コートジボワール日誌

在コートジボワール大使・岡村善文・のブログです。
西アフリカの社会や文化を、外交官の生活の中から実況中継します。

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チンパンジーの話(2)

2010-03-06 | Weblog

チンパンジーは、アフリカに行けばどこにでもいると思ったら、大間違いだ。昔は確かにどこにでもいた。でも最近になり、ものすごい速さで、絶滅に向かっている。18年前に比べて、西アフリカ地域のチンパンジーは、9割近くが失われた。つまり、個体数が10分の1になってしまった。その最大の原因は、森林破壊である。たくさんの個体で形成する一つの集団が、自然の中で餌を得ていくためには、最低で25平方キロの面積の自然林が要るということである。そんな纏まった森は、今急速に消滅しつつある。

森林消滅に加えてというか、森林消滅の結果、チンパンジーたちと人間との接点が増えていく。チンパンジーたちは、森を離れて畑に出て、作物を荒らす。そうすると村人たちは、チンパンジーを害獣と見做して、駆除してしまう。一部には、民間信仰のために殺されるチンパンジーたちもいる。チンパンジーの骨を砕いて、子供に食べさせれば、強い子供に育つと信じている人々がいる。チンパンジーの肉を、好んで食べる人々がいる。昔はチンパンジーもたくさん居たから、少しくらい食べても影響はなかった。今は、密猟があると、集団の維持に大きな悪影響が出る。

特にチンパンジーの保護が遅れているのが、コートジボワールである。熱帯雨林が急速に減少していることに加えて、1990年代の政府の財政難、2002年に始まる紛争などにより、野生動物の保護などは全く顧みようがなくなった。その結果今や、チンパンジーは絶滅の危機に瀕している。西部に4500平方キロの広さで残されている「タイ国立公園(Taï)」に、約500頭から1000頭の数を数えるだけになっている。緊急に、チンパンジーの保護を図らなければならない。

コートジボワールの「タイ国立公園」をはじめ、リベリア、シエラレオネ、ギニアに及ぶ熱帯雨林地域に生息するチンパンジーは、非常に特異な点がある。それは、道具を使うということだ。石を使い、木の実を割る。地面の石の上に木の実をおいて、もう一つの石か木片で叩いて固い殻を潰す。こういう技術を持っているのは、世界でも西アフリカのチンパンジーだけである。

「コンゴからカメルーンや中央アフリカにかけて分布するチンパンジーは、道具を使って木の実を割るという知恵を持ちません。その代わり、こちらの地域のチンパンジーは、細長い木の枝を探してきて、蟻塚に差し込んで、白蟻を取り出して食べるという行動をとります。アフリカのチンパンジーの中に、石割文化圏と、蟻塚文化圏があるわけです。」

チンパンジーにも社会文化圏とは、たいへん面白い。こういう行動は誰か、人間が教えたのだろうか。
「彼らが自分で見出したようです。チンパンジーたちが木の実を割っている場所を、考古学の手法を使って調べると、何万年も前の殻の遺物が出てきました。そんなに昔から、彼らは木の実を石で割るという文化を、身に付けて伝承してきたわけです。」

そして、西アフリカのチンパンジーたちの中でも、おおよそこの技術を身につけているのは、ササンドラ川の西側に住む集団だけだという。ササンドラ川というのは、コートジボワールの西を南北に流れる大河である。その大河の東側にくると、石で木の実を割る知恵があるチンパンジーは見つからない。大河が、文化の伝播を阻んできたのだ。

そのような文化を伝承している貴重なチンパンジーたちを、人間が絶滅させるようなことがあってはいけない。単に種として、チンパンジーを守ればいいという話ではない。チンパンジーの集団生活を、その社会文化を、守ってやらないといけない。だから、彼らの住処である熱帯雨林の保護は、世界的な財産を守るという課題なのだ。

ここでも、地元住民との協力関係が課題である。「野生チンパンジー基金」では、「タイ国立公園」のチンパンジーたちを、周辺の村落との協力関係を築きつつ、保護していく活動を展開している。具体的にはどういう風に、保護活動を行うのか。
「まずは、チンパンジーがどれだけ貴重な動物であるかを、村人たちに伝え、分ってもらいます。そのために、村に行って野外劇を行います。」

チンパンジーに扮した人たちが、歌を歌いながら、チンパンジーの生態を演じる。人間と同じ社会生活を送り、道具を使って木の実を割ったり、子供を可愛がったりする。そのうち、猟師に扮した人が現れ、母親のチンパンジーを殺して、子供たちを路頭に迷わせ、幸せな家族を破壊する。
「アフリカの社会は、口承伝術の文化ですから、本や文書ではなく、演劇や詩歌で伝える方が有効なのです。そして、子供たちの吸収が最も早い。子供たちは、チンパンジーを殺してはいけないというメッセージをすぐに理解して、チンパンジー保護の尖兵になってくれます。」

そして、村の人々との間で、討論会をする。どうして村では、チンパンジーを殺すのか。殺さないようにするには、どうしたらいいのか。
「畑に作物をとりにきたチンパンジーに、どうやって対応するのか。猟師を連れてきて銃で殺す、というのが当たり前であったところを、手を叩いて追い払うだけにする。そのように、村人たちに説いて、分ってもらいます。」
ここでも、森林の周辺に住む人々の理解と協力が、決定的に重要である。

チンパンジーが自然の中で生き残っていくためには、ただ食料や住処があればいいというわけではない。彼らが社会生活を送れるだけの、空間や世界が必要である。その世界も、孤立しているとやがて種としては衰退してしまう。なるべく広い範囲で、チンパンジーの社会どうしが交流や接触を持たなければならない。「タイ国立公園」のチンパンジー群と、その西隣、国境を越えてリベリアの熱帯雨林に住むチンパンジー群が、互いに接触できるように、その間に「森林の回廊」を保全する必要がある。コートジボワールとリベリアの両国政府に、そうした「森林の回廊」を維持するように、働きかけている。

生物多様性、つまり種の保全の問題が、大きく取り上げられるようになっている。人間の文明生活が、多くの生物に存続の危機をもたらしている。アフリカというと大自然がいっぱいなので、あまり問題がないのだろうと思ってしまうけれど、とんでもない。チンパンジーのように、ここ数十年で激減、今すぐに対策を講じなければ絶滅してしまう動物が、たくさんある。そしてその対策は複合的であり、人々が意識して努力を重ねなければならない。

 道具を使って木の実を割るチンパンジー

 家族で群れる。

 棒を使う子供のチンパンジー

 棒をなめる。

 何かメモしているのか。

 花の研究

写真提供(copyright):Wild Chimpanzee Foundation

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