蟋蟀庵便り

山野草、旅、昆虫、日常のつれづれなどに関するミニエッセイ。

過ぎ去った栄華ーアラスカ紀行2-

2005年06月05日 | 季節の便り・旅篇

 氷河が限りない時間をかけて削り上げた険しい山々を背景に、猫の額のような土地に開かれた小さな港町。アラスカの3つの寄港地は何れも19世紀末にゴールド・ラッシュに沸いた街だった。州都ジュノーでさえ今は3万人、スキャグウエーにいたっては最盛期の2万人が今は冬の人口800人という寂れた風景の中に沈んでいる。そこに1隻4千人近い人間を乗せた巨大クルーズ船が2~3隻停泊する…どこかちぐはぐなその落差は些か居心地の悪いものだった。
 ジュノーにはメンデンホール氷河という目玉があるからまだしも、二つ目の寄港地スキャグウエー観光は切ない。かつての砂金の採掘機のそばに小さな小屋を建て、年老いた家族がゴールド・ラッシュ時代のけばけばしい衣装を纏ってトークや唄を聴かせてくれる。途中台詞が途切れたり息切れしながらの唄はあまりにも哀しい。新しい金鉱が発見されると潮が引くように去っていった束の間の繁栄、その残滓だけに縋って観光客をもてなす姿が痛々しかった。
 最後の寄港で訪れたカナダ・ヴィクトリアの美しい街並みや豊かな佇まいとの落差はあまりにも極端だった。選んだコースにもよるのかもしれないが、先住民の文化などを、もっと誇らしく謳う観光であってほしかったと思う。
 期待していた太古の森の散策、白頭鷲やワタリガラスやヒグマや鮭、そして海には鯨やシャチやイルカといった豊かな野生の大自然とのふれあい。しかし、クルーズ船の慌ただしい限られた時間で駆け足に過ぎる旅行者の目では、本当のアラスカの奥深い魅力は味わい得ないということなのだろう。
 しかも、荒々しく、美しい蒼に輝く氷河も年々後退を続けている。先進世界による環境破壊・地球温暖化の爪痕は、こんなところにまで及んでいるのだ。メンデンホール氷河を覆う黒い汚れが、しきりに気になった。
 だからこそ、梢の先で静止する姿や、堂々とした滑空を見せてくれた白頭鷲は素晴らしかった。眼下の観光客のざわめきを俯瞰しながら、彼等はいったい何を思っていたのだろう。
 ひとシーズン滞在して、心ゆくまでこの大自然の営みに触れてみたい…そんな未練と渇望を確かめながら、タラップを上る毎日だった。
    (2005年6月:写真:氷海を行くダイヤモンド・プリンセス号)

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