住職のひとりごと

広島県福山市神辺町にある備後國分寺から配信する
住職のひとりごと
幅広く仏教について考える

「知られざる真実-勾留地にて-」(イプシロン出版企画刊)を読んで

2008年07月11日 07時39分46秒 | 時事問題
高名な経済学者である植草一秀先生が昨年8月に上梓された著作である。ご存知の通り先生は、二度にわたる不名誉な事件に巻き込まれ、辛酸をなめられた。未だにその名誉回復にはほど遠い。しかし本書を読むならば、日本の国がいかにあるべきか、そのために何が必要か、人々はどうあらねばならないかを常に考え、意気軒昂にも奮闘されている先生のお姿を彷彿とさせられる。

なぜあのような事件に巻き込まれねばならなかったのか。多くのマスコミ新聞のみを鵜呑みにする人々には理解しがたいことだろう。新聞テレビはすべて正しいことを報道していると考えている人々は、深い霧の中から這い出ることは出来ない。どんな立派な出版社の本でも、どんなに地位や権威のある人の本でも、そこには正しいものと不確かなものを混同し、読者に間違った認識や行動を誘発することもあるだろう。

ましてや新聞は、かつて非常時にはどのような報道が行われてきたのかを考えれば、私たちはどうその紙面を読むべきかを理解できる。テレビは、益々大衆を愚鈍化させることに狂奔している。私たちは何をもって正しい知識情報を得ていくのかを真剣に考えねばならないだろう。中国がネット規制に躍起になっていることを考えれば、私たちの最後の砦はそれしかないのかもしれない。

今をどう生きるべきかと教えるのは仏教の教えそのものである。仏教は、四聖諦を説く。苦・集・滅・道の四つの真理だ。苦諦は、まず現実をしっかり認識することを教えている。私たちの取り巻かれている現実。私たちの置かれた状況をしっかり把握すべき事を教えている。私たちが何によって苦しみあえいでいるのか。その根本の原因をしっかり観察せよと言われる。働いても働いてもザルで水をすくうがごとく人々が貧しく、日本からお金が消えてしまうのはなぜか、しっかりその状態を知らねばならないということだ。私たちは、先生の著作によって日本の現状がなぜもたらされたのかを知ることができる。

集諦は、その原因を突きとめよと言う。私たちはみんな欲を抱えている。その欲による弊害、損失を知り、厭い離れるべきであると教えている。バブルであわい欲に走った者が大きく損失を抱え、立ち直れなくなった人も多い。しかしその欲はさらに大きな欲を持つ者によって覆われている。大きな世界構造の中で貶められてきたその大枠の原因にも気づかねばならないだろう。私たちははたして誰のために働いているのか。直近の長期政権によってもたらされた多くの負の遺産が私たちを苦しめている。そのことが先生の著作から手に取るように分かる。

滅諦は、それらの欲を滅して、私たちがいかにあるべきか、何を目標に生きるべきかを教えている。ある程度の欲は生きていく上でなくてはならないだろう。いびつな精神によって歪んだ思考によってもたらされる施策を廃して、多くの人々が特に弱い立場の人々も安心して暮らせる社会が求められている。先生の求められる理想の社会が理路整然と述べられる。

道諦は、実践すべき具体的な道筋を示してくれる。どういう見解のもとに、何を考え発言し、どう生きるべきか、何をもって食を得、何を求めていくべきか、心の安らぎを求め、落ち着いた心を獲得するためにどうあるべきか。私たち一人一人の精神的自立にこそ、その鍵があるであろう。

先生は、望ましい政治のあり方として、七つの提案をされている。①高齢者による社会貢献活動の提案など弱者へのいたわりをすべての人が共有する。②派遣請負など企業優位の労働制度改革が格差を生んだ。同一労働同一賃金を義務づける。③環境保全の立場から護岸工事など自然を人間のために制御するのではなく、自然をそのまま保護する公共事業のあり方が必要。

④米国と友好関係は維持しつつも国家としての尊厳を大切に日本の考えを世界に発信する外交に見直しをはかる。核武装には反対する。⑤お粗末な教育支出を他国並みにして、学力重視の、秩序を守り指導命令に従順な教育を廃して、子供たちに自分で物事を考え自分で判断する自主性を身につけさせる。⑥社会のエネルギーを失う少子化を国家の火急的な問題として取り組む。⑦メディア情報を鵜呑みにしない情報の虚偽を自ら選別できる賢い国民を育成する。

植草先生と私は奇しくも同じ年に生まれている。生まれも東京で、もちろんレベルは違うが同じ都立の高校を経て公立の大学で教育を受けてきた。同じ時代の空気を吸い同じような環境で育ち、共感する部分が少なくない。本書は、政治経済に関する専門分野の内容の他に、自らの生い立ちや学生時代の葛藤なども交え先生の人生観が滲み出た好著である。近年の諸問題に関する深層を理解する上でも誠に役に立つ。

人類の歴史を改めて学ばれたとあるが、勾留されながらこれだけの内容豊富な著作をなされた博学さに驚嘆する。この本を読めば今の日本の国が置かれた状況が理解できる。そして、どう私たちはあるべきかが分かる。自分の人生は出来すぎであるとの認識があった先生に降り懸かったご不幸は法難とも言えるものであった。その艱難辛苦の中で燃えたぎる思いを私たちに伝えんとされたのが、本書である。是非、多くの人に読んで欲しい。

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1 コメント

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Unknown ()
2008-07-12 21:49:01
!!!
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