残念で無念な日々

グダグダと小説を書き綴る、そんなブログです。「小説家になろう」にも連載しています。

ただひたすら走って逃げ回るお話 第一四六話 スニーキングミッションなお話

2019-09-24 00:00:00 | カメラ
――――――1時間前





 同胞団の幹部たちから呼び出しを受けた礼たちは、指定されたライブハウスへと向かっていた。

 「何をするのか」と呼び出しに来た幹部に聞いたところ、「楽しいことだ」と彼は答えた。



 礼たち元小百合女学院の面々が同胞団と行動を共にしてから、既に何週間か経っていた。

 最初は成り行きで彼らと行動を共にすることになったが、時を経るに従い彼女たちの中で自分たちも同胞団の一員として生きていくべきではないかという意見も出始めていた。自分たちが暮らしていた女学院は感染者に見つかったせいで捨てざるを得なくなり、感染者や暴徒のいる廃墟の街を息を潜めて通り過ぎてきた彼女たちにとって、これ以上当てのない旅を続けるのは限界に近かった。



 あの少年がいてくれたら、事態は変わっていたのかもしれない。かつて行動を共にし、今は敵として同胞団に捕らえられているという少年のことを例は思い出す。

 あの少年は戦い慣れていた。もしも学院に残っていてくれたら、今でも自分たちは学院で暮らすことが出来ていたかもしれない。学院を離れることになってしまっても、頼りになる人間がいるのといないのでは大違いだ。



 だがその少年が学院を出ていくきっかけを作ってしまったのは、ある意味礼だった。礼の告白の後、少年は学院から姿を消した。

 学院の生徒たちはなぜ少年が出ていったのか、最後まで知らないままだった。礼にしたって彼が出ていった本当の理由はわからない。もしかしたらそりが合わなかったのかもしれないし、外で人を殺して回りたいと思ったのかもしれない。



 なぜ自分が少年に惹かれたのか、礼自身もうまく説明はできなかった。いわゆる吊り橋効果というものなのかもしれない。礼と裕子が危険な生存者のグループに捕まった時、少年は単身乗り込んできて彼女たちを救ってくれた。そのことがきっかけで、少年のことを好きだと思ったのかもしれない。

 その好意は今でも変わっていないか、礼はわからなかった。少年と再会した時には互いに銃を向けあうという逼迫した状況で、彼の顔をしっかり見る暇もなかった。

 そして彼が同胞団に捕まったらしいと聞いた時、礼は少年に会いに行くことを希望した。だが会いに行けるのは一人だけと幹部に言われ、結局亜樹が少年と接見した。



 いったい何故少年は同胞団と戦っていたのか。なぜ学院を出ていったのか。聞きたいことはいっぱいある。

 その機会はいつか来るだろう。来ない場合は自分で作る。そう結論づけ、礼は指定された倉庫へ向かう足を速める。



 同胞団の拠点は海沿いの倉庫街の一角に設けられているため、当然道の左右に並ぶ建物も倉庫や工場ばかりだ。それらの建物の中に何があるのか、礼たちはまだ少ししか知らなかった。一応行動を共にしているとはいえ、完全に同胞団の一員になったわけではない。生活上必要なところは自由に出入りしてもいいが、それ以外の場所となると行動に制限が課されていた。



 夕暮れが近いということもあり、外を出歩いている人影は少なかった。同胞団の中で戦える人間はパトロールや物資の調達に、それ以外の人間は工場で何かを作ったり、畑を耕している。元々そんな行動パターンだから拠点内であっても自由にうろついている人間は少ない。礼達もここにいる限りダラダラすることは許されておらず、見張りや雑用などを毎日こなしていた。



 礼も今日は拠点の外周部に設置された監視塔で、ひたすら接近してくるものがないか見張る仕事をしていた。同胞団が拠点に設置している監視塔は鉄骨やパネルを組み合わせて作った本格的なもので、礼はその操作を任されこそしなかったものの、機関銃やサーチライトまで取り付けられている。

 拠点周辺の感染者は同胞団によって一掃されたとはいえ、街から流れてきた感染者たちがやってくるとも限らない。それに同胞団はその方針ゆえに、敵も多い。そのため監視塔には24時間常に見張りが立ち、拠点に接近する味方以外の人間は無条件で殺害するように命令が下されていた。



