ささやんの天邪鬼 座右の迷言

世にはばかる名言をまな板にのせて、迷言を吐くエッセイ風のブログです。

娘に

2024-08-20 09:46:26 | 日記
テレビのニュースが「きょうは帰省ラッシュがピークをむかえています」と報じている。どうやらお盆が終わったらしい。このお盆に、娘は我が家に姿を見せなかった。娘のファミリーが我が家に「帰省」をしたのは、お盆より前の8月9日のことだった。9日の夜に来て、12日の昼前にそそくさと帰っていった。

かなり変則的だが、お盆の期間を外したのには理由(わけ)があった。お盆の期間中、娘は家族全員で北海道に旅行に行くのだそうだ。上の孫娘は現在、小学校の4年生、下の孫息子は来年の4月で小学1年生になる。育ち盛りのこの時期に父親も交えて、いろいろ経験を積ませるのは良いことだと思う。

お盆が終わった今、なぜわざわざこんなことを書くのかというと、娘が帰省している間、娘との会話で忘れがたいシーンがあったことを記しておきたいからである。

会話のきっかけは、娘が我がファミリーのアルバムを見つけ出したことである。長女と長男の成長を記録した我が家の懐かしい写真を見ながら、昔話に花が咲いた。
どういう話のとっかかりだったか、それは忘れたが、私はこう言ったのだった。

「退職してしばらくの間は、よく授業に行く夢を見たよ。授業に行こうとするのだが、どこの教室に行けばいいかがわからず、おろおろとうろたえる。そこで必ず夢が覚めるのだ」
「ふーん、授業が好きじゃなかったんだね」
と娘。
「うん、たしかに好きではなかった。好きでなかったといえば、職場の人間関係はもっと嫌だったな。大学の教員なんて、みんな人格的におかしなやつばかりで、足の引っ張り合いが日常。だからすごいストレスだったよ」
「ふーん、それで、お酒が手放せなくなっちゃったんだ」
「そういうことだ」
「パパが職場の人間関係に悩んでいたなんて、とてもそんなふうには見えなかったけど」
「ストレスから逃れるために、酒を飲みすぎたのかもしれない。そのせいで脳卒中にやられてしまったわけだが、酒を飲まなかったら飲まなかったで、ストレスにやられて、自殺していたかもしれない」
「まぁオーバーね。変なこと言わないでよ」

娘は今、東京の某私立大学で医科系の准教授のポストにありついている。もし私が、ーー父親の私が、大学という職場の環境に適応できず、日々悶々としていたことを知っていたら、娘は私と同じ大学教員の道を目指したかどうか。知らぬが仏で修羅の道に進み、運に恵まれて今の娘がいる、ということだとしても。
幸いなことに、今のところ娘はさほどのストレスを味わわないで済んでいるようだが、いつまでこんな凪のような状態が続くのか、ーー自分の歩んだ道を振り返りながら、私は今、ちょっぴり心をざわつかせている。

しかしまあ、よくよく考えてみれば、私にはやりたいことがあった。それを飯の種にできるありがたい職が大学教員の職だった。職場ではいろいろ嫌なこともあったが、やりたいことを飯の種にできる職業に就けた点で、私は恵まれていたと言えるのかもしれない。

娘にしてもたぶん同じだろう。文系と理系の違いはあれ、娘には娘でやりたいことがあり、それを実現すべく追求した結果が今現在の大学教員のポストなのだ。研究に没頭している間は、職場環境の雑事など気にならないはずだ。
思い返せば、私にもそんな幸福な時間がたしかにあった。今の(年老いて達観した)私がそうであるように、そのことだけで私は満足すべきだったのだろう。娘にはそうあってほしいと願っている。

コメント
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