コートジボワール日誌

在コートジボワール大使・岡村善文・のブログです。
西アフリカの社会や文化を、外交官の生活の中から実況中継します。

キャタピラの恩知らず(8)

2010-04-24 | Weblog
ようやく葬式の準備が始まった。すでに村の長が亡くなってから、4ヶ月が経っている。ロベールは、この地方出身の大臣ほか、地方のお偉方を訪ねて歩き、葬式への参加と貢献を求めた。皆、ロベールが大統領に会って、お金を貰ったと知っているのだが、政治の顔役としては、それでも何かしてみせなければならなかった。というより、ロベールはもう大統領と懇意であるらしいし、出世のためにはセネガルの呪術師にお金を払うより、口利き料をロベールに払った方が効果がありそうだ、と思われた。

国境の向こうの国(注:西隣のリベリアのこと)に、携帯電話のかたちをした棺桶を買いに行った。そして、ジンやウイスキーを大量に買い込んだ。あちらの国で買った方が、はるかに安いのである。椅子やテントなどの会場設営を頼み、音楽隊とそのための発電機を頼み、霊柩車を手配し、そして葬儀の日が近づいた。

村の長の遺体は、葬儀の3日前に首都に運ばれた。首都の下町のこの地方出身の人々が固まって住む地区で、お通夜が営まれた。すでに新聞各紙に通知が掲載してあり、多くの人々が集まってきた。ロベールは涙を流しながら、音楽隊にお金をばらまき、娘たちにお金をばらまいた。皆が、ロベールこそ真の指導者だと讃えた。そして、皆であの大統領の前で歌った歌を合唱した。女性たちが、ロベールは政治家であるとともに芸術家だと讃えた。訪れた人々は、朝まで踊り続けた。

翌日、首都から村に霊柩車が到着し、村人たちは地面にのたうち回って悲しみ、婦人たちは着ていた衣装を引き裂いて悲しんだ。村の長の遺体は、携帯電話の棺桶に収まり、真っ黒な衣装を着せられていた。白い手袋と、黒いサンダルを履いていた。皆が、棺桶の周りを廻って敬意を表した。音楽隊に、聖歌隊が加わった。隣の国で買った酒類を飲んで、男どもは全員、婦人方も何人も酔っぱらった。人々は深夜まで踊った。男たちは娘たちと、小屋や車の中に消えていった。

村の長とのお別れの日が来た。村人たちは順に、村の長に最後の挨拶をした。国会議員は大統領の偉業を讃える演説をし、村の長にはあの世からいついつまでも大統領を守護してくれと懇願した。携帯電話の蓋が閉じられた。ロベールは棺桶を担ぐ親族を指名した。4人の親族は、棺桶を肩に担いだときから、もう恍惚の状態になっていた。村の長の突然の死亡は、村の人々全員に、魔法使いの関与を確信させていた。これから村の長の遺体が、その魔法使いはどこのどいつかを明らかにするのだ。

ロベールは棺桶に向かって言った。
「伯父上よ、さあ行って、誰が殺人者かを指名して下さい。」
棺桶が担がれるや否や、不思議な力が働いて、村の狭い道を辿り始めた。人々は棺桶の行く先を追った。棺桶は、ある家の前で止まった。棺桶の担ぎ役は、棺桶を動かそうとしたけれど、棺桶は再びその家の門扉に戻ろうとした。明らかである。この家に、村の長を呪い殺した魔法使いがいるのだ。門扉を開いて出てきたのは、ゲデオンの母親であった。

ゲデオンの老母は、もう随分前から足の傷が化膿して治らず、呪術師のどんな医薬で治療しても駄目で、杖をついていた。村人たちは怒りの声を上げた。老母は、村の広場に引き出された。素っ裸にされ、自分は魔法使いだったと白状しろと、こっぴどく叩かれた。老母は否認した。国会議員が、自ら唐辛子の粉を取り出して、老母の目に塗りつけた。老母は否認した。さらに人々は老母を殴り続けた。ついに、老母は白状した。私は魔法使いで、村の長の魂を食べ、羊に変身させた。

他に仲間がいるだろう。老母はさらに白状するまで殴られた。老母は言い渋った挙げ句、二人の老人の名前を挙げた。彼らも広場に連れてこられた。彼らも素っ裸にされ、目に唐辛子の粉をこすりつけられ、とことん殴られた。彼らも、自分は魔法使いだったと白状した。棺桶は、これで安心して墓場に向かった。村の全員も、ようやく安心した。誰が魔法使いであったか判明したからだ。

埋葬の後、人々は広場に戻って、3人の魔法使いを殴り続けた。ゲデオンも、母親を殴った。俺にはやっと分かったぞ、なぜ俺がうまく学業の道に進めなかったか。息子に殴られながら、老母は数年前に交通事故で亡くなった父親の死も、自分の仕業だったと白状した。ゲデオンは、老母が気を失うまで木の棒で殴り続けた。皆が夕食を終えて戻ってみると、ゲデオンの母親は死んでいた。もう2人の魔法使いは、官憲がしょっ引いて牢獄につないだ。彼らはそこで、数ヶ月後に死んだ。誰も彼らの死を悲しまなかった。

こんな盛大な葬式は、見たことがない。誰もがこの葬式を賞賛した。携帯電話の形をした棺桶は素晴らしかった。音楽隊も酒類の質も、素晴らしかった。ロベールは予備費として取っておいたお金を持って町に出かけ、3日後にそれを使い果たして帰ってきた。

ゲデオンは魔女の息子だった。村人の間では、自分も魔法使いだということが暴露されないように、母親を自ら叩き殺したのだ、ということになった。ゲデオンは村を出て、それきり戻ってこなかった。ロベールは、棺桶担ぎ役には、一人8万フランずつ支払った。棺桶担ぎ役たちは、あの時は本当に神懸かりになったのだ、と言いつつ、誰かが彼らの気分を害することをしたときには、今度はお前を指名してやるぞと脅したのである。

【解説】悪名高い「棺桶担ぎ」の描写である。未だにこうした風習が残っているのか、私は自分の目で見るまで信じないつもりである。ただ、こちらの人々と話すと、やはりかなりの割合で、魔法使いとは言わずとも、超自然の力が存在し、自分たちの生活に影響力を行使しているのだ、と真剣に信じていることが分かる。

(続く)

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