ささやんの天邪鬼 座右の迷言

世にはばかる名言をまな板にのせて、迷言を吐くエッセイ風のブログです。

国際裁判と中国

2016-07-14 15:07:05 | 日記
国内では祭りが終わったばかりだが、目を転じると、国外には
嵐の気配が漂いはじめている。風雲急を告げるといったほどで
はないが、何やら不気味な暗雲が近づいてきている。そんな気
配が感じられるのだ。

懸念されるのは、このところの中国の態度である。領有権をめ
ぐる中国とフィリピンとの間の係争に、このほどハーグの仲裁
裁判所が判決を下し、(南シナ海のほぼ全域に自国の主権が及
ぶとする)中国の主張を、全面的に退けた。中国はこの判決を
認めようとせず、判決に従わない姿勢をあらわにしているので
ある。

適切な例とは言えないが、ひとつ次のようなケースを考えてみ
よう。どこかの無法者Aが、空き地になっている他人の土地に
勝手に入り込み、杭で囲って、「ここは俺のものだ」と主張し
たとしよう。そこに、この土地の所有者Bが権利書を持って現
れ、「いや、ここは私の土地だ」と主張して、裁判に訴える。
裁判所が「この土地はA のものではない」と判決を下して
も、Aがそれを認めず、この土地に居座り続けるとしたら、一
体どういうことになるのか。

このケースが適切な例ではない、と言ったのは、ここから先の
成り行きが、無法者Aと中国の場合では大きく異なるからであ
る。Aの場合には、彼がこの土地に家を建ててそこに住み続け
ようとしても、その建物は、公権力によって強制的に撤去され
る。Aが抵抗して作業を妨害しようとすれば、Aは公務執行妨
害の罪で、刑務所に収監されるだろう。

中国の場合、これと違うのは、当事者を判決に従わせる強制的
な公権力がそこには存在しないことである。

(国際的な警察部隊とも言うべき)国連の平和維持軍を出動さ
せれば、公権力の行使ということになるのだろうが、そんなこ
とは、中国が持つ拒否権の壁によってブロックされるだろう。

ならば、ということで、世界の警察官を自認するアメリカが、
日本など同盟国と結託して軍事的な圧力をかける挙にでれば、
世界大戦の引き金を引くだけのことだろう。嵐の気配が感じら
れる、と私が言ったのは、このことである。
いずれにしても、事態の解決にはほど遠い。

さて、それではどうするのか。どうすれば、事態は収拾できる
のか。二日ほど頭を悩ませたが、よい知恵が浮かばないので、
ここは苦しいときの神頼み、新聞社説の叡智に頼ることにし
た。

だが、私の期待はすぐに裏切られた。ほとんどの社説は、事態
の収拾など問題にせずに、ただ一方的に「正論」を吐くだけだ
からである。たとえば毎日は次のように述べている。

「中国は判決について「無効で受け入れない」との声明を発表
したが、拘束力を持つ国際司法の判決を、国連安保理常任理事
国が拒否するのでは「法の支配」が崩れ、国際秩序が成り立た
ない。中国は判決を重く受け止め、南シナ海の緊張を高めるよ
うな行動を自制すべきだ。」
(7月13日付《南シナ海判決 海洋の常識が示された》)

こんな毎日の「正論」など、馬の耳に念仏というもの、中国首
脳の耳のはるかかなたを素通りするだけだろう。「中国は受け
入れ拒否が不名誉で、無責任な判断であることを自覚すべきだ」
とも毎日は述べるが、この国は「恥を知れ!」とか「無責任
だ!」といった言葉が通じるような相手ではない。

ならば、ということで、軍事的圧力を、と言う意見もある。
「日米など先進7か国(G7)が主導し、中国に判決を尊
重するよう粘り強く促さねばならない。
 米国がフィリピンなどと連携し、人工島周辺で「航行の
自由」を体現する巡視活動を継続することも欠かせない。」
(7月13日付《「南シナ海仲裁裁 中国は判決に従う義務がある》)

こう書くのは読売新聞だが、日米などがこの言葉通りの対抗措
置をとった場合、それがどういう事態をもたらすかを、読売は
考えながら書いているのだろうか。

私が目を通した限りで、いちばん説得力を持つと思えたのは、
朝日の社説である。朝日はこう述べる。
「中国自身も、過去には海洋法条約を根拠とする対外主張を
してきた。改革開放以来の歩みを振り返れば、各分野の国際
ルールに自国を合わせたことで、国の繁栄と国際的な地位の
向上に成功したのではなかったか。」
(7月13日付《南シナ海判決 中国は法秩序を守れ》)

一般論として「国際協調は、その国に発展をもたらす。国際的
な孤立は、その国の発展を損なう」と述べるのであれば、中国
も耳を貸さないだろう。だが、ほかならぬ中国の歴史を念頭に
おいて、「現在の中国の繁栄と国際的な地位の向上の歴史は、
国際協調の賜物であると自覚せよ」と迫るこの言葉は、中国首
脳の胸を打つに違いなく、この言葉を胸の奥にしまった首脳は、
自国の歴史を思い返し、噛み締めながら、今後も国際協調の姿
勢を堅持しようと自戒するに違いない。

いずれにしても、今後の事態の推移から目が離せない。
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