コートジボワール日誌

在コートジボワール大使・岡村善文・のブログです。
西アフリカの社会や文化を、外交官の生活の中から実況中継します。

広告

※このエリアは、60日間投稿が無い場合に表示されます。記事を投稿すると、表示されなくなります。

たった一人の祝賀会

2010-12-04 | Weblog
昨日(12月3日)は、天皇誕生日の祝賀会の日である。いや、祝賀会の日であった。もちろん、このような緊張の中で、開催できるわけはない。涙をのんで、中止した。中止に至る経緯と、私の思い悩みについては、また別の機会に書くことにしよう。ただ、これから書く昨日の動きの叙述は、そういう予定の日であったということを、踏まえている。

一昨日(12月2日)の夕刻に、バカヨコ選挙管理委員長が、避難先のホテルで、「ウワタラ候補当選」を宣言した。その夜に、ヌドレ憲法院長がテレビに出て、その宣言は間違いで、「憲法院が結果を発表する」と述べた。憲法院の結果発表は、「数時間以内に」と言ったけれど、結局翌朝までは、何も出なかった。

火曜日(11月30日)に新たな大統領令が出され、夜間外出禁止令は、来週月曜日(12月6日)早朝まで延長された。その時点で、私は、天皇誕生日の祝賀会の中止を決めた。中止を決めたが、ただで転ぶ気はない。私は渾身の気持ちを込めて、「コートジボワールの友人への言葉」を書き上げた。そして、それを報道各社に送付した。明日の新聞に載ればいいが。

そうこうしていると、正午前になって、チョイ国連代表から電話がある。至急に相談したい。国連に集まってくれ。またまた、閑散とした街に車を飛ばして、国連の建物に入った。
「さきほど連絡があって、憲法院の発表が数時間以内にあるということです。」
チョイ代表は、欧米諸国を中心に集まった、10人ほどの大使たちを前に、そう告げる。

「私は、憲法院が選挙結果を「確定」すれば、それを「認証」する立場にあります。そのために、国連にも一部ずつ配布されている、2万ヶ所の投票所からの開票調査の、読解を進めてきました。その結論は、バカヨコ選挙管理委員長が発表した「暫定結果」を正確に裏付けるものとなりました。したがって、もし憲法院の選挙結果が「バグボ候補の当選」という内容で出る場合は、国連は認証できないという結果になります。私は、憲法院による「バグボ候補の当選」宣言が出るや否や、国連本部で記者会見を開き、その選挙結果は認証できない、とはっきり述べます。よろしいですね。」

よろしいも何も、それしか選択肢はないだろう。でも、チョイ代表が改めて私たちにそう問う裏には、重大な意味がある。国連は、バグボ大統領の再選を認めることができない、と宣言するということなのだ。つまり、バグボ政権側と対決することになる。そして、選挙管理委員会の「暫定結果」のほうが正しいと述べるということは、ウワタラ候補が新大統領となるべきだ、と言う立場を鮮明にすることなのである。

「そして、国際社会のしっかりした支持が、今こそ必要です。ニューヨークの国連では、安全保障理事会がただちに会合を開いて、当選はウワタラ候補であり、バグボ大統領の再選は認められないという結論を出すでしょう。バグボ候補は、急いで大統領の宣誓をするでしょうが、それは認められない。」
私たち大使にも、腹を決めなければならない時が来るのだ。つまり、宣誓式に出るかどうかで、各国がバグボ大統領に対する立場を鮮明にすることになる。

「そして、その安全保障理事会は、今日の午後には開かれるでしょう。そこで、しっかり私の立場を支持してほしい。」
日本も安全保障理事会の理事国であるから、チョイ代表は日本も頼りにしている。日本の理事国(非常任)の任期は、2009年から2010年の2年間であり、今年末には任期が切れる。来年になると、こういうふうに頼りにされることはなくなるかもしれない。

私は、朝からバグボ大統領に面会を申し込んでいた。大統領に、このままだと危機の事態を迎える、そうならないように、きちんと収める責任がある、と言いに行くつもりでいた。そうしたら、午後4時から会いましょうという連絡が来た。私は公邸を出ようとしていたら、とつぜんテレビ画面に、ヌドレ憲法院長が登場した。ついに来たか。
「2010年11月28日に行われた、大統領選挙の第二回投票について、憲法院はその確定結果を次の通り宣言する。」
ヌドレ憲法院長は、長々と決定文を読み上げ始めた。

「12月1日にバグボ候補によって提訴された不服申立てについて、ブアケ、コロゴ、ブンディアリ、カティオラ、・・・の地域において、投票の真正さを疑わせる結果をもたらすような、政党代表の不在、投票箱の奪取、権限ある者以外による開票調書の扱い、投票行為の妨害、投票結果の改竄、暴力行為の行使といった、不適切事象があると認められた。」
そう述べてから、各地において見られた、そういう具体的な事件を、どこそこの投票所では、どんなことがあった、こんなことがあったというかたちで、一つずつ説明する。

