コートジボワール日誌

在コートジボワール大使・岡村善文・のブログです。
西アフリカの社会や文化を、外交官の生活の中から実況中継します。

道路はゴミ箱じゃない(2)

2008-10-31 | Weblog
式典の始めに、お祈りがある。まず、ムスリム教徒の若者が、次にキリスト教徒の若者が出てきて、それぞれ神のご加護を祈る。同じTシャツを着ている。宗教の区別なく運動が行われたことを伺わせる。そして全員起立で国家吹奏。お囃子方の鼓笛隊が、国家を演奏し始めると、皆で大合唱になる。

着席して、演説が始まる。何人かが、お決まりの演説をする。メレッグ大臣の素晴らしい発意と、大統領閣下を始めとする政府の支援、賞賛の演説である。じっと座って聴いていると、突然司会者が言い出す。「本日は、外交団から日本大使のご出席を得ています。一言お願いしましょう。」

全く前触れなし。いきなり何千人もの聴衆の前に呼び出されてしまった。ここでうろたえてはいけない。あたりまえのように前に進む。しかし頭の中は大混乱。一体何を話そう。演台に立って、覚悟を決める。大臣方、来賓への祝辞を述べた後、私は何千人と座っている若者たちの方向に向きなおる。

「いろいろ議論をし、いろいろ紙を書く人々は、沢山いる。しかし、街に出てほうきの一掃きが出来る人は少ない。皆さんは、街に出た。」
うぉー、という歓声が、若者たちから上がった。よし、成功だ。
「皆さんのほうきの一掃きは、私に感銘を与えた。皆さんのほうきの一掃きは、多くのアビジャン市民に感銘を与えただろう。ほうきの一掃きが、社会を変えるのだ。」
若者たちが、一言一言に、歓声を上げる。私もそれに応えて、握りこぶしを挙げてみせる。ほとんどアジ演説同然である。

「この運動をはじめたメレッグ大臣と、それを支えた政府に、敬意を表する。メレッグ大臣は、先ごろ日本に来られた、日本の友達だ。しかし、誰より私が敬意を表したいのは、若者たち、学生たち、生徒たち、ご婦人方、この運動に参加した皆さんだ。この運動に参加したことを、皆さんは誇りに思うべきだ。」
大歓声が上がった。潮時だ。メルシーと言って、引き揚げる。メレッグ大臣が喜んで、握手をしてくれた。

続いて、メレッグ大臣が鼓笛隊のお囃子を受けて登壇。彼も、若者たちこそアビジャンを変える「軍曹たち」だ、と呼んで、若者たちの大歓声を受ける。そして、演説を続ける。
「皆さんは、この話を絶対に信じない。でも、私に同行した部下がそこに居るので、彼に聞いてみたらいい。本当の話だ。5月に横浜に行った。日本が主催した国際会議だ。街に行くと、ゴミ一つ無い。私は部下に命令した。そんなはずはない、よく目を凝らして探してみろ、吸殻、ちり紙、ポリ袋、何か落ちているはずだ。そして、われわれは敗北した。何一つゴミが落ちていなかった。われわれが見つけたのは、小さな箱だった。表にこう書いてあった。ゴミはこの中に。街をきれいにしましょう。」
歓声と共に、皆が拍手をする。私も、大きく頷いてみせる。
「その時に、まさに私は思いついたのだ。よし、アビジャンでこの運動をやってみようと。」

大統領御名代のディビ経済財務相の演説を締めくくりに、後はお祭りになった。女性歌手が登場し、大声援を浴びながら、何曲も歌う。誰ですか、と傍らの来賓に聞く。「ベティカですよ、若い人々に大人気の。」若者が自分の席で踊っている。メレッグ大臣が席を立って、歌うベティカのところに行き、お札を何枚も振り掛ける。他の人々も、次々にお札を渡す。その度に、歓声が上がる。

賞状とトロフィーの贈呈ということになる。運動を各地区ごとにまとめた代表、学校の先生方、スポンサー企業、一人一人呼び出され、賞状とトロフィーが授与される。これが延々と続く。日本大使にも、とこれまた突然言われ、私も賞状とトロフィーを頂いた。閉会式に参加しただけなのに。そして、何千人と列席する若者たちに、係員が手分けして一人ずつ賞状を配る。メレッグ大臣は、マイクを取って言う。
「皆さんの全員が、賞に値する。そして、私は後ほど、皆さん全員に、トロフィーの代わりに、小額ながら賞金の入った封筒をお配りする。」
おおー、と地を揺るがす大歓声。若者たちが、いっせいにテントを飛び出して、小躍りする。鐘や太鼓を打ち鳴らしている。

ディビ経済財務相が、メレッグ大臣に何やら耳打ちしている。メレッグ大臣は、再びマイクを取る。
「今、大変なニュースが飛び込んできた。ディビ大臣が、バグボ大統領からの皆さんへの感謝の印として、2百万フラン(約50万円)を進呈するという発表だ。みんなで分けて使ってくれ。」
おおー、どころではない。テントを飛び出した若者たちが、走り回っている。蜂の巣を突付いたような騒ぎだ。何やら応援歌のようなものを歌いだした集団もいる。鼓笛隊も音楽を囃しはじめる。来賓たちも立ち上がって拍手をして、どうやらお開きのようだ。

どうも、「ソニアの掃除」とは少し精神が違うような気もするが、ここはアフリカだ。ゴミ問題に皆が関心を向けていることは、それがアフリカ流であっても、良いことだ。私は、配られたゴミ袋パックとトロフィーを手に、会場を辞した。

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