残念で無念な日々

グダグダと小説を書き綴る、そんなブログです。「小説家になろう」にも連載しています。

ダーク♂ワールド 第十一話

2012-11-29 21:02:52 | ダーク♂ワールド

二週間後、俺と美月は九州北端のかつて北九州市と呼ばれていた場所にたどり着いた。途中で何度かミュータントや盗賊に遭遇したが、どちらかが怪我を負う事もなかった。
 かつて九州で盛んな都市だと言われていた福岡市は汚染され、今では住む者はほとんどいないらしい。戦争中敵軍によって投下されたダーティーボム(汚い爆弾)と呼ばれる放射性物質を爆発でまき散らす爆弾が炸裂し、高濃度の放射性物質で汚染されてしまっているのだ。撤去しようにもそんな技術を持った人間は少なく、住民は各地に避難してしまった。先生がPDAに入力してくれていた情報によるとゴーストタウンと化した市内の各地は今でも汚染されたままで、ミュータントが大量に繁殖して今では立ち入る者はほとんどいないという。俺は一度福岡の街を見ておきたかったが、汚染されている上に大量のミュータントがいるなら危険が大きすぎる。そのため福岡に入るのは諦め、北を目指して進み続けたのだ。
 俺達が今日たどり着いた北九州市は、九州から唯一本州へと徒歩で移動出来る場所だ。元々本州と九州を隔てる関門海峡は幅がわずか三キロ程と狭く、それゆえ橋や海底トンネルが造られ徒歩や鉄道、車両での行き来が容易になっていた。戦時中に爆撃され全ての橋は破壊されてしまったが、北九州市の東部の企救(きく)半島には関門海峡トンネルがあり、そこだけは三〇年経った今でも崩落する事なく人々が行き来する唯一の手段となっている。
 本州に入るには海峡を越えなければならず、高い燃料代を請求される上に複雑な海流であるため船はほとんど使用される事はない。必然的に交通手段は海底トンネルだけになってしまうが、そのトンネルを「シマ」として取り仕切っている集団がいた。いわゆるヤのつく自由業の方々である。
 元々九州は暴力団などが多く存在し、戦前は発砲事件の発生率も他の地域より高かったらしい。それらの組織は戦争で敵軍が日本に侵攻してきた際に散り散りになって逃げたが、戦争が終結するとともに再び集まり、勢力圏を拡大しようと他の組織と抗争を繰り広げるようになった。そのような組織が支配している町は、今の世の中珍しくない。
 北九州市東部、関門海峡トンネルがある企救半島の付け根には、その地域を支配する組織が設けた検問所がいくつもあった。町は戦争で破壊され家々は倒壊していたが、地図を見る限りいくつかの道路が東へ向けて走っている。戦争で町は破壊されたが、道路はその後も多くが使用され続けているのだ。
俺は歩きながら、道の左右に広がるかつて民家だったらしい残骸の山を眺めていた。飯山村では民家に材料が入手しやすいという理由や作りやすいという理由で木材が使用されていたが、昔は多くの家が頑丈な鉄筋コンクリートで作られていたという。地震でも崩れる事は滅多になかったらしいが、それでも戦争と三〇年の歳月は人間の作った物を呆気なく壊していったという事か。
「なんだか人が多くなってきたね」
 隣を歩く美月が、周囲を見回して言った。確かに半島に入ったあたりから、道を行き交う人が増えた気がする。そもそも外を歩く人自体が少ないのでそれまで道で誰かに会う事はほとんど無かったのだが、ここ一時間の内に五人の人間とすれ違った。この二週間、一日に一人も遭遇しない日が珍しくなかった事を思えば、かなりこの辺りに人がいるらしい。
「本州に行ける唯一の場所らしいからな、この先にいる人間も多いんだろう」
「私達みたいな旅人とか、後は商人とかかな?」