「以上の事象があることを勘案し、バンダマ谷州のブアケ県におけるウワタラ候補の得票数244,471票は、無効とする。」
予想通り、北部各州のウワタラ候補の票は、無効にするようである。しばらく聞いていたが、大統領官邸に行く時間が迫ってきたので、公邸を出る。大統領官邸に着いて、待合室で待っていると、どこかからテレビの音が聞こえて来る。州ごとの開票結果を、順次読み上げているようである。

突然、ウワーという歓声。どんどんと足を踏み鳴らす音。「バグボ大統領当選」が宣言されたのだ。シャンペンの瓶が運ばれていった。なんということだ。私は「当選」が決まった直後のバグボ大統領に、最初に会う大使になってしまった。まさか祝意を述べるわけにはいかない。そのうち、大臣や顧問や友人や、いろんな人々が待合室を通り過ぎて、大統領執務室に飛びこんでいく。知っている人が多いので、皆通りがかりに、私に握手していく。私が来ているというのは、祝意を表明するためだ、と見られるのだろうか。

しかも私は、憲法院が「バグボ当選」と宣言してはいけない、そうなって事態が後戻りできないところまで進む前に、バグボ大統領に政治的な妥協を図るように、働きかけるつもりで来たのだ。ところが、もう少しの差で、その後戻りできないところを過ぎてしまった。私は、もう終わってしまった話をしにくるという、とても厄介な状況に置かれた。私は覚悟を決めた。率直に、懸念だけを伝えよう。このままでは、今からたいへんなことになる、人がたくさん死ぬようなことになってはいけない、と。

私が執務室に呼ばれると、バグボ大統領が、ボウン・ブアブレ開発相と二人だけで、私を迎えた。私は、もちろんのこと、祝意など表明しない。
「大統領、本日予定していた、わが天皇陛下のお誕生日の祝賀会を、御承知の状況により中止せざるを得ないことを、お伝えに参りました。それに際して、友人として心から心配していることがあるので、それをお伝えしたい。」
私がそう言うと、バグボ大統領は、あなたが何を言いに来たのかは分っている、という顔をしている。

私は、大統領の目をじっと見て、一気に伝えたいことを述べた。
「私の懸念は、このような成り行きでは、国民を二分してしまうことになる、ということです。同じ国の、異なる機関が、それぞれ異なる候補を当選者と認定する。このような異常な事態です。たとえ、憲法院が正式に認定した、と主張されても、国民の半分は貴大統領の当選に納得しない。それはせっかくワガドゥグ合意の政治プロセスを経て、時間をかけて国民の和解と統一を図ってきたものを、元の木阿弥にするものです。それだけならまだしも、必ずや両者の間で衝突が起こる。衝突により、多くの人々が命を失います。暴力は断じていけない。暴力と流血を避けるため、指導者として責任ある行動をとる必要がある。」

バグボ大統領は、ふんふん、と言って聞いている。私の訴えを聞き終わると、よし説明してやろうという感じで、話しはじめた。
「今度の選挙では、第一回投票は、ほんとうに平和のうちに行われました。ところが、決選投票になって様相が一変したのです。選挙運動から投票にかけて、暴力と脅迫が充満しました。「新勢力」の軍服が、村々を横行したのです。そして今起こっていることというのは、ウワタラ候補が露骨な暴力で、大統領選挙をもぎ取ろうとしているということです。私たちは、北部が軍備解体を進めていないことを知っている。「新勢力」の軍が、そのまま国の北半分を支配している。国の制度を統一させようとしないことを知っている。それでも、選挙を行うことには応じたのです。ところが、その温存していた兵力と暴力を使って、選挙をもぎ取ろうとしている。そんなことは、断じて認められない。憲法院は、まさにその部分の選挙を無効と判断したのだ。もし、行われた選挙が再び南北分裂を生んで、失敗だったというのなら、それはワガドゥグ合意の失敗だったのだ。私は、この合意には、最初から失敗する要素があると見ていた。だから、署名などしたくなかったが、他に選択肢はなかった。でも、選挙管理委員会が、各党派の政治闘争の場になるなど、正常な選挙ではありえない。それは、ワガドゥグ合意が間違っていたからだ。」

