のりぞうのほほんのんびりバンザイ

あわてない、あわてない。ひとやすみ、ひとやすみ。

さびしい王様シリーズ/北杜夫

2009年11月14日 22時52分15秒 | 読書歴
101.さびしい王様
102.さびしい乞食
103.さびしい姫君

■ストーリ
 役にも立たない帝王学だけ教え込まれて育ち、恋も政治も知らぬ
 幼児のような王様ストンコロリーン28世。オッパイを見ては、
 「あ、オレンジ!」などと呟いていた奥手の青年だ。
 そんな王様が、私腹を肥やす悪辣な総理大臣への反感からおこった
 革命の渦中で、すこしずつ人間の喜怒哀楽に目ざめ、純真な恋を
 全うするお話。ナンセンスユーモアに溢れたおとなとこどものための
 童話シリーズ。

■感想 ☆☆☆☆*
 本を読んでいる間は、何も考えずに本の世界に入り込んでしまう方だ。
 だから、私にとって、読書感想を書くことは、読んでいる間は
 漠然と感じていた気持ちを言葉で捉えることで、何を楽しいと
 思っていたのか、誰に共感していたのかを再認識する行為なのだと思う。
 書くために考える。言葉を捉えようと、自分自身と向かい合う。
 その行為が私に安心感を与えるから、私は読書感想文を
 書きたくなるのだろう。

 この「大人から子供までの童話」シリーズは読み終わった後、
 「あぁ!面白かった!!」とにこにこしながら本を閉じた。
 にも関わらず、その面白さ、楽しさを言葉で捉えるのが難しい。
 そんな作品だ。

 主人公は、穏やかで優しくて、疑うということを知らない王様だ。
 よくも悪くも、マイペースな彼は、小さいころからの
 環境のせいで世間知らずに育ち、その世間知らずさ故に
 押し寄せる苦労を飄々と受け止め、乗り越えていく。
 いつだって一生懸命だけれど、一生懸命になればなるほど、
 少しずつ、常識からずれてしまうちょっぴり滑稽な、
 でも見ているこちらが優しい気持ちになれる主人公だ。

 だからだろう。
 王様は次から次に苦難に巻き込まれるが
 巻き込まれた先々で、誰かが助けの手をさしのばしてくれる。
 出会った人たちが少しずつ優しさを発揮する。
 人は、自分のことを無条件に信じてくれる人を
 なかなか裏切ることはできない。
 優しい気持ちになって、助けてあげなくては、と思えてくる。
 この本を読んでいると、そういったことを素直に信じたくなる。
 そういった意味でも、この作品はまさしく「現代の童話」なのだと思う。

 王様は富も地位も名誉も求めない。
 王様がほしいと願うものは、
 「子供ができない」という理由で離婚させられた姫君と
 ローラと母親代わりの乳母と腹八分程度の食事。
 できれば、大好きなオレンジがごくたまに食べられるとなおうれしい。
 そんな慎ましやかな願いをシンプルに願い続ける王様は
 多くの苦難を乗り越えて、ほんの少し大人になり、
 なんとかかんとかハッピーエンドにたどり着く。
 そのえっちらおっちらとした足取りがとても愛しい。

 そして、その愛らしさが現在、NHKで放映されている
 人形劇「新三銃士」の雰囲気を思い出させる。
 どの登場人物もあの懐かしさを感じさせる木製の
 手触りやキュートな外観にぴったりと合うと思うのだ。
 長い作品だけれど、ぜひこの作品も人形劇で見てみたい。