コートジボワール日誌

在コートジボワール大使・岡村善文・のブログです。
西アフリカの社会や文化を、外交官の生活の中から実況中継します。

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ネリカ米の故郷

2008-12-13 | Weblog
こちらに来てから、ほっとしていることが一つあって、それは人々が米を食べることである。大使館近くの社員食堂でも、ちゃんと米の献立が出てくる。肉や魚の煮込みソースを、白米のご飯にかけて食べるものだ。これは日本人には嬉しい。伝統的には、主食はキャッサバ芋だったようだ。でもキャッサバは、芋を剥いて、発酵させて、砕いて、水にさらして、絞って、乾燥して、蒸して、と調理が大変だ。精米さえしてあれば後は炊飯だけと、調理が簡単な米食が、だんだん普及しているようだ。

ところが、その米は全部輸入米である。高級スーパーだけでなく、街中の庶民の店にいっても、タイ米などアジア諸国産の米袋が山積みになっている。地元コートジボワール産の米はないのか、といってもきょとんとしている。地元で米を作っていないというわけではない。先日、ベテ族の村に行ったら主食は米だといっていたし、アワさんの農業協同組合でも稲田を作っていた。でも、すべて自分の村での消費用であって、商品としては作っていない。商品として作っても、格段に廉価なアジア米には太刀打ちできないのだろう。アフリカ米は収量が少ないのである。

米食の普及につれて、アフリカでも米の生産を高めようという試みが、西アフリカ諸国の間での協力によりはじまった。「西アフリカ稲開発機構」(英語:WARDA、仏語:ADRAO)という国際機関である。西アフリカの17国が、国連などの支援を得て、資金を出し合って米の研究を始めたものである。この研究機関が新しい稲を開発した。新アフリカ米という名前の頭文字を取って、「ネリカ米」という。

アフリカ米はアフリカの土地に合って強靱で、病気にも強いが、残念ながら収量が少ない。一方、アジア米は収量が多いが、アフリカではうまく育たない。両方を掛け合わせて、両方のいいところが出る種類を作ればいいだろう、という発想から研究がはじまった。「西アフリカ稲開発機構」での研究の結果、1994年に新種「ネリカ米」を作り上げた。その後、何年もかけて改良、様々な種類の稲の新種を、ネリカ米として開発している。

ネリカ米には、いくつかの長所がある。まず、収量が多い。1本の稲穂に付く籾の量が多いだけでなく、株が直立するように品種改良しているので密集して植えることが出来る。だから単位面積あたりの収量が格段に多くなる。それから、種を蒔いてから収穫できるまでの期間が、比較的短い。ネリカ米の品種にもよるが、90日から120日程度と、これは通常の稲よりかなり短い(30日から50日程度短い)ので、悠々二期作が出来る。1年に2回は収穫できるのだ。もちろん、アフリカの乾燥気味の土地にも生育できる種類であり、病害虫にも強い。

さて、アフリカ自身が、自らの地域協力の枠組みで、アフリカの必要に応じた稲を、アフリカの研究によって開発したという話である。この稲を通じて、アフリカの食糧生産を高め、食料自給率を高めれば、飢餓や貧困の問題の解決にもつながるであろう。とても勇気づけられる話ではないか。米の国として、日本はこの研究をしっかりと応援することにした。1997年から、「西アフリカ稲開発機構」に資金を供給し、稲研究の日本人専門家も派遣している。できあがったネリカ米を、今度はいろいろな国で使ってもらうための、普及活動もてがけている。

ところが、この過程で大きな問題が生じた。コートジボワールの紛争である。「西アフリカ稲開発機構」は、その本部をコートジボワール中部の都市、ブアケに置いていた。2002年に紛争が起こった時、ブアケは反政府軍の傘下に下り、南北分断により孤立してしまった。おまけに、2004年11月、政府軍の軍用機が、ブアケのフランス軍基地を爆撃した事件で、たまたま基地にいた米国人研究者が巻き込まれて亡くなった。彼は、この研究機関で、稲の研究の柱になっていた重要人物だった。

「西アフリカ稲開発機構」は、移転の決断をする。そして、2005年にコートジボワールの地を離れ、ベナンのコトヌに本部を移転した。それ以来、コトヌで研究活動をしている。「ネリカ米」は、アフリカの力でアフリカの食糧問題に取り組む、とても有意義な武器である。コートジボワールは、「ネリカ米」の故郷なのに、紛争を起こしてしまったことで、研究の本部をベナンに取られてしまった。これも、この国が紛争によって失ったものの一つである。

(注)「西アフリカ稲開発機構」は、西アフリカ以外のアフリカ諸国においても加盟国が増えた結果、2003年に「アフリカ稲センター」と改称している。
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