さらに、バグボ大統領の説明は続く。私は黙って、反論しない。論争しに来たのではないからだ。
「わが国は法治国家である。法律と制度のもとで、統治が進む。今は選挙の直後だから、人々は熱くなっているけれど、しばらく時日が経てば、分ってくる。国の最高司法機関が、当選を認定した候補が、大統領になるのである。二つの異なる国家機関が異なる決定をしたと言われるが、片や国の最高司法機関であり、片や選挙管理委員会は政府のごく一部でしかない。どちらの決定が優先するかは明らかでしょう。そして、軍と暴力で当選をもぎ取ろうとした候補が、大統領になってはいけない。これは、2000年の大統領選挙で起こったことと、まったく同じなのです。あのときは、軍服(ゲイ将軍)に対して、法秩序(バグボ野党党首)が最後には勝ったのです。」

「もちろん、両候補者の支持者の間で衝突が起こって、流血沙汰になる危険があることについては、よく承知しています。だから、自分は治安部隊には細かく指示をして、そういう事態が生じないように努力している。しかし、治安部隊には十分な催涙弾さえない。これは国際禁輸措置に原因がある。流血が防止できない一因は、国際社会にもあるのです。」

私は、体を前に乗り出して、そうした議論は全部知った上で来ている、と言った。
「私は、大統領を政治家として評価してきました。大統領の演説を聞くのを、楽しみにしてきました。何より、大統領はコートジボワールの歴史で始めて、多党制民主主義の選挙を実施した大統領です。危機の遠因である「象牙性」の問題に決着をつけ、国民に身分証を発給した大統領です。その大統領が、選挙の最後の段階で、全国の衝突により何十人、いや何百人と死者が出るような事態を許してしまうということになると、これはそうした高い評価を台無しにするということになります。そして、70万人もの投票を無効にしないと大統領になれなかった候補ということになります。「無効票の大統領(president d’annulation)」と呼ばれるかもしれない。そのような形での勝利で、どうしてこれから5年間の任期を過ごしていけるでしょうか。大統領は65歳で、若い。まだまだ活躍が期待できる。ここはひとつ、ウワタラ候補とじっくり話をして、国民を救うために大きな気持ちで妥協を探れないものでしょうか。」

バグボ大統領は、私の言いたいことを分かったのか分からないのか、それには直接答えない。
「ウワタラ候補とはもう長い付き合いだ。彼は2002年の北部反乱について、自分には責任がないと主張していました。あれは、「新勢力」の仕業で、自分には関係ないことだ、と。ところが、今回の選挙では、言葉を翻して、自分は「新勢力」と一体だということを言っています。今度のバカヨコ委員長による選挙結果発表だって、ウワタラ候補が彼を匿い、自分のホテルに連れて来て発表させているでしょう。ああいうやり方は、信用できない。ウワタラ候補とは、電話では話すのですよ。彼が私の当選をお祝いしに電話をかけてくれば、妥協の余地もあるのだが。」

このままで進めば、これからどうなるか、それを大統領に正確に把握しておいてほしい。私は話を続ける。
「国連(UNOCI)は、憲法院の選挙結果を、認証できないと言うでしょう。その後に、国連の安全保障理事会が開かれ、その結論を踏まえて、貴大統領を大統領とは認められないという声明を出すでしょう。日本は、理事国の一つです。国連がそういう認識に立つ以上は、日本としてもこのままでは大統領の再選を受け入れられないのです。この事態は、国際社会とコートジボワールとの間に、大きく亀裂を生む事態です。私は、こうした事態は、この国の将来には大きな害を及ぼすと、とても心配しているのです。ましてや、この後大きな騒乱が発生し、死者が何百人と出るようなことがあると、大統領の責任が問われるでしょう。こうした見通しを私は、たいへん危惧する。誰を大統領として選ぶか。それは、コートジボワール人の選択の問題であると、私は最初から申し上げてきました。しかし、もし大規模な死傷者が出るような事態を導くならば、国際社会として干渉せざるをえなくなる。」

この私の議論に対する、バグボ大統領の反応はもう分っている。
「私は、国の主権を守る職責にある。国連が何を言おうが、わが国の制度が憲法に従って導いた結論は、主権事項なのだ。主権と秩序を守るためには、最高指導者というのは、時に冷酷にならなければならない。」

私は、もう言うべきことはすべて言った、と述べた。あとはバグボ大統領が冷静に現実を見て、きちんと判断を下すことを期待するだけだ。
「大統領と、11月28日の深夜にお会いしましたね。あのとき、大統領は、自分はコートジボワールで、ケニアやジンバブエやギニア(の選挙)で起こったことは見たくない、と言われた。今そのためにこそ、国家の指導者としての本領を発揮されることを期待します。暴力の拡大が不可避になりつつあります。それを防がなければなりません。大統領に勇断をくだす覚悟が求められています。真の国家指導者として、コートジボワールが直面している現実をしっかり捉え、どうすれば流血を避けられるかを、真剣に考えてください。私の願いは、それだけです。」
握手をして、頭をぶつける挨拶をした。バグボ大統領は、いつでもいいから、また話に来てくれ、と言った。それでは、また午前1時にお伺いすることにしますよ、と答えた。

