蟋蟀庵便り

山野草、旅、昆虫、日常のつれづれなどに関するミニエッセイ。

命、眩しく

2005年02月11日 | 季節の便り・虫篇

 裏阿蘇。小雨の夜の薪文楽の素朴な世界に酔って、天文台の傍らに立つロッジで一夜を過ごした。目覚めて歩いた秋の高原、一面ウメバチソウが群れ咲く中で、秋草の葉末に隠れるようにヤマトシジミがひっそりと交尾していた。新たな命を生み出す行為は美しい。カメラを向けるのがためらわれる程に穏やかで、それでいてどこか厳粛な営みだった。
 この大地には数え切れないほどの命が息づいている。種が豊かなほど自然は奥深い。その豊かな地球というひとつの生命体が、今危殆に瀕している。発情期という自然の掟を喪ったときから、人類はその繁殖力で地球の支配者という傲慢な錯覚に陥った。地球誕生から47億年、人類は僅か20万年、地球の一生を1年に例えると、大晦日の午後11時37分に生まれたホモ・サピエンスは、地球が1年がかりで培ってきた豊かな資源と環境を、僅か23分間で回復不能なところまで破壊しようとしている。
 豊饒の諌早湾にギロチンを落として干潟を死滅させた干拓工事、どんなに屁理屈をこねても、そこには土建屋に操られる族議員と無定見な官僚の醜い利権しか見えてこない。沖縄・辺野古の海を埋め立て、貴重な珊瑚礁とジュゴンの生息権を奪う米軍の軍事基地工事も、貧しい外交のツケでしかない。
 先日、国連の「ミレニアム生態系アセスメント」の調査結果が発表された。凄まじい警鐘だった。過去40年間で森林や草地の14%が破壊され、20年間でマングローブの林の35%が消失、100年間で絶滅した鳥や哺乳類や両生類は分かっているだけで100種、これは自然に起きる絶滅の1000倍もの速度という。「このままでは地球は危篤状態に陥る」と結ばれたこの報告の重みを、日本は勿論、世界中の時の為政者達はどれだけ深刻に受け止め得たのだろう。沖縄・北部の森に棲むヤンバルクイナが、発見されて僅か20年で絶滅に瀕していることを、果たしてどれほどの危機感で受け止めているのだろう。期待に空しさを重ねながら、やりきれない怒りだけがくすぶり続ける。
 小さな命を限りなく大きな心で包む優しさを、人はいつ取り戻すことが出来るのだろう。あの秋の日、重ね合うヤマトシジミの小さな羽を慈しむように、朝日が優しく包み込んでいた。
              (2005年2月:写真:ヤマトシジミの交尾)

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2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
梅の春 (nora)
2005-02-20 20:31:09
梅の香の 雨に宿りて 傘たたく





冷たい雨

駅への道

懐かしい香り

首を回して見渡せは

ほら、その先に

梅の花

梅の春

   
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間違えちゃった (nora)
2005-02-20 22:44:27
ご隠居さん、スイマセン!

「梅香散る」に書いたつもりが「命眩しく」に書いてしまいました。

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