今月、映画館で見た作品の覚書きです。
旅するローマ教皇 / 原題:In viaggio
・製作国: イタリア
・製作年: 2022年(日本公開: 2023年10月)
・鑑賞日: 2023.11.6.
本作は、第266代ローマ教皇フランシスコが、
2013年3月の就任後から昨年2022年までの間に各国を訪れた際の、
アーカイブ映像を中心に取りまとめられた、ドキュメンタリーです。
9年間で37回の旅を通じ、53ヶ国を訪れたという教皇フランシスコは、
訪問先の国や地域で、カトリック教会の最高位に在りながら、
信者ではない一般の人々にも分かりやすい言葉で語りかけ、
我々を取り巻く世界の諸問題に、メッセージを発し続けています。
深刻化する難民問題。環境破壊に起因した自然災害が引き起こす甚大な被害。
終わらぬ地域紛争の戦火は激化し、遠のく平和と、拡大する世界の分断。
そして、聖職者による未成年者への性的虐待と、
教会が加担した先住民への差別と同化政策に対する、ローマ教皇からの謝罪。
発する言葉の力で、教皇フランシスコのメッセージがじわじわと心に残るため、
映像的には逆に、教皇の沈黙を映し出した場面が印象深く感じられ、
巧みな編集と思いました。良質な作品です。
サタデー・フィクション / 原題:蘭心大劇院 / 英題 Saturday FicitonIn
・製作国: 中国
・製作年: 2019年(日本公開: 2023年11月)
・鑑賞日: 2023.11.6.
1941年12月。
太平洋戦争開戦直前の上海租界を舞台とした、スパイものです。
現実と、劇中劇の世界とを、モノクロの雰囲気溢れる映像で
行ったり来たりする本作は、主演のコン・リーこそが、見どころ。
コン・リーがスクリーンに映し出されると、
彼女に目が吸い寄せられるように、彼女を中心に画が引き締まります。
役者として場面を支配するコン・リーの存在感を、
たっぷりと楽しむ映画でした。
NTライブ: 善き人 / 原題:Good
・製作国: イギリス
・製作年: 2023年(日本公開: 2023年10月)
・鑑賞日: 2023.11.16.
ドイツでナチスが政権を掌握した1933年から、
アウシュヴィッツへの強制連行が拡大した1941年頃までを背景に、
教養も常識も持ち合わせていた筈の、普通のドイツ人が、
気づけばナチスへと取り込まれ、最早引き返すことも不可能な程に、
言われるがままにナチスの政策に加担していく様を描きます。
原作は、スコットランド出身で、ユダヤ系のルーツを持つ劇作家、
C.P.テイラーの同名戯曲。2008年には、ヴィゴ主演の映画版 も
製作されており、そちらは、日本では2012年に公開されました。
NTライブ版では、主人公ハルダー役をD.テナントが務め、
その他の登場人物を、E.リーヴィーとS.スモールが演じますが、
まずは、後者二人の役者が衣装変えも無く、
多くの登場人物を次々に演じ分けていく様が実に見事であり、
他方、主役ハルダーの変貌を、対照的に一人の役者が演じることで、
ストーリー終盤の衝撃が、より鮮明になったと思います。
(ここから先は、未鑑賞者は知らない方が良い、ネタバレあり)
私は映画版を公開当時に見て、話の展開は知っていたのですが、
物理的制限のあるステージ空間を、照明とサウンドを変化させることで、
場所や時の移ろいを表現し、二人の役者の台詞回しと身体パフォーマンスだけで、
複数の人々を舞台上に出現させていくNTライブ版の本作において、
主人公ハルダーに、まさか、ナチスの制服へ着替えさせる演出があるとは
思いもせず、具体的に視覚化されたその姿は、大変ショックでした。
あわせて、最後の最後に、メインの三人とは別の役者たちを登場させて
アウシュヴィッツ収容所を描いたことも、自分は善人だ、仕方がなかったんだと、
言い訳を重ね、流されてきた結果招いた、目を逸らすことを許されない現実として
眼前に突きつけられた感が重く、何とも言えない気持ちになりました。
見応えある充実の2時間半を、映画館で過ごせました。
旅するローマ教皇 / 原題:In viaggio
・製作国: イタリア
・製作年: 2022年(日本公開: 2023年10月)
・鑑賞日: 2023.11.6.