執務室を出たら、大統領官邸はもうお祭り騒ぎだ。人々が抱き合い、お祝いにはせ参じる人たちでいっぱいになっている。私は人目を避けるようにして、その人々の中を通り過ぎて、車に向かった。この大勢のなかで、私はたった一人、笑顔のない人間である。

憲法院長の発表した結果は、次の通りであった。
(1)投票総数:4,081,765票
(2)有効票数:3,993,209票
(3)投票率:71.28%
(4)投票結果:
   バグボ候補: 2,054,537票(得票率51.45%)
   ウワタラ候補:1,938,672票(得票率48.55%)
(5)ブアケ、コロゴ、フェルケセドゥグ、カティオラ、ブンディアリ、ダバカラ、セゲラ各県の投票は無効とする。

そして、チョイ国連代表は、直ちに声明を出した。
「憲法院の発表した選挙結果は、北部の各県における投票を無効にしたうえで、バグボ候補を大統領当選としたものであるが、これは何らの事実上の根拠に裏付けられていない。一方、国連は、自ら開票調書の分析を行ったところ、バグボ候補の側から出された不服事項に該当する開票調書を全て除いたうえで計算したとしても、その結論は選挙管理委員会によって12月2日に声明された選挙結果を裏書きする。すなわち、ウワタラ候補が当選したという結果に変わりはない。」

私は公邸に戻ると、もう夕刻である。私は、天皇誕生日の祝賀会が始まるはずであった夜6時半に、一人で公邸のサロンに座っている。夜間外出禁止令だけれど、祝賀会の中止を知らずに来るお客さんがいるかもしれない。だから、そういうお客さんはお迎えして、御挨拶をしようと、私は待機している。警備の担当官を除いて、大使館員は全て帰宅させた。現地職員も、帰宅させた。だから、私はサロンにたった一人である。

夜8時のニュースの時間になった。テレビ画面に、ジェジェ国連代表が登場する。彼は、バグボ大統領の側近で、外交顧問である。そして、国連(UNOCI)の声明を、激しく非難した。
「チョイ国連代表の声明は、国連憲章の規定に重大に違反するものです。国連の一官僚に過ぎない人間が、一国の大統領が誰であるべきかを指定するというのです。こんなことが起こるのは、この国がアフリカだからです。しかし、コートジボワールは、堂々とした国連加盟国なのです。国の正式な機関、最高の司法機関として、憲法院が大統領選挙の当選者を発表した。チョイ国連代表の声明は、彼自身しか拘束するものではない。もし彼が、このような振舞いを続けるならば、わが国からの国外退去を求めるしかない。」
国連に対する、正面からの対決を宣言した。

私は、公邸のサロンに一人で座りながら、携帯電話をかけて、大使たちで意見交換のために集まろうと提案した。夜9時から私の公邸に集まれないものか。しかし、チョイ代表はとても行けないと答えてきた。もはや安全上、外を出歩くと大いに危険があるからだ。米国大使も、夜は慎重にしたいと言ってきた。オバマ米大統領は、すでにウワタラ候補を支持すると、声明を出していた。サルコジ仏大統領も、ウワタラ候補支持を打ち出したから、フランス大使も同じ事情だろう。

私は、サロンに一人で座っている。外はまだ、静かである。それにしても、たいへんな日になってしまった。大切な天皇誕生日の祝賀会を、こんなかたちで迎えることになろうとは。しかし、私は溜息などをついてはいられない。これからの対応に備えなければ。
ジャンル:
ウェブログ
コメント (3)   この記事についてブログを書く
« 戻ってきた委員長 | トップ | 画面から消えた大統領 »
最近の画像もっと見る

3 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
Pourquoi tjr (Kenya Naritome)
2010-12-04 21:50:34
なぜ この土壇場で こんなことになってしまったのでしょう。
誰もが負けたくない気持ちは ありますが それを仕組みで解決するのが 民主主義では・・
Samedi dur (Kenya Naritome)
2010-12-04 21:53:14
大変な土曜日になってしまいましたね

でも この場面こそ コートジボアールにとって、大事なときです

心から応援しています
Unknown (chikwangue)
2010-12-05 00:07:29
今度こそはと期待して固唾を呑んで見守ってきましたが、最悪の展開となり、残念でなりません。

大使がコートジボワール国民のために奮闘しておられることに、敬意を表します。わたしは、コートジボワールの人々が平和で民主的な日々を取り戻すことを熱望しています。

決して諦めることなく、どんな状況になろうとも、粘り強く対処されるようお願いします。私達にも日本国民としてできることがあればよいのですが。

コメントを投稿

Weblog」カテゴリの最新記事

関連するみんなの記事