残念で無念な日々

グダグダと小説を書き綴る、そんなブログです。「小説家になろう」にも連載しています。

ただひたすら走って逃げ回るお話 第一四七話 しまっちゃうお話

2019-09-25 00:00:00 | ただひたすら走って逃げ回るお話
 爆発音と共に地面が揺れ、同胞団の連中が何事かと騒ぎ出す。そんな中でも団長は冷静さを失わず、「状況は?」と隣に控えていた幹部に問い質した。



「分かりません! 爆発が起きたとしか・・・」

「そんなことは私にだって分かる。誰がやったのか、どこで爆発が起きたのか、被害状況は、情報は入っていないのか?」

「すいません、そこまではまだ・・・」

「すぐに確認しろ。それと第一種配置の発令だ、戦闘に備えろ」



 流石、若手とはいえ元政治家だけはある的確な指示の出し方だった。第一種配置というのが何かはわからないが、戦闘態勢の一つだろう。この状況から備えると、完全武装で戦闘に備えろ、ということなのかもしれない。

 見ればライブハウスにいる同胞団の連中は、警備要員を除けば軽武装だった。持っているのはせいぜい拳銃だけ。反乱を防ぐための制限、というのもあるだろうが、ライフルなどは嵩張るし重いから四六時中持ち歩くのはとても疲れる。拠点内は安全だということで、拳銃しか持ち歩いていないのだろう。



「爆発が起きたのは西門! バリケードと門柱が全壊しました!」



 無線機に耳を当てていた幹部の一人が叫ぶ。同胞団の拠点は海岸沿いの倉庫街の一角に設けられている。東は海で、西は市街地だ。

 拠点周辺の感染者はほぼ掃討され、市街地でも同胞団が感染者の駆逐を進めているが、それでも未だに多くの感染者が残っている。それらの感染者が押し寄せてきた場合、いくら武器弾薬が豊富な同胞団とはいえ、対処にはてこずるだろう。



「各所で火災が発生中との報告が入っています! 現在消火班が出動中」

「これはゲリラ攻撃だ。各員、二人一組以上で行動しろ。一人でいたらいい的になる」



 団長が指示を出すなり、先ほどまで少年と感染者の殺し合いを楽しんでいた団員たちが、次々とライブハウスを飛び出していく。

 少年は、佐藤が助けに来てくれたのか? と考えた。だが少年が同胞団に捕まる原因を作ったのはその佐藤なのだ。自分が逃げるために見捨てておいて、また助けるなんてことをするだろうか?



「団長、こいつはどうします?』



 DJの言葉で少年は我に帰った。さっきまで満員だったライブハウスには、今やほとんど人は残っていない。団長たち同胞団幹部と少年、そして亜樹たちだ。今や同胞団に対して敵対的な存在となった彼女たちは、銃を向けられたまま動けないでいた。



「その女どもは拘束して監禁しておけ、使い道がある。そいつは独房に戻せ、続きはまた今度だ」



 亜樹たちが警備員に銃を突きつけられ、ライブハウスの外へと連れ出されていく。その後に続いて団長たち同胞団幹部らもライブハウスを後にし、少年はステージからその様子を見上げているしかなかった。

 どうやらコロシアムは中止になったようだ。客がいなくなってしまっては当然だが、少年はひとまずこれ以上感染者と素手で戦わずに済んだことにほっとした。何とか感染者2体を倒し、第二ステージをクリアできたものの、これ以上は体力的にも厳しい。それに第3ステージで感染者が3体出てくるとしたら、今度こそ一巻の終わりだ。



 残り一つのコンテナに閉じ込められたままの感染者たちも、爆発音を聞いて興奮しているのか、扉をガンガン叩いていた。閂は先ほどまでワイヤーで吊り上げられていたせいか中途半端に外れかかっているが、それでもまだその役割を果たしている。

 何かあって閂が外れ、中の感染者たちが飛び出してきてはたまったもんじゃない。少年はコンテナの閂を掛け直そうとしたが、その前にステージ脇の扉が開き、短機関銃を構えた警備員たちが出てくる方が早かった。



「両手を上げろ!」



 二人の警備員は少年から距離を取り、短機関銃の銃口を向けてくる。迂闊に近寄ろうとしないのは、少年が素手で3体の感染者を殺害した光景を目撃しているからだろう。警備員の一人が手錠を取り出し、「自分で手錠を嵌めろ!」と少年の前に投げ出した。



 武器を持たない感染者と違って、銃を持った人間二人を相手に素手で戦うのは流石に勝ち目が無いことを少年は自覚していた。大人しくその指示に従おうとしたところで、ふと少年は隣にあるコンテナの存在を思い出す。コンテナの中に入っているのは、何だったか?



「わかったわかった、だから撃たないでくれ」



 そう言った少年は両手を上げるフリをして、そのまま持ち上げた右手でコンテナの閂を上に弾いた。コンテナの扉を塞ぐ閂が外れ、途端に弾かれたように勢いよく扉が中から開け放たれた。そこから飛び出してきたのは、三体の感染者だ。



 爆発音に怒鳴り声で、すぐ近くに餌たる人間がいることを察知していた感染者たちは、ますます凶暴になっていた。少年はコンテナの脇にいたため感染者の視界に入らなかったが、少年を拘束しようとしていた二人の警備員は、ちょうどコンテナの正面に立っていた。結果、中から飛び出してきた三体の感染者は、そのまま警備員たちを獲物に定め、飛び掛かっていった。



「うわあぁあっ」



 警備員たちは手にした短機関銃を発砲したが、ろくに狙いも定めていない状態では当たりようが無い。それでも何発かは感染者に命中したが、非力な拳銃弾では頭を狙わない限り一撃で感染者を倒すのは難しい。

