コートジボワール日誌

在コートジボワール大使・岡村善文・のブログです。
西アフリカの社会や文化を、外交官の生活の中から実況中継します。

しない言い訳

2009-05-08 | Weblog
今年に入ってこのかた、兼轄している他の国への出張続きである。だから、そちらでの話題がいろいろあったこともあって、コートジボワールの政治の動向、つまり大統領選挙がどうなるのかについて、気が付いたらもう随分記事に書いていない。大丈夫だろうか、と思うが大丈夫なのである。なぜなら、今年に入ってこのかた、少なくとも表向きには、殆ど動きがないのだから。

思い起こせば、昨年、11月30日投票日という選挙日程が、直前に延期になった。それ以降、新しい日程が決定されることを心待ちにしているのだが、5ヶ月を経ても、まだどうなるのかが分からない。延期になった理由は、選挙の準備が整わないから、ということであった。その当時、国民の身分認定作業が実質的に殆ど始まっていなかった。だから、有権者を確定することができず、選挙をしようにもこれでは投票できない。それは仕方がないだろう、ということで、ひとまずは納得せざるを得なかった。

その身分認定作業は、今は大方仕上がっている。すでに6百万人が登録を終えたと発表されている。全部で8百万人の登録を必要とすると推計されていたから、まずまず十分な数字を達成したといえるだろう。コンピューターのデータベースに登録された名簿から、18歳に満たない未成年者などを除くなど、有権者を割り出して確定し、選挙人名簿を作ることが出来るはずだ。それでは大統領選挙に進もう、ということになるかと思うが、そうならない。

ここに別の障害が出てきた。北部「新勢力」軍の武装解除の問題である。もともと、コートジボワールの和平への道筋として、大統領選挙できちんとした大統領を選ぶことと、南部の政府軍側と北部の「新勢力」軍側との間で統一を図ることと、二つの課題があった。これまでの了解としては、まず新大統領を選んで、正統性に疑いのない新政権をつくって、その新政権のもとで、軍についても統合していく、つまり北部に残る軍事勢力の武装解除は、選挙実施のプロセスとは独立して進めていくということであった。

ところが、昨年末ころから、バグボ政権を支える「人民党(FPI)」が、北部勢力が武装解除を進めるのが選挙より先だ、というワガドゥグ政治合意以来棚上げしてきた旧来の主張を再び持ち出してきた。北部の「新勢力」が、軍事的な力を維持したまま選挙に臨んでしまうと、「新勢力」軍支配地域では、「人民党」支持者は投票所に行けず、公正・透明な選挙が不可能である、という理由である。また、北部勢力が望まない選挙結果が出た場合に、結局内乱に後戻りするじゃないか、という危険も指摘された。だから、北部勢力は、選挙に先立って武装解除をするべきである。「人民党」は、アフィ・ヌゲサン党首をはじめ、そう言って北部の「新勢力」を非難し、「新勢力」から来ているソロ首相に詰め寄った。

こういう難題が出てくると、ブルキナファソのコンパオレ大統領の登場である。コ ンパオレ大統領が調停者となって、首都ワガドゥグに、コートジボワールの南北それぞれの代表を集め、この問題をどうするか鳩首協議した。その結果、「大統領選挙の2ヶ月前には、北部勢力の武装解除を完了させる」こと、そういう新しい合意が結ばれた(12月22日、ワガドゥグ合意第4次補足合意書)。妥協が成立して激しい応酬は収束し、政治危機は避けられたが、大統領選挙と武装解除の順序が逆転した。まず武装解除。それからはじめて大統領選挙。

それで、大統領選挙を早く実施して、コートジボワールの政治を早く正常化してほしい、と思ってきた国際社会は、深いため息をついたわけである。武装解除という、新たな障害が、大統領選挙の新たな条件として、立ちはだかってきたということだからだ。そもそも北部勢力が、簡単に武器を手放して、軍事要員を解散させるなどとは、はじめから期待薄である。そこで、国家の再統一と選挙を、武装解除に先行させようと、国際社会は考えてきた訳である。ところが、今次補足合意で順序が入れ替わった。それに、新たに資金が必要、ということにとなった。除隊させる兵士には、十分な手当てが必要だ、という。

こういういきさつを経て、今年に入ってから、いったいいつになったら大統領選挙をやるつもりなんだ、という憤懣が、国際社会に強くなってきた。国連の安全保障理事会は、4月までには行うように、とコートジボワール側の当事者に求める決議案を作ろうとしたけれども、コートジボワール側が強く反対した。この表現は落とされ、交渉の結果、当事者たちに「直ちに(without delay)」に選挙日程を明らかにするように求める、というところに留めることになった(安全保障決議1865、1月27日)。

そのうちこんどは、いったんは解決していた資金の問題が、再び浮上してきた。選挙を行うにも資金がない、というから、国際社会として既に支援はしてきたのだ。選挙実施のための必要資金368億フランのうち、国際社会側が負担を約束した217億フランは、もう十分集まっている。日本だって、投票箱2万2千個の提供を約束して、もう投票箱は用意出来ている。それなのに、やはり資金が不足だというのは、一つはコートジボワール政府側が負担するべき部分の資金が、現金が国庫にないために、ちゃんと手当て出来ないということなのだ。そこに加えて、武装解除を進めなければならないという問題も出てきた。そのための資金、つまり除隊兵士への手切れ金や、職を失った元兵士などへの職業訓練などのための資金が、至急に必要だということになった。

コートジボワールの国庫が、なぜ必要なところに予算を回せないのか。莫大な債務があって、利払いに追われているから、という。それで、日本をはじめとする債権国が集まって、コートジボワールが貧困撲滅計画をきちんと進めていくという条件で、債務救済を行うことになった(3月27日)。世銀も、国家予算への支援計画を実施し、最初に無償供与を1.5億米ドル(4月14日)、さらに世銀からの累積債務返済支援として1,800万米ドル(4月27日)、総額1.68億米ドルが拠出された。

どうも、すぐには選挙が出来ない理由が、次から次へと湧いて出てくる。私自身もそうなのだが、「しない言い訳」は、簡単に見つかる。机の上に片付けなければならない仕事があるのに、しない。人に謝りに行くとか、当然やらなければならないことを、しない。他の仕事があるとか、今日は体調が悪いとか、言い訳はいくらでも出てくる。日常生活であれば、これは意欲の問題だ、ということになる。意欲があるならば、言い訳は出ない。交渉においても、相手が言い訳をはじめたら、それは意欲がないという意思表示である。

コートジボワールの選挙に関しては、どうだろうか。身分認定、武装解除、資金不足。次々に選挙が出来ない理由が出てくるのが、意欲の欠如ゆえとは思いたくない。身分認定作業などが、はじめは困難と思われていたのに、だんだん進んできて、ほぼ達成されつつある。かつて「新勢力」側が嫌がっていた、「武装解除を行ってからでないと透明な選挙は不可能」という議論も、堂々と出されるようになった。選挙が現実味を帯びて、皆が真剣に考え始めたゆえに、かえっていろいろな難題が出てくるということなのだろうか。

コートジボワールの政治家の誰もが、早く大統領選挙をやるんだ、と言っている。それは良いことだ。その言葉から一歩進めて、こういうときこそ、自分で何としても、難題や障害を乗り越えて選挙に持ち込んでやる、と意欲を示す人、行動にあらわす人が出てきてほしい。早く、この消化不良の状態を脱出するようにしてほしいものである。

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