残念で無念な日々

グダグダと小説を書き綴る、そんなブログです。「小説家になろう」にも連載しています。

ただひたすら走って逃げ回るお話 第一四五話 断捨離なお話

2019-09-23 00:00:00 | ただひたすら走って逃げ回るお話
「・・・もう、もうやめてください! 何ですかこれ! 何の意味があるんですか!?」



 返り血で真っ赤になった少年と、その様子をキャットウォークの上から呆然と見つめる同胞団員たち。さらに二体の感染者を素手で倒すという彼の行為に呆然となり、団員たちが静まり返る中、亜樹が抗議の声を上げた。



「こんなことに何の意味があるんですか!? なんでこんな残酷なことをしなきゃならないんですか!?」

「それは彼が敵だからだよ」



 お目付け役の団員も言葉を失う中、代わりに答えたのは団長だった。



「彼は団員たちを何人も殺してきた、理由としてはそれで充分だろう?」

「だからってこんなことをしていい理由にはならないはずです! これじゃまるで、人が死ぬのをショーにしているみたいじゃないですか!」



 そう声を上げたのは、亜樹の後輩である葵だった。他にも亜樹の仲間たちが抗議の声を上げる。このショーを見て楽しんでいる者は、一人もいなかった。

 彼女たちにしてみれば、同胞団がこんなことをする連中だとは今まで思いもしていなかった。偶然街で出くわした親切な人の仲間たち。少年と敵対することになってからは彼らの下に身を寄せることになったが、同胞団との共同生活にどこか違和感を覚えつつも、亜樹たちは生きていくために彼らの仲間になることを決めた。



 抱いた違和感は、日ごとに大きくなりつつあった。撃たれた裕子は医務室に搬送すると言われたっきり、一度も面会させてくれない。仲間に加わったのに、自由な行動すら認めてもらえない。目が虚ろで頬はこけ、目の焦点が定まらずフラフラしている薬物中毒者を何人も亜樹たちは見てきた。

 おまけに、若い男女が大勢いるというのに、ここには赤ん坊も子供も一人もいない。老人すら、いなかった。亜樹は同胞団が避難民が大勢集まってできたグループだと考えていた。だが、それならばいっしょに逃げてきた子供や老人が一人くらいはいてもいいはずだ。

 怪我人や、重病人もいなかった。作業中に指を切ったり、風邪をひいて休む程度の人ならばいる。しかし物資が不足し十分な医療設備もない中では、重病になる人がいてもおかしくはない。それに少年と交戦した後、同胞団の拠点には撃たれて重傷を負った団員が何人か搬送されてきたことがあった。だが医務室に運び込まれた重傷者を、その後見た者は亜樹たちの中では誰もいない。

 パトロールの最中に団員が死んだとしても、誰も葬式をしたり墓を作ったりしなかった。



 人里離れていたおかげで安全だった学園に今まで住んでいたせいで、外の世界の常識が自分たちの常識とずれてしまっていることは自覚していた。だが彼らはおかしすぎる。

 同胞団に捕らえられた少年と面会した時、彼は重傷を負った裕子に会いに行けと言った。そうすれば同胞団の正体がわかるだろうと。裕子を撃って重傷を負わせた張本人である少年に言われたところで反発心しか生まれなかったが、それでも気にはなって再度面会を申し込んでみた。



 結果はまたもや門前払い。しかも容態すら教えてくれない。そこにこの悪趣味なサバイバルゲームだ。亜樹の同胞団に対する不信感は一気に高まった。

 これ以上彼らと一緒にいることも出来ない。亜樹はそう感じた。







 一方で同胞団の団長にとっても、亜樹たちがこのゲームを楽しまないのは期待外れの事態だった。少年が裕子を撃った時、彼女たちは少年に対して相当敵意を抱いていたと報告を受けていた。それにこの世界をどういう形であれ生き抜いてきた彼女たちには、それなりに素質があるかもしれないと考えたから同胞団に誘ったのだ。



 団長が今回のコロシアムに彼女たちを連れてきたのは、本当に彼女たちに期待したほどの素質があるか見極めるためだった。戦う能力は問題なさそうだったが、人を殺せるような連中かを見極めたかった。

 これまで多くの人間を同胞団のメンバーに誘ったが、その中で問題なく「使える」と判断された連中は半分もいなかった。いくら口では「人を殺せる」と言っていても、本当に何のためらいもなく人を殺せる人間はほんの一握りだ。命令されれば人を殺すという奴もいるかもしれないが、それだって少ない。



 それを見極めるために、団長はコロシアムを活用していた。コロシアムでは以前の世界では到底許されないような催しが平然と行われている。この催しを楽しめるか、それとも止めさせるように言って来るかで、そいつが同胞団の一員になれるかどうかが決まる。

 もしもコロシアムを楽しんでいたら、そいつには同胞団に入っても十分活躍できる素質がある。積極的に賛成はできないが、周りが楽しんでいるから何も言わないというようなタイプは、命令されれば動く人間として使える。

 使えないのはコロシアムで行われていることに反対する奴らだ。そういった連中は、この世界でもいまだにかつての世界の常識に捕らわれたままの奴らだから、積極的に誰かを殺すといった真似はできないだろうし、命令しても反抗するだろう。



 人間は所詮、残虐さを秘めた生き物なのだ。子供が平気でアリを踏み潰して遊び、そのことに後悔も疑問も抱かないように、誰もが等しく生まれた時から残虐性を本能に宿している。それを道徳だの人道だのといった教育で押さえつけてきたにすぎない。

