つぶやき、或は三文小説のやうな。

自由律俳句になりそうな、ならなそうな何かを綴ってみる。物置のような実験室。

読書の楽しみ

2017-11-01 21:06:37 | 文もどき
出先で立ち寄った書店で本を買い、電車やらバスやらカフェやらで読む。なんとなくのあたりをつけてから続きを読み始める。読みさしの少し前くらいからはじめるのが好きだ。あるいは、うんと前からおさらいするのも。
読書好きだと思われていて、土産や小さな贈りものにしおりをよく頂く。キャンペーンやスーベニアショップでブックカバーを頂いたり、買うこともあった。
かばんの中の本を取り出す。某有名書店の淡いライラック色の紙カバーの角が減り、いじけたように白く毛羽立っている。清々しい色のカバーも店内のレイアウトも好ましい書店である。レジ前に挿してあった美術館の割引券も、ページの連なりから少しはみ出た部分の印刷は擦れて消えていた。凝った型抜きを施した素敵なものだったのに、惜しいことをした。身が入らずに持ち歩く時間ばかりが増えると、どうもいけない。
昨今、むき出しの表紙にお目にかかる機会はめっきり少なくなって、そういうものは背表紙に図書館のインデックスがついている。たまに、時代小説を片手にしている人を見るが、畳んだスポーツ新聞の官能ページ並みに貴重である。
つり革の隣、ご婦人の手にある文庫本はきらびやかだ。艶やかな革製のブックカバーにはシルクのリボンがついている。今は表紙裏に指で押さえているが、読み挿しのページに挟むためのものに違いない。
ふと、書棚のすみで本と本の間に挟まれて薄っぺらく縮こまっているはずの、艶消しの赤いブックカバーのことを思い出す。純金製やら世界遺産の型抜きやら何やらの、引き出しにしまったままのしおりのことも。
空いた席に座る間際、青年がジーンズのポケットから一冊、引っ張り出した。すっかり尻の形に変形した文庫本は擦り切れて表紙カバーさえ失われている。読み込まれているらしいその本は、ずいぶんと美しく見えた。