コートジボワール日誌

在コートジボワール大使・岡村善文・のブログです。
西アフリカの社会や文化を、外交官の生活の中から実況中継します。

人間の顔をした科学(1)

2009-09-21 | Weblog

熱帯半乾燥地(semi-arid tropics)という聞き慣れない言葉がある。1年のほとんどを熱い太陽の下で過ごす地域、しかしながら、全く農業にならないサハラ砂漠とは異なって、限られた期間(2~4ヶ月)には雨が降る地域である。インドのデカン高原の他に、アフリカ大陸のサハラ砂漠の南側一帯から、アフリカ大陸南部にかけて、この熱帯半乾燥地が広がっている。

この地域に住む人々は、限られた雨を頼りに、農業を営む。短い雨季の間に、農作業を行って収穫までこぎつける。でも雨の降り方は気まぐれで、うまい具合に降ってくれれば収穫があるけれど、雨が必要な時期に必要なだけ降らなければ、たちまち旱魃になり飢饉になる。そんな大変な地域にも人が住んでいて、苦労しながら貧困と闘っている。こうした熱帯半乾燥地の農業生産を増進させることは、食糧問題の解決や、貧困撲滅に大きく寄与することになる。

そうした地域における農業技術について、各国が共同で研究する国際機関がある。「国際半乾燥熱帯作物研究所(International Crops Research Institute for the Semi-Arid Tropics)」、頭文字をとって「イクリサット(ICRISAT)」である。本部はインドにあって、その西アフリカ支部が、ニジェールの首都ニアメに置かれている。日本もこの研究所の活動に参加しているというので、私はこの研究所を訪ねることにした。

ニジェールの南部地域は、典型的な熱帯半乾燥地である。ニアメの街を抜けて、ニジェール川に沿って車で走る。広大な緑の平原には、畑が連なり様々な作物が育っている。ミレット(英millet、仏mil)という背の高い穀物が、長さ30センチほどの棒状の穂を付けている。高粱(英sorghum、仏sorgho)もたわわに実っている。別の場所では、落花生の畑が広がっている。このあたり、先週60ミリの降雨があったので、お百姓さんたちは大変喜んでいるという。乾季にはおそらく赤茶けた大地に戻ってしまう土地なのだろうけれども、こうした限られた雨を利用すれば、このように豊かな実りの大地が出来るのだ。

「イクリサット」の建物が現れた。出迎えの研究者の人たちの中に、中村智史さんの姿がある。中村さんはJIRCAS (国際農林水産業研究センター)から派遣され、土壌改良の方法について「イクリサット」で研究をしている。さっそく一緒に、野外の研究農場を回る。区画された展示農場に、比較対象のために様々な作物が植えられている。

この地域で最も主要な穀物といえば、ミレット。このミレットを作付けするにも、いろいろな工夫がありうる。それを、一つづつ実際の畑に実演展示している。
「他の作物と一緒に作付けすることにより、収穫が向上する、肥料の必要量が少なくなる、などの効果があるのです。」
と、中村さんの説明である。

はじめに、ササゲ(英cowpea、仏niébé)との並作である。ミレットが4列、その隣にササゲが4列、並べて植えられている。
「ミレットだけ作り続けると土地が痩せます。そこで、ササゲと年々交代で植える。マメ科のササゲは、土地に窒素を固定してくれるので、その後にミレットを植えると、よく育つようになります。」
ササゲは、アフリカでは豆を食料にする。そして、葉や茎は家畜にとっての飼料になる。それで根の働きで、土地を肥やすことにもなるのだから、とても有用な作物である。

ミレットは背の高い作物で、2メートル以上になる。展示農場では、普通1メートル間隔で植えられるミレットの間に、背の低いハイビスカスを植えるという作付けを、展示している。ハイビスカスは、こちら西アフリカ地域では、農作物である。その赤い花を摘み取って、煎じてビサップというワイン色の飲み物にして飲む。

「ハイビスカスはいろいろな働きをします。まず、通常ミレットしかない畑の隙間にハイビスカスを植えることで、農家の副収入になります。また、最近の研究で、ハイビスカスにも窒素固定の働きがあることが分かりつつあります。これが正しければ、肥料も少なくてすむようになります。」
と、中村さんの説明である。

中村さんは、土壌の肥沃度をいかに高め、いかにそれを保持するかという課題について、研究している。アフリカの大地は、赤土で粘性がないため、ミレットの苗どうしに裸土の間隔があると、大水が来て表土が流れ出してしまう。それを防ぐことが大きな課題となっているという。
「その間隔の地面に、ハイビスカスの株を植えておけば、株が根を張って、雨が降っても土壌が流れ出さないようになります。そのおかげで、施した肥料などが無駄にならず、効果が保たれるのです。」

別の畑では、オクラに交じって、鳩豆(pigeon pea)が植えられていた。オクラの害虫にとっては、鳩豆のほうがおいしい。食害が鳩豆のほうに行き、結果としてオクラが守られるというわけだ。こういう植え方にすれば、農薬を使わないで済む。

私は、耕作といえば、単独の種類だけを植えた畑を思い浮かべる。しかし、複数の種類の作物を一緒に栽培すれば、除虫、施肥、土壌維持など、さまざまな効果が期待できる。そういえば、アフリカに来て畑を見ると、いろいろ混ぜて植えてあることのほうが多い。一見だらしない農法のように見えるけれど、どうもこちらのほうが、自然の摂理にかなっているらしい。

(続く)

 「イクリサット」研究所の玄関

 これが高粱(コウリャン)

 これがミレット

 ミレットに実った穂

 別の種類のミレット

 ササゲとミレットを交互に植える

 ミレットの間にハイビスカスを植える

 中村さんと研究所の同僚


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