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たわ言、泣き言、独り言 時々新刊案内

淡水魚保全の挑戦: 水辺のにぎわいを取り戻す理念と実践

以下の本を読了しました。これから感想を書いていきたいと思います。

日本魚類学会自然保護委員会編(渡辺・森責任編集).2017「淡水魚保全の挑戦:水辺のにぎわいを取り戻す理念と実践」東海大学出版会
https://amazon.co.jp/dp/4486021266/ref%3Dcm_sw_r_tw_dp_U_x_6ucpCbJKM8Q02


まず全体的な感想です。希少となった淡水魚を保全するため、各地で行われている挑戦の数々に感銘を受けました。上手くいってるもの、問題を抱えているもの、そのそれぞれが、背景にあるご苦労を想像させ、一筋縄ではいかないであろう淡水魚保全と、そこにかける関係者の熱意が伝わってくるものでした。

ここからは各部ごとの感想を述べていきます。

まず第1部。日本産魚類の置かれている危機的状況と、保全手段としての放流について書かれています。全体的な印象は、読みやすく、コンパクトに、手短にまとめられているように感じられました。こここで少し残念なに感じたことを、これから書きます。
日本産魚類が危機的状況に陥った経緯、そして保全手段としての放流という考えに至るまでの経緯には、研究者もまた水産試験場などの公的機関等に携わることで(いまでは有害だとわかる)放流を行ってきた事実があります。ブルーギルの放流まで行ってきました。そのことは反省点として触れて欲しかった。
ある時期、地域には、魚の放流や取り上げが、巻頭言で触れられている川ガキと同じように、郷土の情景であったことがありました。そういう時期、地域に幼少期を過ごした方の思いを、現在の生物多様性の保全という概念で真向否定するのは簡単ではない場合もあると思います。その点にも触れて欲しかった。
紙数の都合もあるとは思うのですが、淡水魚との関わりの中で、研究者が過去に行ってきたことや、地域の方々が過去に経験してきたことについて知ることは、現在の状況や、保全手段としての放流について学ぶ前に、知っておいた方がよいと、わたしは考えます。

次に第2部。各地で行われている淡水魚保全の実例が、そこに携わっている方々の筆致で描かれています。その中でもわたしが関心を持ったのはイタセンパラの再導入でした(P67-85)。他の事例と違って大都市を流れる河川での事例です。溜池や農地の権利者はいない代わりに河川管理者がいます。
そう言う点で他の事例とは違う難しさがあったと思います。また、淡水魚保護の黎明の地の1つであった場所ですが、市民の普段の生活環境とはある意味隔絶してしまった場所です。ですから、市民の関心を持続させることは容易なことではなかったと思います。
市民、行政、企業、研究者が連携し、しかもその連携が発展している様はすごいと感じました。しかし昨年、水道記念館のイタセンパラが全滅したように、政治に翻弄される側面があるのも確かです。生息地が溜池や農地とは違うだけに、公的な予算の付き具合いかんがイタセンパラの生命線を左右します。
ウシモツゴの保全事例(P117-131)では、オオクチバスの大規模な違法放流が強く疑われる事例が書かれています。この事例は、単なる出来心で放流したというようなものではなく、計画的に、用意周到に違法放流を行ったように感じられます。
そのような事態を防ぐには、書かれているようにオオクチバスの流通を制限することが必要だと感じました。
ヒナモロコの事例(P161-172)では、地域に保全活動を根付かせる難しさを感じました。うまくいかない事例こそ、今後の保全活動の役に立つのではないかと感じました。

次に第3部。ここでは魚類を増やしていく上での、水族館の役割、人工構造物等について、サケ科外来魚について、環境保全の三位一体説について書かれています。中でも注目したのが、サケ科外来魚について書かれた部分。遊漁者とのかかわりついて多くの紙数が割かれています。
その中でも教育が大切だと書かれている部分には大いに首肯しました。

これで本書についての感想は終わりです。苦言めいたことを最初に書きました。書こうかどうか迷いました。しかし、淡水魚の保全には市民の協力が不可欠です。その市民に、研究者が、保全の大切さを訴えるには、研究者側の過去の自己開示も必要だと考えました。
それからもう一つ。それぞれの保全の現場で、ほんとうはすごいご苦労があったと思います。しかし、そういった記述が少ない。これから保全に関わろうとする人たちが知りたいことの中には、そういった苦労した部分も含まれていると思います。ですから、そういった記述がもう少しあればと思いました。

※この記事は2019年1月28日に Twitter に投稿したつぶやきに加筆修正して再構成したものです。
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