コートジボワール日誌

在コートジボワール大使・岡村善文・のブログです。
西アフリカの社会や文化を、外交官の生活の中から実況中継します。

カレンダーと国の顔

2010-01-29 | Weblog

年末年始の時期になると、執務室の棚の上に、たくさんの賀状が並ぶ。欧米のクリスマスカードの習慣で、二つ折りの色とりどりのカードが方々から届くので、それをしばらく立てて、飾っておく。そして、賀状とともに、カレンダーや卓上日誌が届く。カレンダーは、年の始めに、新しいものに掛け替える必要があるから、誰もが必要とする。かつ一旦壁に掛ったら、一年を通じて飾ってもらえる。広報用の頒布品としては、とても効果が高い。

日本もカレンダーを配っている。日本のカレンダーは、「生花カレンダー」といって、上半分に美しい生け花の写真が入ったものである。日本も、というより、私の知る限り、外交団の中で、年末年始にカレンダーを配りはじめたのは、日本が最初である。昔は、日本では、銀行などで貯金をすると、カレンダーの入った大きなマッチ箱などをくれたものだ。そうした日本の商慣習から、誰か頭のいい先人が考え付いたに違いない。

いったいいつ頃から、日本はカレンダーを作って配っていたのだろう。私がはじめて在外赴任した1980年代のはじめに、すでにカレンダー配りをしていた記憶がある。調べてみると、なんと1963年の外交青書に、生け花カレンダーを配ったら好評だったと書いてある。かれこれ半世紀に及ぶ歴史があるのだ。

「生花カレンダー」は、生け花という画材の美しさ、生け花だけを全面に印刷したデザインの簡素さから、とても評判がよい。1年12ヶ月それぞれ、四季折々の花が、さまざまな生け花になって現れる。ひと月分の日付が1頁に表示されていて、書き込みがしやすい。それもさすがに、長年にわたり毎年配り続けてきたので、人気は確立している。多くのオフィスや施設で、もう指定席がある。日本の外交官なら、年末になると、あのカレンダーを今年も忘れずに届けてほしい、自分だけでなく秘書にももう一部欲しい、と頼まれた経験が必ずあるはずだ。

しばらくは日本の専売特許だった、この年末にカレンダーを配るという妙案は、いつまでも日本の独占というわけにはいかなかった。今では多くの国が、広報用のカレンダーや、卓上日誌を印刷して、年末に配るようになっている。今年、私の手元にも、そうしたカレンダーや卓上日誌が、いくつか届いている。

大使館の数が限られているコートジボワールだけれど、ロシア、中国、スイスから、私のもとにカレンダーが届いた。スイスのカレンダーは、さすが観光立国である。国内の美しい風景をパノラマ仕立てにした立派なもので、紙の箱に入っている。中国は、毎年中国の工芸品を意匠に取り入れた、美しいカレンダーを送ってくる。今年は扇子の絵模様を、毎月の絵柄に取り入れた。前任地のウィーンでは、ドイツやトルコからも美しいカレンダーを貰った覚えがあるから、今年もこれらの各国で、カレンダーを製作しているだろう。

本格的な卓上日誌を送ってきたのは、フランス大使館である。文化・広報が武器となることをよく知っている国だけあって、さすがにお金をかけている。ここのフランス大使館の特製で、表紙を開くと、お馴染みのフランス大使が、挨拶文とともに顔写真で登場している。引き続いて、フランス大使館の業務や担当者の紹介があり、そして、美しいフランスの風景や、地図などが印刷されている。コートジボワールの地図や写真も一緒に印刷されていて、実用的にできている。

これらの各国に負けないように、日本も「生花カレンダー」を配って、しっかり飾ってもらおう。私の大使館でも、年末に手分けをして、コートジボワール、ベナン、トーゴ、ニジェールの各国で、政府の各部局、公共機関、大学などの文化・教育施設、報道関係者、その他日ごろ世話になっている人々に、配って回った。

ところが、今年については残念なことがある。日本の「生花カレンダー」が、今年の版から、かなり貧相になってしまった。大きさが一回り小さくなっただけでなく、1頁に2ヶ月分のカレンダーを配するようにした。こうすれば確かに、頁は半分で済む。昨年の版まで付いていた、頁を固定するプラスチック部分も無くして、穴を開けるだけにした。これで安上がりになり、経費削減が出来たというわけである。

どうだろうか、と私は考える。たしかに外交経費は、何千万円か節約できたのかもしれない。でも、その一方で、全世界で人々が、カレンダーを掛け替えようとして気付く。あれ、今年は日本のカレンダーは、随分安上がりになったものだ。日付の数字も小さくなり、見辛くなった。いや、日本は無駄撲滅でしてね、出来るだけ安く経費を切り詰めよというのが、国民の声なのです、という答えが通じるだろうか。そうか、日本はこのカレンダーまで無駄だと考える国になったのか、と思われるのではないか。

自ら誇りとするところを、外に向かってきちんと打ちだすことは、とても大切だ。人間関係でも、表情の明るい人、きちんと物事を発言する人のほうが、そうでない人よりもずっと周りに好かれる。そして、世の中でも成功するのだ。だから、海外への広報というのは、その国の表情を明るく伝えるための、大事な外交手段である。それなのに経費削減といわれると、広報関係の予算が、真っ先に犠牲になるというのは、たいへん残念なことである。

これまで1年を通じて、日本の誇る生け花の文化の良さを示し、日本の顔を控え目ながらもしっかり伝えてきた「生花カレンダー」である。それが、一回り小さいサイズに、半分の薄さになった。日本の顔が、小さくなったような気がする。これが、日本の国力も一回り格落ちになったんだな、と受け取られ、国への信用を、陰らせることにつながりはしないか、心配である。

 日本の「生花カレンダー」
左が昨年版、右が今年版

 中国のカレンダー

 スイスのカレンダー

 ロシアのカレンダー

 フランスは、特製卓上日誌を作った。

 扉を開くと、フランス大使が登場

 引き続き大使館のスタッフ紹介

 フランスとコートジボワールの地図が並ぶ。


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1 コメント

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本当に (G.Kobayashi)
2010-02-01 16:18:53
何が実際に無駄で何が無駄でないのか?
難しい問題なのかもしれませんが、コストの問題では無く、自分に仲間に故郷に国に胸を張って誇れることが一番大事だと思います。

単純な事業仕分けが流行っていますが、一番大事な議論がされていないような気がして日本の行く末に不安を覚えます。

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