座敷ネズミの吉祥寺だより

吉祥寺って、ラッキーでハッピーなお寺ってこと?
中瀬の吉祥寺のあれこれをおしゃべり。

『蠅の帝国』

2013-03-23 | 読みました
22日の夕刊(3面)に
林家永吉さんという元スペイン大使の方が
「オレがやらねば誰がやる」と題して 寄稿していらっしゃいます。

1941年に 外務省の留学生試験に
「徴兵されなかったら」という条件付きで合格なさった方だそうです。



恐る恐る出頭した徴兵検査で 徴兵官は

「おまえは スペインへ留学することになっているんだね。
 
 お国のために尽くす途には変りはない。

 しっかり勉強してこい」

と言って、「第3乙種」にしてくれたとか。

(「第3乙種」は すぐには兵士として徴集されないそうです。

 林家少年は 思わず涙が出たそうです。)



90歳を超えた今も、徴兵官の顔を思い出し、
「いまやらねば いつできる」と机に向かい、
「オレがやらねば 誰がやる」と気力を振り絞っていらっしゃる
というお話でした。

偉い方ですね~!

私とは、対極にいらっしゃる方です。

最近、「じゃあ、いつやるか? 今でしょう!」
という予備校教師の言葉がウケていますが、
紙面のお話は もっともっと 重みのあるお言葉でした。






さて、本日、私は この拙いブログの読者の皆さまに 
お詫びしなければなりません。

『蠅の帝国』について、です。



「次回は、その『蠅の帝国』について 書こうと思います。」
と書いたのは、去年の夏。

暑い、暑い、8月の事でした。

(覚えていらっしゃいましたか? 大汗)

その後 ひと言も 『蠅の帝国』に触れないまま、
今になってしまったのです(泣)。

読書の秋を過ぎ、年末を過ぎ、三が日を過ぎ。

松も取れ、節分を迎え、お彼岸真っ最中の現在。

バカ陽気になったり、肌寒さを覚えたり。

ソメイヨシノが咲き初めた今日この頃。

皆さま、いかがお過ごしでしょうか?(滝汗)



先日、ようやく読み終わりました、『蠅の帝国』(嬉泣)。

(『蠅の帝国――軍医たちの黙示録』帚木蓬生著、新潮社、2011.7.20)













この本は 
戦場に赴いた 
名もなき軍医15人の戦争体験が、
「私」という一人称で語られる本です。

その15人の中に 
徴兵検査にまわされた 軍医殿の話があります。

(「徴兵検査」p.85~)

先の 林家さんに当たった徴兵官とは 違う人のようです(笑)。



その話によると、軍医はすべて将校、とう軍規があるのだそうです。

医師は残らず軍医として使う、
という下心も 見てとれないことはない、と書いてあります。

苦労(?)して 甲種合格を免れた彼は、中尉の二等級。

お給料は、
本棒は 月85円、
動員部隊なので2割の加棒、
居残り料やなんやかやが入って、
食費なんぞを引かれて、百円余り、らしいです。

下宿代は二食付きで 月25円。

日用品と小遣いで25円近く使っても、
月給の半分は 丸々残ったそうです。



しかも、徴兵検査の旅行中は、
生活費は出張旅費でまかなうから、
月給は丸残り。

その給料で この軍医殿は 電蓄とレコードを買いました。

シューベルトの<未完成>、
ストラビンスキーの<春の祭典>、
ベートーベンの<第八>、
モーツァアルトの<小夜曲>など。

<未完成>は ブルーノ・ワルターの指揮のもの、
福山の店にはなく、大阪から取り寄せたとか。

凝り症の方なんですね~(笑)。



その他にも、いろいろ 楽しい事があったようです(笑)。

ですが、
軍医殿にとっては、この徴兵検査が青春の終わりだったそうです。

そして 規定では 軍医生活は2年だそうですが、
「何年にもわたる軍医生活が待っていた」
と この章は終っています。






それはそれは、いろんな方のお話が並んでいます。

皆さん、それぞれに 壮絶な体験をしてらっしゃいます。

ただ一人、乗馬の自慢ばかりしている人の章がありまして。

なんなんだ、こいつは! と腹立たしく読んでいましたら、
最後に 馬と別れて 南方に赴く、
というところで 終っていました。

外地に行ってからの その方の体験は そこには
ほとんど記されていません。

最後の一文は
「そしてタイ、ビルマと西進し、
 インパール作戦に参加、全滅した。」
となっています。






前にも書きましたが、
医師たちは「軍医補充制度」というもので召集されました。

「ほとんどすべての医師が 根こそぎ、動員された」
と著者 帚木蓬生氏(精神科医でもある)は語っています。



「体験そのものが 医学医療の枠内におさまらず、
 しかも敗戦であったために、忘却されるのも早かった。

 加えて、その体験は、 戦争の荒波に翻弄されているだけに、
 正当な医療とはかけ離れた 苦渋に満ちたものになった。

 後世に伝えるよりは、胸の内に秘める道を、
 多くの軍医は 選んだのではなかったか。」(あとがき)



多くの事を考えさせられる本でした。






これも以前にも書きましたが、
この本、手に持つのも重く、バッグに入れるのも大変で
なかなか読めませんでした。

私の手首には 負担になるのです。



本の内容、これがまた重く、
眠れぬ夜に読んでいて 余計に眠れなくなった事もありました。

ようやく読み終えて ホッとしています(苦笑)。

この本、お貸しできます。






この本の続編があります。

『蛍の航跡』という本です。

やはり 大きくて 重くて 字が小さくて、 
そして 挿絵がありません!(涙)

そしてそして、2100円もします!

早く、文庫にならないかしらね?(笑)




最新の画像もっと見る

コメントを投稿