代々木上原こどもクリニック

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新型コロナウイルス感染症について

2020年03月08日 | 医療情報
外来で「新型コロナウイルスは大丈夫ですか?」と聞かれることが多くなりました。
 2月の終わりに中国疾病管理予防センター(CCDC)世界保健機関(WHO)から4~5万人規模の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)にかかった患者さんのデータが公表され、COVID-19という病気の全体像がわかってきましたので、この2つの報告を中心に最新の報告も加えてCOVID-19に関して説明します。また、感染症専門の先生の講演、情報交換をしている小児科医との話などから考えた私の考えを加えてお話しさせていただきます。

<まとめ>
 小児や健康な大人が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)にかかっても、ほとんどの場合が普通の“かぜ”で終わってしまうようです。したがって、症状からCOVID-19を疑うことはできません。また、PCR検査でCOVID-19と診断されても特効薬はないため、軽症~中等症の方は検査の対象にはなりません。
 PCR検査をする目的は1)入院して治療をするときに、他の感染症との鑑別が必要なため、2)自身が感染者であることを知って他者に感染を広めないため、ということになります。
 高齢者や持病(基礎疾患)を持っている人を護るためにも、社会全体として感染を広げないことが重要です。
 症状が軽い感染者や症状のない無症候性感染者が感染を広めている可能性が指摘されているので、たとえ症状がなくても近くで話をするときはマスクをする、風通しの悪いところに大勢で長時間いることを避ける、などの感染予防が大切だと思います。

<新型コロナウイルスとは?>
 自然界には非常に多くのコロナウイルスが存在し、人や家畜、野生動物などそれぞれの動物に感染する固有のコロナウイルスが確認されています。人に日常的に感染するコロナウイルスは4種類存在し、冬のかぜの原因の1/3を占めています。そして、ほとんどの子どもは6歳になるまでに4種類のコロナウイルスに感染しますが、通常、肺炎など重症となることはありません。
 人以外の固有の動物に感染するコロナウイルスが何らかの原因で突発的に人に感染したことが過去に2回ありましたが、新たに人に感染し、さらに人から人へ感染するようになったコロナウイルスを新型コロナウイルスと呼んでいます。過去2回の新型コロナウイルスは日本での感染者は報告されていないため、今回のCOVID-19と命名されたものは、日本へ上陸した初めての新型コロナウイルスということになります。
 過去1回目の報告は、2003年に中国広東省からの感染者を発端に、32の地域と国にわたり約8,000人に感染し774人が死亡したと報告されている重症急性呼吸器症候群(SARS)です。日本では当初、可能性例と疑い例を合わせ数十例が報告されましたが、最終的にはSARSの可能性は否定されました。SARS元来の固有動物(感染源動物)はコウモリが疑われていますが、確定はされていません。
 2回目は2012年に報告された中東呼吸器症候群(MERS)です。MERSはアラビア半島諸国を中心に約2500人が感染し858人が死亡しています。日本での感染者は報告されていませんが、隣国の韓国では中東で感染した1人を発端として、計186名の感染者が報告されました。ヒトコブラクダがMERSの感染源となった固有動物と考えられています。

