ささやんの天邪鬼 座右の迷言

世にはばかる名言をまな板にのせて、迷言を吐くエッセイ風のブログです。

デイサで読む五木ワールド

2023-09-29 12:21:23 | 日記
私は毎回、デイサへの通所時に文庫本を携え、リハビリまでの時間つぶしにこれを読むことにしている。
最初はモンテーニュの『エセー』を読もうとしたが、これは早々に断念した。デイサの騒音ーーふだんはそう感じることはないのだがーーの中では、この思想書にじっくり集中することができないと判ったからである。


困ったことだが、何が気にかかるのか、何人ものスタッフが次々と寄ってきて、
「何を読んでいるんですか?」などと訊いてくる。
「モンテーニュの『エセー』ですよ」と答えると、
「モンテーニュって、どんな人なんですか?」
「どんなことが書いてあるんですか?」
などと、質問には切りがない。


そんなこんなで、モンテーニュは自宅でじっくり読むことにし、きのうはデイサに五木寛之の『僕はこうして作家になった』を持っていった。


案の定、介護士のスタッフが「何を読んでいるんですか?」と訊いてくる。
「これです」
私は文庫本の表紙を見せ、「この五木寛之って人、知ってます?」と、そのオバサンに逆に訊き返してみた。
「ああ、名前は聞いたことがあります」
「この人はね、今は90ぐらいの爺さんだけど、僕が高校生のころは格好よくて、僕にとってはアイドル的な存在だったのですよ」
答えながら、私はふと、昔テレビで流れたCM映像を思い浮かべた。
「禁煙パイポ」という禁煙グッズのCMだった。
「私はコレで会社を辞めました」
そう言って、男が小指を差し出す。そして、やおら「禁煙パイポ」を取り出し、「私はコレでタバコを止めました」と呟くのである。


私が言いたかったのは、「私はコレで会社を辞めました」ということだった。
コレとは、当時、魅力的な小説をばんばん書いて、飛ぶ鳥を落とす勢いで頭角を現してきた「五木寛之」なる作家である。
私はこの作家とその作品に憧れ、自分もこんな作家になりたいと考えて、迷わず当時の勤め先(茨城県庁)を辞めたのだった。
辞めてから、何作か新人賞に応募したものの、落選続きで、当然といえば当然のことだが、自分の望み通りに行かなかったことは、言うまでもない。


その後、私は「でもしか先生」に転身を図ろうとして、哲学・思想系の大学院に進んだが、このことについてはこのブログですでに述べた。


あれから、かれこれ半世紀がたつ。
人生とは面白いものだ。私は今、古希を越え、デイサの片隅でこの老大家の著書『僕はこうして作家になった』を読んでいる。「また、あの病魔がぶり返さなければいいがなあ」などと念じながら、(昔々の)五木ワールドにのめり込んでいる。

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