本作は、第266代ローマ教皇フランシスコが、
2013年3月の就任後から昨年2022年までの間に各国を訪れた際の、
アーカイブ映像を中心に取りまとめられた、ドキュメンタリーです。
9年間で37回の旅を通じ、53ヶ国を訪れたという教皇フランシスコは、
訪問先の国や地域で、カトリック教会の最高位に在りながら、
信者ではない一般の人々にも分かりやすい言葉で語りかけ、
我々を取り巻く世界の諸問題に、メッセージを発し続けています。
深刻化する難民問題。環境破壊に起因した自然災害が引き起こす甚大な被害。
終わらぬ地域紛争の戦火は激化し、遠のく平和と、拡大する世界の分断。
そして、聖職者による未成年者への性的虐待と、
教会が加担した先住民への差別と同化政策に対する、ローマ教皇からの謝罪。
発する言葉の力で、教皇フランシスコのメッセージがじわじわと心に残るため、
映像的には逆に、教皇の沈黙を映し出した場面が印象深く感じられ、
巧みな編集と思いました。良質な作品です。
サタデー・フィクション / 原題:蘭心大劇院 / 英題 Saturday FicitonIn
・製作国: 中国
・製作年: 2019年(日本公開: 2023年11月)
・鑑賞日: 2023.11.6.
1941年12月。
太平洋戦争開戦直前の上海租界を舞台とした、スパイものです。
現実と、劇中劇の世界とを、モノクロの雰囲気溢れる映像で
行ったり来たりする本作は、主演のコン・リーこそが、見どころ。
コン・リーがスクリーンに映し出されると、
彼女に目が吸い寄せられるように、彼女を中心に画が引き締まります。
役者として場面を支配するコン・リーの存在感を、
たっぷりと楽しむ映画でした。
NTライブ: 善き人 / 原題:Good
・製作国: イギリス
・製作年: 2023年(日本公開: 2023年10月)
・鑑賞日: 2023.11.16.
ドイツでナチスが政権を掌握した1933年から、
アウシュヴィッツへの強制連行が拡大した1941年頃までを背景に、
教養も常識も持ち合わせていた筈の、普通のドイツ人が、
気づけばナチスへと取り込まれ、最早引き返すことも不可能な程に、
言われるがままにナチスの政策に加担していく様を描きます。
原作は、スコットランド出身で、ユダヤ系のルーツを持つ劇作家、
C.P.テイラーの同名戯曲。2008年には、ヴィゴ主演の映画版 も
製作されており、そちらは、日本では2012年に公開されました。
NTライブ版では、主人公ハルダー役をD.テナントが務め、
その他の登場人物を、E.リーヴィーとS.スモールが演じますが、
まずは、後者二人の役者が衣装変えも無く、
多くの登場人物を次々に演じ分けていく様が実に見事であり、
他方、主役ハルダーの変貌を、対照的に一人の役者が演じることで、
ストーリー終盤の衝撃が、より鮮明になったと思います。
(ここから先は、未鑑賞者は知らない方が良い、ネタバレあり)
私は映画版を公開当時に見て、話の展開は知っていたのですが、
物理的制限のあるステージ空間を、照明とサウンドを変化させることで、
場所や時の移ろいを表現し、二人の役者の台詞回しと身体パフォーマンスだけで、
複数の人々を舞台上に出現させていくNTライブ版の本作において、
主人公ハルダーに、まさか、ナチスの制服へ着替えさせる演出があるとは
思いもせず、具体的に視覚化されたその姿は、大変ショックでした。
あわせて、最後の最後に、メインの三人とは別の役者たちを登場させて
アウシュヴィッツ収容所を描いたことも、自分は善人だ、仕方がなかったんだと、
言い訳を重ね、流されてきた結果招いた、目を逸らすことを許されない現実として
眼前に突きつけられた感が重く、何とも言えない気持ちになりました。
見応えある充実の2時間半を、映画館で過ごせました。