 美月の言葉に俺は頷いた。この九州は大陸に近い事もあって、美月のように外国からやってくる者も多い。危険を覚悟して船で大陸や半島を往復し、商品を仕入れてくる商人もいる。それらの人々が持ってきた商品を買い付けに来たり、あるいは逆に本州から商品を売り込みに来る商人が多いのだろう。
「治安が良ければいいな。寝る時はゆっくり何も考えずに寝たいし」
「確かにそうだね」
 美月はそう言って笑った。治安が悪い土地では寝ている最中に襲われ、一時の睡眠がそのまま永遠の眠りになりかねない。それを防ぐために旅をしたり町の外に出る時は複数で交代しながら休みを取るのだが、それでも気が抜けないから寝ても眠った気がしなくなってしまう。実際ここ二週間、心の底からゆっくり休めたという自覚がない。
これまで通った人のいる町は全て治安が悪く、宿の人間も信頼出来ないため早々に町を出て行ってしまっていた。硬い地面ではなく柔らかいベッドの上で寝られるなら、それは何物にも代えがたい。
 アスファルトがひび割れボロボロになり、あちこちに砂利が露出した道路を進んでいくと、やがて検問所らしき施設が見えてきた。監視塔らしき鉄骨を組んだ高い台が設置され、道路の両脇には延々と壁が続いている。壁は見渡す限り左右にずっと続いていて、もしかして海岸から森まで続いているのではないかと俺は思った。
 検問所に近づくにつれ、壁の前で談笑していたり、逆に壁の向こうからこちらへ来る人々の姿が俺の目に入ってきた。ざっと二十人はいるだろうか、この二週間で一度に見かけた人数としてはかなり多い方だ。
 近づいていくにつれて、検問所の様子がはっきりとわかってくる。道路の両脇に延々と続く壁は、どうやら貨物輸送用のコンテナを使って作った物らしい。金属製のコンテナは重く高いので、万一検問所が襲撃を受けても突破を阻止できるからだろう。コンテナは数が足りないのか途中で廃車や家屋の残骸を利用して壁は続いていたが、それでも正面から強行突破しようとする連中は多大な損害を被る事を覚悟しなければなるまい。
「通行料として何か寄越せって言われなきゃいいんだが……」
 大抵こういった検問所があるような場所の先は、大きな組織が牛耳っている町がある。検問所を作るという事は、通す人間をその組織の人間が決められるという事だ。金を持っているなら通行料としてその一部を徴収し、無ければ通さない。そうやって収入を得ている場所も多いと聞く。
「幾らくらいかかると思う?」
「どっちかって言うと、金より現物で徴収かもな。食料、弾薬、医薬品、それに……」
「女とか?」
 美月の言葉に俺は頷いた。
「どうする、私を寄越せって言われたら?」
「その時はその時さ」
 そう答えると美月は微笑んだ。そしてまるで子供にそうするかのように、俺の頭をわしわしと撫でる。
「いい返事だね~、お姉さん頼りにしちゃうぞ?」
「ちょ、おま、やめろ俺を子供みたいに!」」
 ぐしゃぐしゃに髪を乱されつつも俺は叫んだ。検問所の前で談笑していた人々が、美月が俺にふざけているのを見て何事かとこちらを見ている。何か邪推しているのか、中にはニヤニヤ気味の悪い笑みを浮かべている者もいた。
 どうにか美月を俺から引き剥がすと、彼女はつまらなそうな顔をした。彼女と旅を始めてからこうして幼い子供のように扱われる事が度々あるのだが、そういう風に俺をからかうのはいかがなものかと思う。確かに美月から見れば一回りどころか二周り以上も歳が離れているが、そうやって扱われるのは何だか恥ずかしい。
美月にそう言ったのだが、彼女は「は~い」と笑っていた。絶対に反省していない、また同じ事をやられるだろう。そう俺は確信した。