 その見張りの仕事の後、礼はライブハウスに向かうようにとの指示を受けた。何かイベントがあるらしい。ライブハウスは昔の小さな倉庫を改装したもので、何かイベントが開催されているのか、時折同胞団の連中が集まっているのを見たことがある。

 ただし中でどんなことが行われているのかは、今まで招待されたことが無いのでわからない。防音もきっちり施されているのか、外に音が漏れ聞こえてくるようなこともなかった。ただしライブハウスに入っていく時と、出て来る時の同胞団の連中の顔は何か楽しいものでも見たかのように笑顔だった。



 礼が今歩いている場所は、拠点南東の燃料貯蔵区画の近くだった。この区画には同胞団が街のガソリンスタンドなどから集めてきた大量のガソリンや灯油が、十数台のタンクローリーに保管されている。そのほかにもプロパンガスのボンベなどが、それこそ山のように積み重ねられていた。



 この燃料区画は厳しい冬を乗り切るための同胞団の生命線であり、拠点内であっても警備は厳重であった。常に自動小銃で武装した同胞団の幹部が率いる警備隊が近づく者に対して目を光らせている。礼たちは近づくことすら許されていない。もしも制止命令に従わなければ、問答無用で射殺されるという噂だった。



 だがそれよりも警備がさらに厳重な場所がある。武器弾薬の補給所だ。

 基本的に同胞団のメンバーが小銃などの携帯を許されるのはパトロールや監視などの任務に当たっている間だけで、それらの時間以外に許されている武装は拳銃やナイフ程度だ。しかも万が一の事態を想定してか、拳銃を携行していても予備の銃弾までは支給されない。もしも感染者や外敵の襲撃があった場合は、近くの集積所デポから武器を持って迎え撃つことになっていた。



 補給所はその集積所の規模をさらに大きくしたものだ。戦闘が長引いた時や、拠点の外に出るにあたって大量の武器弾薬が必要となった際には、補給所から予備の弾薬や武器が支給されることになっている。同胞団が拠点の外で回収してきた武器弾薬は、まず補給所に格納される。

 ヒラの同胞団の構成員に支給されている長物の銃火器は、一般的な狩猟用のライフルや散弾銃だ。だが同胞団内部でランクアップ―――出世していけば、自衛隊の自動小銃や警察の短機関銃などが使えるようになるらしい。それらの貴重な軍用銃火器は、普段は補給所に格納されている。それどころか外から回収してきたさらに強力な自衛隊の武器などが、補給所には仕舞ってあるという話だった。



 そんな補給所は文字通り同胞団の戦闘力の要となる場所なので、燃料貯蔵区画よりも厳重な警備が敷かれていた。噂では警備に当たる面々は、団長が直接選抜した構成員たちだとか。そいつらは自分たち警備要員以外の人間が近づいてきたら、その時点で警告なしでたとえ同じ同胞団の人間であっても射殺するよう命令を受けているという話を聞いたことがある。



 ここの連中はどれだけ武器弾薬を貯めこんでいるのだろうか。礼は腰のホルスターに目をやった。そこには少年がかつて調達してきた、警察用のリボルバー拳銃が一丁、5発の銃弾を装填した状態で収まっている。

 同胞団の連中は、まるで軍隊のように装備を整えている。自衛隊や米軍が遺棄していった自動小銃や機関銃を装備し、その上さらに多くの軍用銃火器を調達しようと、最近ではあちこちに偵察部隊を派遣している。礼たちもそのうち、偵察部隊の一員としてどこかに派遣されるのではという話だった。



 そうなった場合、自分も誰かと戦うことになるのか。それは嫌だなと礼は思った。

 自分たちの身を守るために戦うことに異論はない。だがこちらから出向いてまで誰かを殺したいとまでは思わない。



 そんなことを考えながら歩いていると、突然目の前に何かが飛び出してきた。そして次の瞬間、礼は一瞬のうちに薄暗い路地へと引きずり込まれていた。

 抵抗しようにも、片手は後ろに回った状態で背後の何者かにがっちりと掴まれており、叫ぼうにも口が塞がれている。戒めを解こうともがく礼の耳元で、「静かにしてくれ、俺は君の敵じゃない」というどこかで聞き覚えのある声が囁いた。



 この声は確か、裕子が少年に撃たれたときに、彼と一緒にいた迷彩服の男が発していた声だ。少し怖かったが、礼が暴れるのをやめると、途端に彼女を押さえつけていた男の両腕からゆっくりと力が抜けた。

