蟋蟀庵便り

山野草、旅、昆虫、日常のつれづれなどに関するミニエッセイ。

ワン・コインの宇宙の旅

2011年09月02日 | 季節の便り・旅篇

 微かな縞模様を見せる巨大な第5惑星・木星の左右に、それぞれ2個、合わせて4つのガリレオ衛星(イオ、エウロパ、ガニメデ、カリスト)が横一列に並んで、神秘的に輝いていた。久住高原コテージを包む平原の夜空は見事に晴れ上がり、ワン・コイン(500円)で参加した星空散策は、横たわる天の川を仰ぎながらの思いがけない宇宙への旅となった。
 太陽の720倍という蠍座の赤色超巨星アンタレスの眩しいほどの煌き、南に飛び続ける白鳥座(北十字星)の二重星(連星)アルビレオの金と青の連なり、昔から視力検査に用いられたという大熊座(北斗七星)の二重星ミザールとアルコルの可憐な寄り添い、アンドロメダ銀河(大星雲)の朧ろな拡がり、琴座M57リング星雲(ドーナツ星雲)の仄かな彩り、そしてフィナーレを飾ったのが、東から昇った木星の衛星の整然とした横一列の連なりだった。

 「夏休み平成おもしろ塾」最終日。快晴の夏空の下で三つの竈が見事に9個の飯盒を炊き上げた。手作りの火吹き竹と火挟みまで持ち込んでくれた助っ人の正昭さんと二人、子ども達と一緒に焚いた飯盒は殆ど失敗なく炊き上がり、夏野菜カレーをかけたご飯の美味しさに3杯もお代わりした男の子や、カレー嫌いなのにお代わりした女の子など、3升6合の茨城産コシヒカリを殆ど食べ尽くすほどの勢いだった。炊飯器で炊いたご飯しか知らない子ども達には、薪で焚くご飯の香ばしさは大好評だったし、飯盒の底に少し残ったお焦げが、お母さん達の新鮮な興味をそそった。恒例となったスイカ叩きの大歓声が弾ける中に、十年目のおもしろ塾を閉じた。

 少し疲れが残った身体を休めたくて久住に走った。一気に駆け上がった飯田高原・長者原。標高1000メートルを超える高原は、下界の暑熱をよそに爽やかな風が吹き抜け、胸の奥まで洗い清めていく。木立の下にシートを広げてお弁当を食べた。途中のコンビニで買ったお握りと漬物だけのお弁当だが、私にとっては最高のご馳走である。二人合わせて「643円の幸せ」と笑い合い、飛び交うトンボと戯れながらススキの穂を開き始めた高原の秋を楽しんだ。

 15分ほど走り、山道を登って友人のE山荘を訪ねた。挨拶も忘れて木立の中の山野草にカメラを向けてご夫妻に笑われる。採り立ての甘いコーンをいただきながら、珈琲をご馳走になった。「こんな暑い日に、どうして来たの!」とからかわれても、連日34度の酷暑に痛めつけられた私たちにとっては、26度の山風は無類の憩いである。物静かで穏やかなご主人との語らい、明るく暖かな奥様のもてなしで夏を忘れた。
 テラスの水盤にシジュウカラが水浴びに来た。いつもスマートなタキシード姿をかなぐり捨て、ムクムクの毛玉になって水を浴びているのが可愛い。庭に降りて山野草の写真を撮らせてもらう。ツリフネソウ、キツリフネ、ハガクレツリフネ、マツムシソウ、ミズヒキソウ、キンミズヒキ、吾亦紅など、眩しすぎてカメラの絵が白く写るほどの日差しである。ヤマシャクヤクの赤と紫の種子、マムシグサの不気味な実、まだ青いウバユリの実、裏山には真っ赤なツチアケビの不思議な実もあった。アカネトンボやノシメトンボが飛び交う木立の中の山荘で、瞬く間に過ぎた癒しのひと時だった。

 久住高原コテージ「ラスト・サマー・プラン」。月末2日間5組限り1泊2食7300円の格安料金に、更に500円の割り引き券が使え、加えて7度目の宿泊特典として24時間ステイ、1600円の貸し切り家族露天風呂無料とくれば、もう見逃すわけにはいかない。そして待っていたのが、前回雲に遮られて果たせなかった星空散策だったのだ。

 まだ若いススキの原を駆け抜け、ヒゴタイ公園で真っ盛りのヒゴタイと咲き残りのユウスゲの花を愛でた。大観望、小国経由、蕎麦街道の「吾亦紅」で遅めのお昼を摂り、いつもの「ファームロードWAITA」を一気に駆け下って、再び残暑の巷に帰りついた。
 こうして、蟋蟀庵ご隠居の長い夏が終わった。
            (2011年9月:写真:長者原と久住連山)

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