<COVID-19の臨床像>
 中国では新たな感染者は減少し始めていますが、日本を含めたその他の地域では感染が拡大しています。
(症状と経過)
 経過は発症から1週間くらいはかぜ(上気道炎)のような症状がみられ、その後、悪化する場合は肺炎を認めます。感染しても症状のない無症候性感染者を含む軽症者も多いと考えられています。
 症状は、患者さんのほとんどにが認められ、乾いた咳が特徴です。鼻汁や下痢・嘔吐などの胃腸炎症状は少ないようです(発熱80~90%、咳70%、倦怠感40%、痰30%、息切れ20%、咽頭痛・頭痛・筋肉痛・関節痛15%、鼻汁5%、嘔吐・下痢症状4%)。
 重症度は、80%はかぜ症状のみの軽症者15~20%が肺炎となり入院となることもある中等症の方5%が致命的となる重症者です。
 潜伏期間
(感染者に接触してから症状がでるまで)は平均5~6日(最短1日~最長12日)で、この最長12日間の潜伏期間というのが、感染者と接触した場合、他人との接触をしないように自宅待機しなければいけない期間となる14日の根拠となっているようです。
 状態を悪くする要因は、年齢が60歳以上であること、高血圧・糖尿病・心血管疾患・慢性肺疾患・がんなどを持病(基礎疾患)として持っている方です。19歳以下で中等症以上になったのは2.5%です。
 小児は軽症例が多く、普通のかぜ(感冒)と区別がつきにくく、感染しても無症状である可能性もあります。通常、1~2週間で回復する経過です。
 19歳以下の感染は全体の2.4%と報告されていますが、若年者だけ感染する機会が少ないとは考えにくいため、感染しても症状がないか、または軽症のため感染者の数に入っていない可能性が考えられます。
 小児で軽症例が多い理由は不明ですが、6歳までに通常のコロナウイルス(4型)の抗体を100%近く持っていて高い抗体価を維持しているため、つまり他の4種類のコロナウイルスの抗体が免疫として働いている(交差免疫)可能性が考えられています。
 したがって、乳幼児や小児では、熱が長く続き、肺炎、中耳炎、さらに脳症を合併することがあるインフルエンザウイルス、RSウイルス、ヒトメタニューモウイルスなどの感染症や、腎炎、リウマチ熱を合併する溶連菌感染症の方が重症になる可能性が高い病気だと言えるでしょう。
(致死率)
 致死率(致命率)は中国全体で3.8%、発生源の武漢では5.8%、武漢以外の中国では0.7%(2020年2月20日現在)です。武漢で致死率が突出しているのは、医療体制が追い付かない状態(医療崩壊)になってしまったからです。
 年齢別による致死率は、19歳以下で死亡したのは1名のみ(基礎疾患の有無は不明)で、80歳以上になると21.9%と高率になります(0~9歳:0%、10~39歳:0.2%、40~49歳:0.4%、50~59歳:1.3%、60~69歳:3.6%、70~79歳:8%、80歳以上:21.9%)。
 基礎疾患別による致死率は、心血管疾患:13%、糖尿病:9%、高血圧:8%、慢性呼吸器疾患:8%、がん:8%となります。
 致死率は、同様に新型コロナウイルスが原因であったSARS(2003年)は9.6%MERS(2012年)は34.4%とCOVID-19と比較してかなり高率でした。日本で最初に報告されたCOVID-19の患者さんの致死率が高かったのは、クルーズ船の乗客のほとんどが高齢者だったためです。
 また、毎年流行する季節性インフルエンザの致死率は1%未満で、抗インフルエンザ治療薬が普及している日本では約0.1%(若年者0.01%~高齢者0.3%)と報告されおり、COVID-19の致死率はインフルエンザの10倍程度と考えられています。
 「致死率(致命率)= 死亡患者数 / 病気にかかった患者数」で計算され、インフルエンザ致死率を計算するときの患者数(分母)は、発熱して咳などの症状を認め簡易的な迅速検査でインフルエンザと診断された患者さんの総数となります。COVID-19は症状が軽い場合や無症候性感染者は患者数(分母)には含まれていませんので、もしこのような人たちが診断されて患者数に含まれるとすると、致死率はもっと下がってくると考えられます。
(感染様式と感染防御)
 COVID-19は、飛沫(ひまつ)感染接触感染により人から人へ感染します。感染者が咳をしていて、それを近くにいる人が直接浴びてしまうと高率で感染してしまいます。お互いにマスクをすることで近隣者からの感染を防ぐことができます。また、ウイルスが手や体についただけでは感染しませんが、手を介してウイルスが口の中に入ると感染してしまいます。人は知らず知らずのうちに口に手が行ってしまうため、マスクをすることで接触感染を防ぐことができます。

