書評「精神世界の本ベスト100」

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● [69] NATURE FIX/フローレンス・ウィリアムズ(NHK出版)──自然が最高の脳をつくる

2017年09月04日 | 書評
 誰でも森や海など自然豊かな環境に行くと、「気持ちがいい」「元気になった」という経験をしたことがあるでしょう。自然の中で過ごすと健康によいことは、誰もが体感していることだと思います。
 しかし、なぜそうなのか? その科学的根拠については、つい最近までほとんどわかっていなかったのです。
 本書は、米国の科学ジャーナリストである著者が、自然と健康に関する研究をしている数多くの専門家たちを取材し、その科学的根拠をまとめた本です。

 巻末の解説の中で、自然セラピーを提唱している宮崎良文(千葉大学教授)は、本書について次のように述べています。
「運動が脳にいい影響を及ぼすことは、すでに科学的に解明されているけれど、『自然環境』も心身の健康には必要だ。そう考えた彼女は、自然と健康に関する科学を研究している専門家を訪ね、日本、韓国、イギリス、フィンランド、スウェーデン、シンガポールなどに飛んだ。
 そして著者自ら実験に参加しながら、脳活動を中心に、心拍変動性やストレスホルモン計測に関わる研究の現状を紹介している。自然セラピー研究の世界の動向を把握するには絶好の書籍である」

 宮崎教授の研究グループは、環境に対する生理機能の反応を調べた結果を次のように報告しています。
「森のなかをゆっくりと散策すると、都会を歩いているときと比べて、従来ストレスホルモンと呼ばれていたコルチゾール値が16%も下がることを発見した。それだけではない。交感神経の活動が4%、血圧が1.9%、心拍数も4%下がった。また、ほとんどの被験者は気分が良くなり、不安感が軽減したという結果が出た」

 また宮崎教授と共同研究を行なっていた李卿(りけい)は、他の実験で、NK細胞が活性化したことを報告しています。
「東京在住の中年のビジネスマンの一団を森に連れていき、3日間、2~4時間ほど森のなかをハイキングしてもらった。3日後に血液検査を実施したところ、ビジネスマンのNK細胞が40%も増大していることがわかった。さらにその後も7日間、NK細胞が増えた状態は持続した。1か月が経過しても、NK細胞の数は森ですごす前よりも15%も多かった」
 NK細胞は、がん細胞やウイルス感染細胞などを見つけ攻撃するリンパ球ですが、なぜこの実験で増えたのだろうか?
「李はさらなる臨床実験を重ねた結果、樹木が発散する香り『芳香性揮発物質(フィトンチッド)』がNK細胞を活性化することがわかった。そればかりではない。樹木の香りには、NK細胞のみならず、抗がんタンパク質、腫瘍細胞の細胞死をうながすグラニュライシン、グランザイムAとB、パーフォリンといったタンパク質分解酵素も増大したのである」 

 嗅覚(匂い)だけではなく、視覚による癒し効果もあるようです。
 ナノ粒子物理学者リチャード・テイラーは、視覚系のフラクタル構造が、視野に入ったフラクタル映像と適合すると、生理学的な共鳴が起こり、ストレスがやわらぐと言っています。
「雲であれ、景色であれ、自然界のさまざまなパターンはフラクタルで構成されている。私たちは自然界に存在するフラクタルのパターンをもっと見る必要があるのに、それが充分にできていない」
 直線状の建物が連なる環境で、私たちは目にやさしく、ストレスを軽減する自然界との結びつきを失いつつあるようです。

 最後に、自然と人間の感情について興味深い研究もあります。
 ケストナー(カリフォルニア大学教授)によれば、数あるポジティブな感情のなかで、『畏怖の念』を抱くことが、自己中心的な考え方が抑えられ、社会の利益へと視野が広がる効果があると言っています。彼が行なった臨床実験によれば、『畏怖の念』を抱くことは人との絆を強め、それによって炎症がおさまり、ストレスがやわらぐことがわかったという。
「人知を超えた自然の圧倒的な力に直面したとき、人は助けあって絆を強めることで環境に適応し、進化してきた。そうやって、こんにちまで生き抜いてきたのだ」
 私たちは、満天の星や大海原など雄大な自然の光景を目の前にした時、敬虔な気持ちになることがある。そういえば、宇宙飛行士が宇宙から地球を眺めた時の感情も「畏怖の念」だったのかも知れない。

【おすすめ度 ★★★】(5つ星評価)


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