残念で無念な日々

グダグダと小説を書き綴る、そんなブログです。「小説家になろう」にも連載しています。

True Fears チャプター4:4 カーチェイス

2014-01-16 07:32:04 | True Fears
 人気のない、生活感のない街の中をピックアップトラックが走って行く。ハンドルを握る伊月の運転は最初は危なっかしかったが、しばらくすると慣れたのだろう。異常に車体が跳ねたり、唐突に蛇行したりということはなくなった。ピックアップトラックに席は二つしかなく、助手席に健太が座っている今、雄一と徹平は掴めるものが少ない荷台でひたすら揺られていなければならないのだ。

「そういや相沢と和田って付き合ってるのか?」

 トラックが中州の街を通り抜け、東側に掛かる橋に差し掛かった時だった。そう唐突に言った徹平に、「んなわけないだろ」と雄一は即座に返した。

「そうなのか? 一緒に行動してるって言ってたから、俺はてっきり……」
「お互い最初に出会ったってだけだ。初日は状況がはっきり理解できなかったからな、とりあえず人間に出会ったら一緒に行動したかったってだけだ。んで、ずるずる一緒に居続けて今にいたる」
「まあ、それもそうだよな。相沢と和田が釣り合うわけないし」

 その言い方に若干イラッとしたが、雄一は何も言わなかった。徹平の言う通り、自分と和田が釣り合うわけがない。方やクラスで空気同然の存在、一方和田は明るい性格で顔もいいし、男女問わずに人気があった。今まで数多くの男子生徒が和田に告白して、玉砕していったことは人付き合いの少ない雄一でも知っている。
 それだけに何故和田が自分と一緒に行動し続けてくれるのか不思議でならなかったが、あまり考えないことにした。考えれば考えるほど、ネガティブな事ばかり頭に浮かんでしまう。

「ちょっと二人とも、そろそろ川を越えるけど準備はいい?」

 荷台で話し込む二人に、運転席後部の窓を開けて伊月が言った。見れば既に橋は目の前に迫っている。この数日雄一と伊月はこの街をあちこち探索して回ったが、この橋の向こうへは未だに行ったことがない。この先に何があるのか、マップにも表示されていないのだ。
 ここから東へ向かって進み続ければ、やがてマップの端に到達するだろう。そうなればこのクソゲームから脱出することが出来る。しかしその過程で何が待ち受けているのか、雄一たちはまだ知らない。

「準備も何も、行くしかないだろ」
「そうだな。健太、姿勢を低くしてろ。この先何があるかわからないからな」

 そう、進むしかないのである。ここでグダグダやっていたところで状況が好転するとは思えないし、この先どう行動するにしても情報は要る。進んで脱出は不可能そうだったら現実世界から救援が来るのを待つ、脱出できそうだったら突っ走る。それだけだ。
 小学生の健太は戦力になりそうにないので、安全そうな助手席に座ってもらっている。徹平の指示に従って健太が身体が外から見えないようダッシュボードの陰に隠れると、伊月はトラックを発進させた。

「ほら、返すよ」

 車が走り出し、雄一はそれまでベルトに挟んでいた、徹平から取り上げたリボルバーをグリップを向けて差し出した。徹平は差し出された銃と雄一の顔を交互に見比べた後、不思議そうな顔をしながら言う。

「いいのか?」
「ああ、もしお前が変なことを考えても、俺たちは余裕で返り討ちに出来るしな。それにはっきり言って、俺たちは誰かを守る余裕なんてないんだ。自分と弟の身は、自分で守れ」

 荷台には他にも集めた銃が置いてあるが、そちらは徹平に渡さなかった。強力な武器をホイホイ渡すほど徹平たちを完全に信用したわけではないし、万一襲われた場合は逃げるだけだ。戦うのは最後の手段で、その時に武器を渡しても遅くはないだろう。

 トラックが橋を渡りきると、そこには中州の西岸と同じく建物が疎らな広い大地があった。どの建物も今まで見てきたように、生活感は一切ない。同時に人の気配も全く感じられなかった。

「他の生徒たちはまだこの辺まで来てないってことか……?」
「あるいは殺されたのかも。どうする、このまままっすぐ行く?」

 幸運なことに、道路はきちんとアスファルトで舗装されていた。道路は東へと続いていて、その先には森が見える。森の中に何が潜んでいるかは考えたくもない。大上のことだ、森はモンスターの巣となるようプログラムされているに違いない。

「いや、森は迂回しよう。危険は出来るだけ避けたいし」
「アタシも賛成、二人もそれでいいよね?」

 その問いに、徹平と助手席の健太は頷いた。どのみち二人は雄一と伊月についていくしかない。
 伊月がハンドルを切り、北側へと進路を変える。もし森が南側の海まで続いていたら、森を通り抜ける事無く東へ向かうのは不可能になる。

 道の脇に疎らに建つ家々は、どれもどこかで見たようなデザインだった。もしかしたら家のデザインを使いまわしているのかもしれない、と雄一は思った。いくらリアルで高性能な軍用シミュレーターを流用したとはいえ、しょせんはゲーム。マップに何千とある家屋を一々個別にデザインしていたのでは採算が合わないと判断されたのだろう。
 だがそのせいで、雄一は自分が今どこにいるのかわからなくなりかけていた。似たような建物ばかりを見ているせいで、今迄自分たちが通り過ぎてきたエリアとの既視感を覚えてしまうのだ。もしマップがなければ、雄一は自分の居場所を完全に見失っていただろう。