 恐る恐る振り返ると、そこにはまるでお化けのような恰好をした人間がいた。顔は墨でも塗ったかのように真っ黒で、目だけが暗闇の中で浮き上がっているように見える。その男は迷彩服の上にいくつもポーチが付いた防弾チョッキを身に着け、スリングで吊った自動小銃が身体の前にぶら下がっていた。



「いきなりこんな真似をして済まなかった。君はあいつの仲間だろ? いや、元仲間か?」

「そういうあなたは、あの時一緒にいた・・・」

「俺は佐藤、自衛隊員だ」



 見るからに軍人、といった感じの男だった。物陰に隠れていたため、礼は彼に捕まるまで一瞬たりともその気配を感じることが出来なかった。もしもこの男が礼を殺す気であれば、とっくに死んでいただろう。



「まずは落ち着いてほしい。俺に君を傷つけるつもりはない」

「・・・みたいだね、やるつもりならとっくに殺してるでしょ。それで、一体何の用なの?」

「それに答える前に一つ聞きたい。君はこの同胞団の思想と行動をどう思う?」



 佐藤は礼の目をまっすぐ見据えて尋ねた。もしもここで「同胞団は素晴らしい」と答えたらどうなるだろうか、礼はそんなことを考えた。もっとも同胞団を胡散臭く信用には値しないと考えているので、そう答えるつもりはないが。



「怪しい、というか信用できない。そりゃ助けてもらった恩はあるけど、だからと言ってあの人たちの考えややり方が全て正しいとは思わない」

「君は同胞団の一員ではないと?」

「今のところはそのつもりだけど。この先どう転ぶかわからないけどね」



 彼らの言っていることに一理あるが、だからといって全面的には賛成できない。それが今の礼の考え方だった。それに礼はここに来てから、色々と不愉快なものを見てきた。それを考えると、同胞団に居続けることはよくないことだと思う。

 礼の同級生の中には、少年が裕子を撃ったから信用できないので、同胞団に身を寄せた方がいいという者もいる。だがあの状況で、少年が意図して裕子を撃ったとは礼は思えなかった。あれは事故か、どうしても撃たなければならないよほどの理由があったのだろう。そう考える礼は、少年が信用ならないから彼と敵対する同胞団は正義であり、自分たちの頼りになる存在だとは捉えていなかった。



「なら好都合だ。これからデカい花火を上げるから、さっさとここを逃げ出した方がいい」

「騒ぎ? ここで何かやるつもりなの? もしかして彼を助けに来たの?」



 彼、というのは少年のことだった。裕子を撃った後、少年は目の前の佐藤と共に姿をくらまし、ここのところ同胞団が総力を挙げて彼らの捜索に当たっていた。だが出動した連中は大半が帰ってこなかったか、出ていった時よりも少ない数で帰ってきた。少年と佐藤に返り討ちにあったのだ。

 だが数日前、とうとう少年が捕まった。捕まったのは彼一人で、一緒に行動していたはずの佐藤の姿はなかった。少年が捕まった時に佐藤が逃げ延びていたのだとすると、彼は少年を助けに来たのだろうか。



「あいつの救出も視野には入っているが、主目標じゃない。可能であれば助ける。目標を達成する上で障害となるのであれば、見捨てるのもやむ無しだと考えている」

「あなたはずいぶん非情な人みたいだね。彼が捕まった時は自分だけ逃げ出しておいて、助けようともしないなんて」

「勘違いするな、俺だってあいつを助けたい。だがその前にこの同胞団をぶっ潰すのが先だ」

「潰す? どうやって?」

「それは今は言えない。それより君はこれからどこへ向かう予定だったんだ?」

「さあ? なんか楽しい催しがあるからってライブハウスに呼ばれてる。バンドが演奏してくれるってわけじゃなさそうだけど」



 礼がそう答えると、佐藤は何かを察したような顔をした。



「連中がこれから始めるのはコロシアムだ」



 佐藤はそう言った。同胞団にとって敵対的であったり、不要な存在を、死ぬまで感染者と戦わせるショー。礼たちがここに来る以前からコロシアムは開催されており、多くの人たちが犠牲になったのだと言う。



「なんでそんなことまで知ってるの?」

「協力者がいるもんでね。同胞団をおかしいと思っているのは君だけじゃないし、潰したいって連中も中にはいるってことだ。それより君に頼みがある、こんなことをしておいて頼める義理じゃないと思うが・・・」