 円滑に社会を回していくためには、それも良かっただろう。だが今はその社会そのものが存在せず、戦うことでしか人間は生き残ることが出来ない。そのためにはやはり、人間の残虐性を引き出すことが重要だ。残虐になれる人間こそが戦いの中で生き残ることは、これまでの数多くの戦争の中で証明されている。

 何より団長は、人間の進歩のためには争いが必要不可欠だと考えるような人間だった。そして戦いが苛烈であればあるほど、その進歩のスピードも上がっていく。団長は人間が生き残って世界を再建するためには、残虐性を発揮して戦えるようになることが重要だと考えていた。必要なのは生き残ること、生き残るためには容赦してはいけない。たとえ相手が女子供であっても、平然と殺せるような人間でなければならない。



 必要なのは自らの意志で何の躊躇いもなく殺人ができる連中だ。だがこれまで培われてきた社会の道徳や常識というものによって、最初から人を楽しんで殺せるものはほとんどいなくなってしまった。誰かを殺せても、良心の呵責というもので使い物にならなくなってしまう者ばかりだ。そのような人間は同胞団には要らないし、この世界で生き残っていくこともできないだろう。

 コロシアムはそういった連中を見つける、あるいはそんな連中にするスイッチを入れるためのイベントだった。



 だが亜樹たちは、どうやらそのスイッチが入らない人間のようだった。

 たとえ自らの意志で積極的に誰かを殺せる、あるいは殺したいと思って実行できる人間でなくとも、命令されたことを遂行するようなタイプであればまだ使い道はある。目の前にニンジンをぶら下げるか、あるいは誰かを殺し続けることでしか自分の生きる道はないと教えてやればいい。

 だが未だに古い、今はもうない平和な社会の価値観を引き摺っている連中は厄介だ。この状況でもそのような価値観を貫ける連中は、死にそうな目に遭ったことのない奴らか、よっぽどの信念を持った奴らだ。



 恐らく亜樹たちは後者だろうと団長は思った。彼女たちは人里離れた全寮制の学園にいたため助かったようだが、感染者たちに学園を蹂躙されたからは外の世界に出たはずだ。

 それに亜樹たちは少年と行動を共にしていた時、彼から外の世界がどうなっているかを聞いただろうし、他の生存者に襲われたことで現実を思い知ったはずだ。かつて自分たちが暮らしていた平和な世界の常識は、今の世界では全く通用しないのだと。

 それでも彼女たちが昔の世界の考え方を貫いているということは、彼女たちの心の底まで古い世界の常識が染み付いてしまっているということだ。団長はそう思った。そういった連中はいくら同胞団に加わるメリットを説こうが、力が全ての世界の魅力を教えようが、決してこちらの側には来ないだろう。



 団長としては彼女たちに少し期待をしていたので、この結果は残念だった。特に亜樹は、同胞団の一員になってくれるのではないかと予想していたのだ。

 亜樹はかつて行動を共にしていた少年が裕子を撃った時、本気で彼を殺そうとしたという。同胞団に加わってからも彼女の少年に対する怒りは収まらず、その様子を見て団長は彼女なら同胞団にとって有益な人間になれるのではないかと思った。かつての仲間であっても殺せるような人間ならば、ぜひ欲しい。



 だがそれも期待外れだったようだ。結局のところ亜樹たちは古い世界の常識にとらわれた人間であり、同胞団の一員にはならない。放っておいたらこちらの害になるような行動を取るかもしれないし、仮に無害であっても協力的でない人間に与える物資はない。こちらの役に立たない人間であれば、何の価値もない。



「そうか、残念だよ。君たちには期待していたんだが」



 そう言って団長は拳銃を抜き、亜樹に向けた。途端に亜樹の顔が引きつり、彼女たちが後ずさる様子が下にいる少年からも見えた。



「おい何をやってる! 止めろ!」



 そう叫んだ少年だったが、亜樹たちの方に気を取られてばかりもいられなかった。今まさに三回戦が始まろうとしていて、部屋の隅に置かれた三つ目のコンテナの扉がゆっくりと開き始めようとしていた。



「前から思っていたけど、ようやくわかった。あんたたち、頭がおかしいんじゃない?」



 後ずさりながらも両手を広げ、他の生徒を庇う亜樹が、震える声で言った。銃を向けられ戸惑い、怯える生徒たちの中、少年は一人だけ様子がおかしいことに気づく。

 他の子と違って落ち着いているのは、少年が学園から出ていく原因を作った礼という少女だった。いつも飄々としていて、何を考えているのか最後まで分からなかった礼は、銃口を向けられていても顔色一つ変えていない。現状を理解していないのか、それとも覚悟を決めているのか?



 だが少年も、それ以上亜樹たちの様子に構ってはいられない。コンテナの扉に繋がったワイヤーは滑車を介して徐々に上へと引っ張られていき、それと共にコンテナの扉も開きかけている。1回戦は感染者が1体、2回戦が2体だったということは、考えたくもないが3回戦は3体を相手にしなければならないのかもしれない。

 さすがに3体の感染者と戦って勝つ自信はなかった。慌てて開こうとする扉を抑えようとコンテナに駆け寄った少年だったが、銃声と共に目の前の床で火花が散り、立ち止まるしかなかった。



『オイオイ、それはルール違反だぞ。イエローカード一枚だ、二枚でアウトだな』



 見ればDJが硝煙の立ち上る拳銃の銃口を、少年に向けていた。このままではコンテナの扉が開き切り、中から感染者たちが飛び出してくるだろう。一方で亜樹たちは団長に撃ち殺されるか、この場で殺されなくとも結局は死ぬ目に遭う。



 今度こそ万事休すか? 少年は顔を歪めた。

 だが次の瞬間、大きく地面が揺れ、コロシアムの防音壁をも突き抜けた大きな爆発音が外で轟いた。

 
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