 しかしそのマップも中々当てにならなかった。マップには自分たちが辿ったルートとその周辺図が表示されるだけで、マップ全体の様子がわかるわけではない。マップを完全に表示するにはあちこち回って情報を加えていく必要があるのだが、そんな手間と時間を掛けられる状態ではない。
 既に徹平たちと情報共有で彼らのマップデータをもらっているが、当然ながら中州から西側の情報までしか追加されなかった。この先は文字通り、手探りで進んでいかなければならない。

 もっと他の生徒と出会えれば、マップの情報も充実するのだが。しかし相手がやる気になっているかもしれないと考えると、おいそれと他者と接触するわけにはいかない。今はとにかく脱出できるかどうかを確認することが優先で、他人を助けている暇はない。今の雄一たちにそんな力はない。
 もし順調にマップの端まで到達し、大上が言っていたようにこのゲームから脱出できた時は、警察などのしかるべき機関に協力してバーチャル空間に囚われたままの生徒たちの救助を助けるつもりだった。警察や軍だって無能ではあるまい、きっと外部から救出する手立てを見つけるはずだ。


 そんなことを考えていると、突然トラックの前に黒い影が飛び出してきた。ハンドルを握る伊月は一瞬ブレーキを踏みかけたが、意を決してアクセルペダルを踏み込む。急加速したトラックを四つん這いで走って紙一重で避けたのは、初日に大勢の生徒を殺戮したカマイタチと呼ばれるモンスターだった。うっかり顔を覗かせていた助手席の健太が悲鳴を上げ、雄一と徹平はそれぞれ銃を構えた。

「クソッ、こんなところにも!」
「全速力で走れ! ここで相手している暇はない!」

 叫びながらも雄一が後ろを振り返ると、カマイタチが飛び出してきた建物の陰から何かがゾロゾロ出てくる光景が見えた。そこにはカマイタチが5匹、いや10匹はいるだろうか。とにかく頭が痛くなる光景だった。いくら銃を持っているとはいえ、素手で人間をバラバラに出来るような怪物とは戦いたくない。それにまだ雄一は、カマイタチと本格的に戦ったことがないのだ。ここは逃げの一手で行くべきだ。
 カマイタチの群れは奇声を上げると、異様に発達した後ろ足で地面を蹴り、トラックを追い始めた。が、速度が違い過ぎる。伊月がさらにアクセルペダルを踏み込むと、カマイタチの群れはどんどん後方へと過ぎ去って行った。

「これで一安心だな」
「いや、どんなモンスターが出てくるかわからない。お前らは今までどんな奴に襲われたんだ?」
「俺と健太は学校で襲ってきたあんな奴しか見てないが……他にもいるのか?」

 聞けば徹平たちと一緒に脱出した生徒たちを襲ったのも、学校で見たのと同じようなカマイタチだったという。つまり彼らは野犬やケルベロス、そして雄一を殺しかけたオーガなどを見ていないのだ。

「いるぞ、動物園で見たことのないモンスターがそれこそ動物園並みにいる。実際俺も何度か殺されかけた」
「マジかよ、また化け物に襲われるのは御免だぜ」

 そうは言ってもモンスターたちは大上の設定したプログラム通りに襲ってくるのだから、雄一たちの意志なんて関係ない。雄一たちに出来るのは隠れてやり過ごすか、あるいは武器を持って戦うかのどちらかだ。そして現状、選べる選択肢は後者のみとなっている。
 もし本格的にモンスターの群れに襲われて、逃げるのが困難になってしまった場合、全員で戦うしかない。しかし徹平は拳銃しか持っていないし、小学生の健太にいたっては丸腰だ。彼らの裏切りを恐れているが故に強力な武器を渡せない雄一たちだが、襲われた場合ほとんど二人だけで戦うのと、徹平と健太にも武器を渡して一緒に戦うのとどちらが生存の確率が上がるか。答えは明らかだ。

 雄一は運転席後部の窓をノックし、ハンドルから手を離せない伊月に代わって健太が窓を開けた。

「なに?」
「なあ、こいつらに武器を渡してもいいか?」
「はあ、何考えてんの?」

 やはり伊月は反対の様子だった。しかし雄一は諦めず数分間に渡って二人に銃を渡すべきだと説得し、半ばウザったそうな顔をしていた伊月も最終的には首を縦に振った。伊月も先ほどのカマイタチの群れを見て、裏切りの危険よりも襲われた時の安全を選んだのだろう。

 荷台に置いてあった何丁かの銃器の中から、雄一は銃口が二つ水平に並んだ散弾銃を徹平に手渡した。中州の警察署で見つけた銃器の内の一丁だが、伊月が既に散弾銃を持っていた事から荷台に放りっぱなしになっていたのだ。おまけに装弾数が二発と少なく、伊月曰く「ゴミ武器」とのことらしい。
 しかし他の武器は拳銃ばかりなので、主武装となりそうな銃はこの水平二連散弾銃のみだった。何発かの弾と一緒に銃を差し出しされた銃を受け取ろうとした徹平の目を見て、雄一は言う。

「いいか、絶対に俺たちに銃口を向けるなよ。向けた時はお前を敵と見なす、あとはわかるな?」

 徹平は雄一の低い声に身を強張らせながらも、首を縦に振って銃を受け取った。
 雄一が銃を渡すことを決めたのは、単に徹平たちに武器を渡さないで裏切りを防ぐメリットよりも、襲われた時に四人で戦うメリットの方が大きいからだ。理由はそれだけ。雄一も伊月を見習って、性悪説の立場から世界を見始めていた。
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