-感染症式-
飛沫感染:感染者が咳やくしゃみをしたときにでる細かい粒子にくっついたウイルスや細菌を、近くの人が直接口や鼻から吸い込むことにより感染します。
(例)かぜ、インフルエンザ、風しん、百日咳など
空気感染:感染者が咳やくしゃみをしたときにでるウイルスや細菌が空気中に浮遊し、そのウイルスや細菌を吸い込むことにより感染します。広範囲に多くの人へ感染する恐れがあり、飛沫感染より感染力が強いと考えられます。
(例)結核、麻しん(はしか)、水痘
接触感染:感染者に直接触れたり、感染者が触れたものから感染します。
(例)インフルエンザ、ノロウイルス、ロタウイルス、大腸菌など

 COVID-19の広がりやすさは、通常は1人の感染者から1~3人と考えられています。閉鎖空間であること、長時間の接触で感染のリスクは上昇し、1人から86人に感染したとの報告もみられ集団感染(クラスター感染)の原因となっています。また、感染者の80%は他者への感染を生じていないとも報告されているため、一部の感染者が感染を広めていると考えられています。
 また、無症候性感染者からも、症状のある感染者と同等のウイルス量を排泄しているとの報告もあるため、自身の感染を知らない無症候感染者や軽症者が感染を広めている可能性が考えられます。
 また、感染経路として家族内感染が指摘されており、特に親から子への感染が多いと報告されています。通常、子どもが感染症にかかると、子どもを介護する親に感染してしまうケースは多いのですが、その逆の親から子への感染はあまり多いという印象はありません。親は子どもにうつさないようにマスクをしたり、手洗いをこまめに行うからです。COVID-19が親から子への感染が多い理由は、親が感染していても軽症であるため、自分が感染しているという自覚がなく十分な感染予防ができていない可能性が疑われます。
 したがって、COVID-19の感染拡大を防ぐには、熱や咳などの感染症状を認める人のみが自宅待機するだけでは不十分で、非常に症状の軽い人、または症状のない人もお互いに接触する機会を減らすしかないと考えられます。その点では、感染を広める一つの集団である子どもたちの学校を休校にするというのは理にかなっている対応策だと思います。
(診断と治療)
 診断はウイルスの遺伝子を増幅して遺伝子配列から診断するPCR検査のみで行われています。3月5日現在、日本でPCR検査は6647件行われ333人が陽性(陽性率5%)となっています。ただし、COVID-19のPCR検査の感度は7割くらいと言われているため、100人の感染者を検査しても70人しか陽性とはならず、残りの30人は「感染してなかった」と思ってしまう感染者となります。
 3月6日からPCR検査が保険適応となりましたが、一般の病院や診療所(クリニック)で検査ができるわけではなく、今までと同様に全国に800カ所程度指定されている「帰国者・接触者外来」を保健所から紹介してもらい受診して検査することには変わりありません。
 また、たとえ検査でCOVID-19と診断されたからといっても特効薬はありません。有効性が報告されているHIV治療薬やインフルエンザ治療薬は、入院管理されている患者さんの中でも特に重症な方が対象となっています。喘息の時に使用するステロイド吸入薬が有効であると報告されていますが、ステロイドの抗炎症作用は以前から一般の肺炎にも有効な対症療法(症状を緩和する治療)であることが示されているので、COVID-19の肺炎に特別な治療法ではありません。
 したがって、現在PCR検査をする目的は1)入院して治療をするときに、他の感染症との鑑別が必要なため、2)自身が感染者であることを知って他者に感染を広めないため、ということになります。

(2020年3月6日:内容は適宜更新します)

<参考文献>
Zunyou Wu, McGoogan JM. Characteristics of and important lessons form the coronavirus disease 2019 (COVID-19) outbreak in China
JAMA. Published online February 24, 2020. doi:10.1001/jama.2020.2648


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