 道を進み検問所に着くと、銃を持った男達が俺達に近づいてきた。この辺り一体を取り仕切る組織の構成員だろう。事実彼らの服装はばらばらだったが、肩のあたりには自分の所属する組織のものらしきワッペンが縫いつけてあった。
「あれって家紋ってやつか?」
「多分そう……だと思うよ」
 何かの花らしき黒の布地に金糸で描かれた模様を見て美月は言った。戦争終結後、法律も何も無くなってそれまでかんじがらめにされていた反社会的な組織が、一気に勢力を増したと俺は先生から聞いていた。事実傭兵をやっていた時も、そういった連中が支配する場所に向かった事もある。彼らもそういった組織の末裔なのだろうか。
 道路の両脇の監視塔を見上げれば、設置された重機関銃の銃身に手をかけた男達がこちらを見下ろしている。もし俺達を敵対的な人物だとここの連中が判断すれば、数秒で俺達は文字通り粉々になってしまう。こういう時は相手を刺激しないよう、下手に出て大人しくしているのが最善なのだ。
「話は俺に任せておけ、お前が出ると厄介な事になるかもしれない」
 そう小声で言うと、美月は小さく頷いて俺の背中に回った。女を自分より下に見る男は多いし、男同士で話し合った方が変に見下されたりせずに済む。自分の方が力が強い立場にいると思いこんで、どんな要求をしてくるかわかったもんじゃない。
 いかにも無害でいい人間ですという笑顔を浮かべ、近づく検問所の警備要員らしき男達を観察した。全員がAK47突撃銃を肩から下げ、一部は手榴弾も携行している。装備は良いと言っていいだろう。警備員の数は一〇名から二〇名といったところで、仮に戦闘に陥れば(そんな事想像もしたくないが)、俺たちが不利になるのは間違いない。
 笑顔を浮かべつつ、何かあったらいつでも戦えるよう態勢を整える。そんな俺に近づく男は身長が一九〇センチを越えていそうな巨漢で、頬には縦に傷跡が走っていた。身長と顔の傷に圧倒されそうになるも、こちらも負けじと彼の顔をしっかりと見据える。
 そんな男の口から出たのは、俺が予想もしていない言葉だった。
「おう兄ちゃん、その姉ちゃんは彼女か?」
 ……はい? その場違いすぎる質問に、俺は思わずそう漏らしてしまっていた。
「だから、あの姉ちゃんお前の彼女かって?」
 いや、俺が訊きたいのはそういう事ではないんですが。何でここでそんな事を訊いてくるのか、そっちを知りたいんですが。そう言いそうになってしまった。
「いえ。旅の途中で目的地が一緒だとわかって、それから道中を同じくしているだけです」
「そうなんか? なんか仲良さそうにしていたから、てっきり恋人の関係かと思っとったわ」
 そう言うと男は豪快に笑った。今まで俺が想像していたのとは違う、親しみが持てそうな笑顔だ。こんな大きな検問所と壁を作る組織の構成員だというから、俺はもっと荒っぽい性格だと考えていたのだが……。
「オレは神崎(かんざき)、ここの警備隊の隊長をしとる。兄ちゃんの名前は?」
「山田誠って言います。あっちは北条美月」
「ふむ。えろう別嬪やな、美月ちゃんは」
 興味深そうな視線で、神崎と名乗った男は美月の身体を上から下まで見回した。悪い人物ではなさそうだと判断したのか、突然美月が警戒を解いて俺の隣に並ぶ。
「なあ美月ちゃんとやら。もしこの後ヒマだったら、オレと一緒に遊ばへん?」
「神崎さん、この後も仕事でしょう!」
 見れば神崎の後ろで、若い部下らしき男が苦笑していた。それにつられて他の部下達も笑っている。お前ら仕事はしなくていいのか。
「え~、困ります~」
 そして美月、お前のそのぶりっこな態度はなんだかイラッとくる。連中が無害そうだと思った瞬間に豹変し、腰を振りながら困ったような笑顔でそう言う美月は、まるで町一番の娼婦にでもなれそうな態度だ。
「あの、ここを通りたいんですけど」
「おお、すまんすまん」
 わずか数秒で打ち解けた美月と神崎達のやり取りは放っておけばいつまでも続きそうだったので、俺は大きな声を上げた。神崎は俺の言葉で顔を引き締めると、警備隊の男を数名呼び、俺と美月に荷物を見せるよう促した。
 検問所なので、やはり持ち物を調べるらしい。もしかしてこの先武器の持ち込みが禁止だとしたら、かなり困った事になる。