 有無を言わずに路地に引っ張り込み、拘束したことだろうか。だが礼はそのことを怒るつもりはなかった。むしろ佐藤からもたらされた情報の方が有益だった。

 無論、佐藤を完全に信頼できるかと言われると、首を縦に振ることはできない。だがわざわざ敵の拠点にまで乗り込んできて、危険を晒してまで何の権力もない小娘に嘘情報を教えるメリットが佐藤にあるとは思えない。



「いいよ。それで、頼みって何?」

「コロシアムの最中に、俺はここの施設をいくつか吹っ飛ばす予定だ。もしも外で爆発音が聞こえたら、君の仲間を連れてどこか安全な場所に避難するんだ。あいつは君たちの無事を願っていたし、助けたいとも思っていた。それを知っておいてくれ」

「彼はどうするの? 感染者に食われるのを黙ってみていろとでも?」

「あいつなら自分で切り抜けられるだろう。少なくとも、俺には直接助ける手段はない」

「あなたは同胞団の中に内通者がいるんでしょ? その人たちに助けてもらうってことは出来ないの?」

「残念だが、そこまでしてくれる連中じゃない。あいつらはあくまでも同胞団に反旗を翻したいのであって、自分が危険に晒されても同胞団の敵を助けようとは思わないだろうな。もしもあいつが上手く事態を切り抜けて、協力した方が得だと考えればサポートは得られるだろう」



 つまり内通者は佐藤とは協力関係にあるが、少年とは何も関係がないようだ。だから直接少年の救助を依頼することはできないし、内通者も義理はないから自主的に少年を助けようとは思わない。少年は佐藤が爆弾を爆発させるまでは、サポート無しで感染者と戦い続けなければならない。



「コロシアムがどんな状況かくらいは、無線を通じて把握し続けるつもりだ。なるべくあいつが生きている内に、ここの施設を吹っ飛ばしてチャンスを作る。連中が混乱している隙に、あいつもどうにかして脱出するはずだ」

「それも無理だったら?」

「残念だが、その時は諦めるしかない。本当に残念だが、俺にとっての最優先目標はこの同胞団を潰すことだ。あいつの無事に拘って、その機会をフイにすることはできない」



 佐藤はそう言っていたが、その顔は微塵も少年が死ぬとは思ってもいないような表情だった。





 礼は佐藤から教えられた情報を頭の中で整理しつつ、彼と別れて再びライブハウスへと歩き出した。佐藤はこれから同胞団の拠点奥深くへとさらに浸透し、破壊工作を行うのだという。



『佐藤さん、あなた何でもかんでもベラベラ喋りすぎじゃない? もしも私が本当は同胞団の側の人間だったら、あなたのやってることは自殺行為だと思うけど』



 別れ際に、礼は佐藤にそう尋ねた。だが彼は笑って答えた。



『もしも君が今俺が話したことを、同胞団の偉い連中に伝えたとしよう。そうしたら君は逆にスパイ扱いされて殺されるだろうな』

『私がドンパチやろうとしているわけじゃないのに?』

『君が俺と接触した、という事実の方が問題なんだ。同胞団の幹部たちは、団員が同胞団に対して疑いを持つことが無いように、もしも俺を捕まえたとしても一切会話するなと言っている。俺が余計な思想を植え付けて、反乱を起こされたらたまったもんじゃないと思っているんだろう。おかげで、協力者作りには苦労した』



 つまり佐藤と会話をした者は、その時点で同胞団に対する反乱分子とみなされるのだ。だから礼は佐藤が同胞団への攻撃を企てていることを、同胞団の人間には教えられない。教えたら「どこでそれを知った?」と聞かれることになり、すぐに礼が佐藤と接触したことが明らかになる。そうなれば礼も立派な反乱分子だ。

 だから佐藤は礼に対して多くのことを話したのだ。礼に色々情報を教えたとしても、彼女は同胞団にそれを伝えられないから、自分の破壊工作の遂行にそれほど支障はきたさない。彼はそこまで計算した上で礼と接触したのだろう。



 いずれにせよ、佐藤から話を聞かされたことで礼の決意は決まった。そしてこれから少年がどんな目に遭うかも把握した。

 礼の立場では、直接彼を助けることは難しいだろう。だがそのチャンスが巡ってくれば、礼は少年への強力は惜しまないつもりだった。

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