 撃たれた感染者は身体から血を流しながらも、怯むことなく警備員の一人に飛び掛った。体当たりを食らった警備員が床に倒れ、その手から短機関銃が吹っ飛び扉の方へと滑っていく。警備員は両手を振り回して自身に馬乗りになった感染者へと抵抗したが、感染者は彼をむちゃくちゃに殴りつけた。警備員がとっさに顔を守ろうと両手を目の前で身構えたが、感染者はその腕に食らい付いた。



「嫌だぁああっ!」



 もう一人の警備員は、感染者の餌食となった仲間を見て、背中を見せて逃げ出そうとした。だがそこへもう二体の感染者が襲い掛かる。感染者たちは逃げる警備員に背中から飛び掛り、彼をうつ伏せにコンクリートの床へと押し倒してしまった。



「助けてくれぇ」



 恐らく恐怖で引き金を引いてしまったのだろう。うつ伏せになった警備員が振り回す腕、その手に握られた短機関銃から連続して銃弾が放たれ、床や天井に火花が散った。天井のスポットライトの電球がいくつか割れ、ステージが薄暗くなる。

 弾切れになった短機関銃を振り回す警備員の無防備な首筋に、感染者が噛み付いた。絶叫が上がり、感染者が警備員の首筋の皮膚を、黄色い脂肪や赤い筋肉と一緒に食い千切った。



 残り一体の感染者は少年に狙いを定めたようだったが、その前に少年は警備員たちが入ってきた扉目掛けて走り出していた。途中で警備員の一人が取り落とした短機関銃を拾い上げ、一目散に出入り口に飛び込む。そしてすぐさま身体を反転させて扉を閉めると、直後感染者が扉に体当たりする轟音が轟いた。



 感染者は何度も扉に体当たりを食らわせているが、感染者と人間を戦わせるというコロシアムのコンセプト上、不測の事態に備えて扉は頑丈に作ってあったようだ。扉はしばらくは保ってくれるだろうと判断した少年は、ようやく一息ついた。



 扉の向こうからは感染者に貪られる警備員たちの悲鳴と助けを求める声が響いていた。少年は先ほど拾い上げた、機関部の側面に「9mm機関けん銃」の刻印が施された短機関銃の状態をチェックした。

 警備員が取り落とす前に感染者に向かってフルオートで発砲していたせいか、弾倉内の弾は5発も残っていなかった。予備の銃弾は警備員が身に付けていたベストのポーチに入っているだろうが、それを取るためにはもう一度扉を開けて、3体の感染者が獲物を貪っているステージへもう一度戻り、感染者たちを倒す必要がある。銃を手に入れたとはいえ、3体の感染者と渡り合うには威力も銃弾も足りない。せっかく感染者から逃れられたのに、もう一度戦うのはごめんだった。



 少年は銃弾の確保は諦め、とにかくライブハウスから脱出することを優先した。先ほど警備員たちがやってきた時、周囲に他の同胞団の人間はいなかった。まさかあの二人を残して建物を空っぽにしている、なんてことは考えられないので、一時的にステージ周辺を離れていたか、ライブハウスの他の場所にいるのかもしれない。少年が逃げたことは、じきに他の連中にも知れ渡るだろう。その前に同胞団の拠点から脱出するか、少なくともこのライブハウスの外へ出ている必要があった。



 少年は短機関銃のセレクターを単発の「タ」に合わせ、ライブハウス内を進んでいった。同胞団でも消音器の類はいくらでも作れるものではないらしく、少年が警備員から奪った短機関銃には消音器が装着されていない。

 それに弾も少ない。もしも戦闘になれば、文字通り一瞬で撃ちつくしてしまうだろう。銃火器を持った人間、それも何名もいる敵を素手で相手に戦ったら、今度こそ殺されてしまうだろう。先ほどのコロシアムでは運よく感染者相手に素手でも生き延びることが出来たが、幸運がいつまでも続くとは限らない。



 同胞団の拠点を脱出するにしても、先ほどの爆発で連中は警戒を強めているだろうから、外へ出られる場所は見張られていると考えていい。それに団長は先ほどの爆発がゲリラ攻撃によるものだと言っていたから、拠点内は警戒と侵入者捜索のために重武装した団員たちが走り回っていることだろう。



 かといって敵のホームでいつまでも見つからずに隠れていられる保障も無い。最悪の場合は、敵の包囲を突破して脱出しなければならない。そのためにもまずはもっと武器が要る。

 幸い弾が残りわずかとはいえ、こちらにも銃はある。いざとなったら敵を倒して武器弾薬を奪うことも出来る。その点では素手でないことがありがたかった。



 それにしてもこの攻撃を引き起こしたのは、一体誰なのだろうか? 自分を見捨てた佐藤が助けに来てくれるとは思えないから、同胞団と敵対している他の勢力が攻撃を仕掛けてきたのかもしれない。そんな連中がいたら、の話だが。



 気がかりなのは亜樹たちの今後の処遇についてだった。彼女たちは完全に同胞団に不信感を抱き、同胞団の側も彼女たちを仲間として扱うことは止めたようだ。同胞団にとって、自分たちの仲間―――構成員と言った方が正しいか―――以外は敵でしかない。そして同胞団では構成員以外に対しては、何をやっても構わないというのが他の人間に対しての認識だった。



 ここから一人で脱出するのもいいだろう。だがその後亜樹たちはどうなる? 少年が感染者と戦っていた時、彼の命を助けようと同胞団の幹部に抗議していた彼女たちの姿を少年ははっきりと覚えていた。

 そんな彼女たちを見捨てて一人逃げ出したら、自分も同胞団の連中と変わらない。少年は亜樹たちも助けることを決めた。

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