石坂流の鍼について
30歳ごろだったか、パソコンによる頸の凝り悩む私に、職場の友人が鍼の先生を紹介してくれた。それが後藤光男先生(1923 - 2010)で、その後10年近くお世話になった。昨年86歳でお亡くなりになられたが、その奥様である後藤ふじ子先生は今も現役で鍼治療を続けており、時々治療して頂いている。この文ではその後藤先生の鍼の流派である”石坂流”について少し説明したいと思う。
石坂流とは、江戸時代後期、将軍におつきの鍼医である侍医法眼だった石坂宗哲(1770-1841)の流れを受け継ぐ鍼の流儀だ。シーボルトに鍼灸を紹介し、古典の見直しとオランダ医学を取り入れ鍼灸の近代化・合理化を図った。著書も「鍼灸知要」「内景備覧」など多数ある。「石坂流鍼治一二条提要」では、「難経」以降「黄帝内経」は過った改ざんがされ、内径本来の古典の奥義は明らかで無くなってしまった、と批判している。また邪気停留するところ、痛むところはどこでも穴と考え、鍼を打って良い、と斬新な考え方を示している。
石坂流の鍼の特徴を列挙してみると、次のようになると思う。
1)症状のある部位(局所)にあまりとらわれず、患者の生命力そのもののレベルを上げていく本治療法的考え方。
2)経絡にとらわれない。現代人の反応点(及び治療点)は古代の人は違う。よってその人の体に表れている硬結をとらえ、そこに鍼を打つことで、体全体の歪みを取っていき、結果症状を直していく。
3)脊椎際を特に重点的に治療する。
4)比較的深く鍼をさす。
5)鍼を刺入後、押し手を離さず、硬結があれば、入念に揉撚(じゅうねん・揉みほぐす)する。置鍼はしない。鍼を打つのは1本づつ打つ。
後藤先生は石坂流の後継者町田栄治先生より、その手法を学んだ。昨年町田先生の別のお弟子さんにお会いすることができ、最近継続的に鍼治療して頂いている。今後はその先生から、石坂流の鍼の打ち方をすこしづづ教わりたいと思っている。
<石坂流関連図書>
「石坂流鍼灸の世界」:町田栄治著
「日本鍼術に生きて」:町田栄治著
「鍼灸で病気を直す」:後藤光男・仙人鍼の会編著