放送前、同作のスタッフからは「これまでのファミリー向けの内容、時間帯で放送されているアニメでは『天才バカボン』の過激さや尖がった部分を出すことが出来なかった。深夜枠でやる意義はそこにある。」という言葉を幾度か聞いた。その結果、“過激さ”や“尖がったギャグ”に執着するがあまり、赤塚による漫画、そして漫画を原作としてきたこれまでのアニメ版『天才バカボン」内に確かにあった“普遍的な今”を、“現代”に置き換えてしまったことで、『天才バカボン』とも、ギャグアニメとも取れない中途半端な内容になってしまったと感じた。第1話では、studioぴえろ+による『平成天才バカボン』のセルアニメを模した部分、そこだけには驚いたのだが。
そして、多くの視聴者が『おそ松さん』との類似性を指摘し、「赤塚らしい」とSNSに呟いた。無理もない話である。『おそ松さん』で初めて赤塚不二夫を知った若年層には『おそ松さん』こそが赤塚不二夫なのだ。(何度もこの件を書くのは心苦しいのだが・・・)常日頃から赤塚漫画を文化遺産として遺す意識が無く、版権事業に溺れ、大ブームが起きても赤塚漫画をアピールしなかったことで起きた当然の結果である。『深夜!天才バカボン』の放送中の今も、赤塚漫画そのものに大きくスポットライトが当たる気配はない。
★
そんな視聴者の「類似性の指摘」に一言あり、Twitter上に呟いたのが『深夜!天才バカボン』で監督、脚本を務め、以前には舞台『男子はだまってなさいよ! 7 天才バカボン』でも作・演出として携わった細川徹氏である。今回取り上げる一連のツイートは、既に“ツイ消し”されているものが含まれている。要約してまとめることに勤めるが、『おそ松さん』以降の赤塚ムーブメントの有り様を深く理解するには切っても切り離せない内容であることから、記事にさせていただく。以下、赤字が細川氏のツイートの要約となる。そこに注釈を付ける形でツイートを読み解きたい。
Twitter 細川徹 @toruhosokawa
→https://twitter.com/toruhosokawa/with_replies?lang=ja
細川氏がシリーズ構成を務めた『しろくまカフェ』の放送終了後、同じキャストで新番組を持ちかけられたという。
→2012年から放送されたテレビアニメ『しろくまカフェ』は、のほほんとした内容に人気アイドル声優をキャスティングしたことを売りにしており、そこにファンが飛びついた。その売り方を『おそ松さん』に転用したことはスタジオぴえろ創業者である布川郁司氏の著書『「おそ松さんの企画術」 ヒットの謎を解き明かす』に書かれている。
新番組に『天才バカボン』を提案するも、『おそ松くん』ではどうかと提案され、細川氏は企画書・全24話の構成・8話までの脚本を作成した。この時点で深夜帯ならではのギャグを展開する為に成長して個性が付いた六つ子を主役とすること、『おそ松さん』という題が誕生していた。
→『おそ松さん』のオリジナリティに当たる部分を作り上げたのは細川氏であったことが明かされた。
その後、細川氏は『おそ松さん』から降りるものの、タイトルと設定の使用許可を求められる。“折れる”かたちで承諾するも、放送された『おそ松さん』第1話は細川氏による“第1話の構造と第2話のネタ”を引用したものだった。
→『おそ松さん』第1話の脚本は松原秀氏によるもの。放送作家でもある彼の経歴は細川氏のそれと似ていることから、空いた穴を埋める形で起用されたのではないかと推測出来る。
細川氏は『おそ松さん』との類似性を指摘されることが「ストレスなので」、「似てると言われるので」裏事情を含んだツイートをしたのだと釈明。「『おそ松さん』は自分が作ったよりも盛り上がったはずだ」「ファンは裏事情を知りたくなかっただろう」とフォロー、謝罪しながらも、のちに一部のツイートを削除した。
追記→株式会社ぴえろの福井洋平氏、エイベックス・ピクチャーズ株式会社・アニメ制作グループの尾崎源太氏によるインタビュー(https://avex.com/jp/ja/contents/shinya-bakabon-interview/)で、この一連のツイートにおける彼らサイドの視点からの発言がみられる。(18.8.14)
★
つまり、細川氏は「『深夜!天才バカボン』って、『おそ松さん』と変わらないじゃん」という視聴者の意見に対し、「ノンクレジットだけど元の元を創ったのは俺だよ!」と言いたかった訳である。そして、彼にとって『深夜!天才バカボン』は『おそ松さん』のリベンジマッチという位置づけで取り組んでいるという意志表明をしたのだ。今回明かされた事実は、『おそ松さん』そして『深夜!天才バカボン』、何より近頃の赤塚ムーブメントの見方が変わってくるものだろう。
そうなると、『おそ松さん』以降の若年層における赤塚不二夫観を作り上げたのは細川氏であると言い切っても過言ではないはずだ。「なるほどなぁ」と唸りながら、記事を締めさせていただく。
コメント一覧(10/1 コメント投稿終了予定)

あ
最新の画像もっと見る
最近の「論考」カテゴリーもっと見る
最近の記事
カテゴリー
バックナンバー
人気記事