国の食用の昆布の7~8割を作っておるんです。が、その昆布までですね、敦賀にある昆布なら、いうようなことで全く売れなくなってしまった。
ちょうど4月でございますので、ワカメの最中であったのですが、ワカメも全く売れなかった。まあ、困ったことだ、嬉しいことだちゅう…。そこで私は、まあ魚屋さんでも、あるいは民宿でも100円損したと思うものは150円貰いなさいというのが、いわゆる私の趣旨であったんです。100円損して200円貰うことはならんぞ、と。本当にワカメが売れなくて、100円損したんなら、精神的慰謝料50円を含んで150円貰いなさい、正々堂々と貰いなさいと言ったんですが、そうしたら出てくるわ
出てくるわ、100円損して500円欲しいという連中がどんどん出てきたわけです(会場爆笑、そして大拍手?!)。
100円損して500円貰おうなんてのは、これはもう認めるもんじゃない。原電の方は、少々多くても、もう面倒臭いから出して解決しますわ、と言いますけれど、それはダメだと。正直者がバカをみるという世の中を作ってはいけないので、100円損した者には150円出してやってほしいけど、もう面倒臭いから500円あげるというんでは、到底これは慎んでもらいたい。まあ、こういうことだ、ピシャリとおさまった。
いまだに一昨年の事故で大きな損をしたとか、事故が起きて困ったとかいう人は全く一人もおりません。まあ言うなれば、率直に言うなれば、一年一回ぐらいは、あんなことがあればいいがなあ、そういうふうなのが敦賀の町の現状なんです。笑い話のようですが、もうそんなんでホクホクなんですよ。
…(原発ができると電源三法交付金が貰えるが)その他に貰うお金はお互いに詮索せずにおこう。キミんとこはいくら貰ったんだ、ボクんとこはこれだけ貰ったよ、裏金ですね、裏金!まあ原子力発電所が来る、それなら三法のカネは、三法のカネとして貰うけれども、その他にやはり地域の振興に対しての裏金をよこせ、協力金をよこせ、というのが、それぞれの地域である訳でございます。
それをどれだけ貰っているか、を言い出すと、これはもう、あそこはこれだけ貰った、ここはこれだけだ、ということでエキサイトする。そうなると原子力発電所にしろ、電力会社にしろ、対応しきれんだろうから、これはお互いにもう口外せず、自分は自分なりに、ひとつやっていこうじゃないか、というふうなことでございまして、例えば敦賀の場合、敦賀2号機のカネが7年間で42億入ってくる。
三法のカネが7年間でそれだけ入ってくる。それに「もんじゅ」がございますと、出力は低いですが、その危険性……、うん、いやまあ、建設費はかかりますので、建設費と比較検討しますと入ってくるカネが60数億円になろうかと思っておるわけでございます…(会場感嘆の声と溜息がもれる)。
…で、実は敦賀に金ケ崎宮というお宮さんがございまして(建ってから)随分と年数が経ちまして、屋根がボトボトと落ちておった。この冬、雪が降ったら、これはもう社殿はもたんわい、と。今年ひとつやってやろうか、と。そう思いまして、まあたいしたカネじゃございませんが、6000万円でしたけれど、もうやっぱり原電、動燃へ、ポッポッと走って行った(会場ドッと笑い)。あっ、わかりました、ということで、すぐカネが出ましてね。
それに調子づきまして、今度は北陸一の宮、これもひとつ6億で修復したいと、市長という立場ではなくて、高木孝一個人が奉賛会長になりまして、6億の修復をやろうと。
今日はここまで(講演に)来ましたんで、新年会をひとつ、金沢でやって、明日はまた、富山の北電(北陸電力)へ行きましてね、火力発電所を作らせたる、1億円寄付してくれ(ドッと笑い)。これで皆さん、3億円既に出来た。こんなの作るの、わけないなあ、こういうふうに思っとる(再び笑い)。
まあそんな訳で短大は建つわ、高校は出来るわ、50億円で運動公園は出来るわね。火葬場はボツボツ私も歳になってきたから、これも今、あのカネで計画しておる、といったようなことで、そりゃあもうまったくタナボタ式の街づくりが出来るんじゃなかろうか、と、そういうことで私は皆さんに(原発を)お薦めしたい。これは(私は)信念を持っとる、信念!
……えー、その代わりに100年経って片輪が生まれてくるやら、50後に生まれた子供が全部片輪になるやら、
それはわかりませんよ。わかりませんけど、今の段階では(原発を)おやりになった方がよいのではなかろうか…。こいうふうに思っております。どうもありがとうございました。(会場、大拍手)
◇ ◇ ◇
今回のテーマについて、これ以上何の説明も要らないでしょう。ひとつだけ付け加えるなら、原発に限らずこうした事業を誘致した政治家が懐に入れるリベートは、投資金額の1~3%と言われています。原発1基3000億円とすれば、リベートは30~90億円と言うことです。
この講演が効を奏してか、会場となった志賀には北陸電力の志賀原発1号機が建設され、運転を開始しています。
★引用文献:内橋 克人著 「原発への警鐘」 講談社文庫
敦賀市の状況は他の原発所在地においても同じようなものでしょう。つまり、巨額のアブク銭がガッポガッポと入ってくるのですからこたえられないでしょう。事故が起きるといわれていてもその時はそのとき。楽して大金になるなら何でもやります、で来たのが現地の原発賛成派の本心。他の原発建設地でも同じようなものでしょう。そうだとすると、カネに目がくらんで、原発の危険性を無視した福島原発建設賛成派現地住民の今回の原発事故による受難はしかたない、自業自得、恨むなら自分を恨め。こういう風にいうと、原発事故被災者のうちの賛成派に対して酷ですかね。
> 裏取りの必要性を感じている方へ
引用元『原発への警鐘』(内橋克人 著)の復刻版『日本の原発、どこで間違えたのか』(2011年4月30日発行)が手元にあります。224~234ページに、このスピーチの内容が説明されています。224ページの冒頭に、「敦賀市で取材中のスタッフが録音テープの存在を聞きつけ、所有者の許しを得てダビングしたもの」との説明があります。 だから、裏は取れていると考えて良いと思います。一部に誤字脱字がありますが、書籍からの引用は、「ただいまご紹介頂きました敦賀市長、高木でございます。」から始まり、「~どうもありがとうございました。(会場、大拍手)」までです。
内橋さんによって暴露されたこの発言、反原発・脱原発を訴えて来た人間にとってはとても有名(?)な暴言ですね。
今回の東電福島原発の事故を機会にこの発言が再び発掘されたのは悪くないことです。多くの方に知って欲しいものです。
http://www.kyudan.com/cgi-bin/bbskd/read.cgi?no=1048
酷です。