ゆうの気まぐれ日記

備忘録のつもりで書いています。

『わたしを束ねないで』

2024年08月21日 | 日記

わたしを束ねないで  新川 和江

 

わたしを束ねないで

あらせいとうの花のように

白い葱のように

束ねないでください わたしは稲穂

秋 大地が胸を焦がす

見渡すかぎりの金色の稲穂

 

わたしを止めないで

標本箱の昆虫のように

高原からきた絵葉書のように

止めないでください わたしは羽ばたき

こやみなく空のひろさをかいさぐっている

目には見えないつばさの音

 

わたしを注がないで

日常性に薄められた牛乳のように

ぬるい酒のように

注がないで下さい わたしは海

夜 とほうもなく満ちてくる

苦い潮 ふちのない水

 

わたしを名付けないで

娘という名 妻という名

重々しい母という名でしつらえた座に

坐りきりにさせないでください わたしは風

りんごの木と

泉のありかを知っている風

 

わたしを区切らないで

,(コンマ)や .(ピリオド) いくつかの段落

そしておしまいに「さようなら」があったりする手紙のようには

こまめにけりをつけないでください わたしは終わりのない文章

川と同じに

はてしなく流れていく 拡がっていく 一行の詩

 

今日の新聞に詩人の新川和江さんの訃報が報じられていた。

95歳。心筋梗塞で亡くなられたとのこと。

私の好きな詩の一つが新川和江さんのこの『わたしを束ねないで』

新川和江さん、素敵な詩を残して下さりありがとうございます。

ご冥福をお祈りいたします。

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