「もしかして、銃の持ち込みは禁止ですか?」
 恐る恐るそう尋ねると、神崎は笑って答えた。
「いいや、身を守る為の武器の持ち込みは禁止しとらん。オレらに敵対的なら話は別だが、そう言う事はないやろ?」
 頷くと神崎は「じゃあ何の問題もないな」と言って、俺が今まで背負っていたリュックを開いた。同様に美月の荷物も神崎の部下に調べられる。
「弾薬に食料に医薬品に着替えだけ……。お前ら、旅の商人ってわけじゃないんやな?」
「はい。俺達の目的は行商ではなく、単に北に向かって旅しているだけです」
「この時代に旅とは、奇特な奴もおったもんやな」
 神崎はリュックの中をしばらく覗くと、「通ってもオーケーやな」と俺達に荷物を戻した。
「あの、通行料は?」
「そんなもん、ここでは徴収せえへんよ。払ってもらうなら海底トンネルの出入り口の所でやな。あと商売する場合は税金を払ってもらうんやが、まあお前達には関係ないな」
 話を聞くと、ここは単に町に外敵が入ってくるのを防ぐ場所なのだそうだ。基本的に町に入るだけなら金はかからないが、本州と九州を繋ぐ海底トンネルを通行する時だけ通行料を徴収するのだという。トンネルを利用するのはたいていが商人だから、金を持っている彼らから確実に料金を徴収出来るようにするためなのだそうだ。通行料が不要でしかも本州側から商品が来る拠点なのだから、町へ商品の売買に訪れる人も増えるだろう。
「町の中ではドンパチ禁止や。襲われた時なら話は別やが、それ以外の納得できる理由が無い状況で銃を抜いたら、撃ち殺されても文句は言えへんぞ」
「結構治安がいいんですか?」
「あったりまえよ。オレらがいる限り、この新子(しんし)町で好き勝手する奴らは許さん」
 美月の言葉に、神崎が分厚い胸板を叩いて言った。どうでもいいけど、美月と放す時だけ態度を変えてデレデレしているように見えるのは、きっと気のせいではないだろう。
 暴発や相手に与える威圧感を減らす為に小銃の弾倉は外しておいた方がいいと言われ、大人しくそれに従って小銃を弾薬未装填の状態にする。郷に入っては郷に従えという言葉がある通り、自分達の場所ではないところでは、問題を避けるためにきちんとその場所のルールに従っておいた方がいい。
「よし、開け!」
 神崎が叫ぶと道路脇の小屋にいた部下がレバーを操作し、続いて俺達の目の前を塞ぐ鉄製の門が左右にスライドし始めた。電気の力で門を操作しているらしく、ここで電気が使えるらしい事に俺は少し驚いた。電気が使えるという事は、少なくとも発電器とそれを動かす燃料、送電網にそれを保守点検する資材と人材が揃っているという事だ。それらを全て揃えているだけでも、この時代では驚くべき事なのだ。
「じゃ、気いつけてな。まあ町の中は安全だがな」
「ありがとうございます、神崎さん」
 美月がそう言うと、再び神崎は顔をだらしなく緩めた。こいつ、絶対女好きだと俺が確信した瞬間である。
「じゃあなー美月ちゃーん!」
「町で会ったら遊ぼうぜー!」
「今度一緒にお茶でもしないかー?」
 神崎の部下達がそう叫び、美月も笑顔を浮かべ片手を小さく振ってそれに答える。
「人気者だな、お前」
「ふふ。でもあの人達に本当は私の方がずっと年上だって教えたらどうなるのかな?」
「やめてやれ、あいつらはお前が一〇代後半の女子だって幻想を抱いているに違いないんだから」
 そんな馬鹿な言葉を交わしつつ、俺達は門があった場所を通り抜けた。
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2 コメント

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Unknown (Unknown)
2012-11-30 01:28:25
タイトルの話数が抜けてる件。
Unknown (名無し)
2012-11-30 17:17:42
俺と少女と救われなかったこの世界の更新を放置してダークワールドばっかり更新はどうかと、

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