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たわ言、泣き言、独り言 時々新刊案内

淡水魚類地理の自然史―多様性と分化をめぐって

以下の本を読了しました。
これから感想を書いていきたいと思います。

淡水魚類地理の自然史―多様性と分化をめぐって(渡辺・高橋編2009)
https://amazon.co.jp/dp/4832981927/ref%3Dcm_sw_r_tw_dp_U_x_oN7ZCb6MJN4N6


まず全体的な感想です。本書はおもにmtDNAの解析による淡水魚類の系統地理分析について書かれています。その分析ですが、パズルのピースがぴたりとはまるように結果が出るかと言えばそうではなく、そのぴたりとはまらないところに、2度よる分散の結果であったり(トミヨ属淡水型,P.59~)、遺伝子浸透の結果であったり(シマドジョウ類,P.87~,他)、あるいは人為的影響であったり(ギンブナ,P.153~)と仮説が立てられています。ぴたりと合わないところに答えが有る。それがとても面白かった。

次に各部を追いながら感想を述べてゆきます。

まず第1部。
ここでは淡水魚類地理へのアプローチと題して、これまでの研究史、日本列島の地質学的歴史、そして系統地理学の方法論について書かれています。わたしは中でも日本列島の地質学的歴史に興味がわきました。
それは次の記述“「準平原の卓越時代」から「大扇状地時代」への移行は,50万年前後には六甲山付近にまで波及した~”を読んだからです。この記述は、琵琶湖地域の魚類相が、過去の大陸型の魚類相に近いものから、現在ような魚類相へ移行した時代を表しているのではないかと、そう感じたからでした。

次に第2部。
ここでは淡水魚類の分布域パターン形成と題して、冷帯性淡水魚類、サケ科魚類、温帯性淡水魚類、メダカ、アユ、それぞれの系統地理分析について書かれています。ここを読んで、やはりパズルのピースがぴたりとはまるわけでない分析結果にこそ、そこに何かが隠れているのだなと感じました。

次に第3部。
ここでは種を越えた系統地理と題して、種間交雑をともなう系統地理(チチブ類とトゲウオ類、ヨシノボリ類)、単性生殖種をともなう分布域形成(ギンブナ)について書かれています。遺伝子に残る過去の分布拡大の残像とでも言うようなゴーストはとても興味深いと感じました。

最後に第4部。
ここでは淡水魚類相の総合的理解に向けてと題して、琉球列島のハゼ類の系統地理、淡水魚類化石の変遷、魚の居場所を拓く生態プロセス、さらにこの分野(淡水魚類の系統地理)のより深い理解に向けて、その課題について書かれています。
第4部の中で興味を引かれたのは化石の変遷でした。かつて、琵琶湖地域には今の中国大陸にいるような魚類がいたこと。しかし約50万年前以降に大きな変化があったこと。これが日本列島の地質学的歴史に連動していてとても興味深いと感じました。

以上が、本書を読んだ感想です。
読み始めてからかなり時間が経ちました。なかなかの読み応えでした。淡水魚類の系統地理について、他の本を読んだことはないのですが、最初にこの本を読んで良かったと思いました。本書を紹介していただいてありがとうございました。

※この記事は2019年5月6日に Twitter に投稿したつぶやきに加筆修正して再構成したものです。
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