蟋蟀庵便り

山野草、旅、昆虫、日常のつれづれなどに関するミニエッセイ。

孫といた夏

2012年08月21日 | 季節の便り・旅篇

 美しい空だった。秋空の眩しいほどの紺碧に、夏雲と秋雲がせめぎ合い、それを分かつように数本の飛行機雲が突き抜けていく。その下に広がる東洋のナイアガラ「原尻の滝」。幅120メートルにわたって、高さ20メートルの滝が幾条も落ち、縮尺を忘れれば確かに昔訪れた壮大なナイアガラ瀑布を偲ばせる。大分県豊後大野市緒方町の大野川水系緒方川にある滝。「日本の滝百選」のひとつである。
 目に映る景色はいかにも涼やかで、滝壺の霧を含んだ川風が肌寒いほどの冷気を運んでいるかのように見える。ところが、ところが……滝壺を少し離れて見下ろす位置に古い木造の吊り橋「滝見橋」が掛かり、上流の沈下橋を含めて、滝を一巡出来る遊歩道が作られている。しかし、そよとも風が吹かないお盆明けの暑熱の午後、滴る汗にまみれながら、照りつける苛烈な日差しに喘いでいた。
 小さな山に囲まれた周辺の田園風景は、溜息が出るほどに心落ち着く鄙びた里山の佇まいである。暑さ苦手の孫たちと辿りながら「う~ん、此処は、春か秋だね!」とネを上げる。

 沖縄でのダイビング・ライセンス・チャレンジの前に、孫たちが太宰府にやって来てくれた。高一と中一の孫娘、春に横浜で会ったばかりなのに、成長期の女の子の変化が眩しい。6人でレンタカーに乗り、久住高原コテージに1泊のドライブ旅行を娘が計画してくれた。往路、小石原焼の窯元を訪れる。宝珠山村と合併して東峰村となり、工芸展でもかつての「小石原村」という表示はなく、「東峰村」と記されるのが少しさびしい。二つの窯元で器を物色するうちに雨が奔った。
 やや不穏な空模様である。先日の豪雨で叩かれた傷跡が残る山道を日田に下り、ファームロードWAITAを九重に向かう。今回の運転は娘、私は助手席でナビしながら、普段はゆっくり見られない周辺の景色を楽しんだ。
 途中、なじみの蕎麦屋「宝処三昧」でお昼を済ませ、少し戻って喫茶店「ザ・カップル」でソフトクリームや飲むヨーグルトでデザートと決めた。落雷でしばらく停電も経験。

 夕刻着いた久住高原コテージの露天風呂で雄大な高原風景を見ながら寛ぎ、孫たちとトランプの「大富豪」や「神経衰弱」で遊び、夕食は勿論いつもの焼き肉コース。
 夜9時、奇跡的に雲が晴れた。申し込んでいた「星空ウォッチング」は、満天の星と、壮麗に流れる天の川を仰ぐ最高の演出となった。蠍座がもう低く横たわり、中天を流れる天の川を、白鳥座が首を伸ばして西に飛ぶ。星座物語を聴きながら幾つかの星々や銀河を天体望遠鏡で見せてもらう。お隣の(と言っても230万光年離れた)アンドロメダ銀河の淡い光芒、三重連星の神秘的な輝き、銀河中央部の眩しいほどの星の煌めき……これが、孫たちと過ごした夏だった。幾つもの流れ星に歓声を上げながら、高原の夜が深まっていった。

 コテージから小一時間、豪雨禍の竹田の町をめぐる幾つかのトンネルを抜けた向こう、山間から落ちると思って探していた「原尻の滝」は、田園風景の広がる平地の目線から下に落ちていた。
 「道の駅たけた」で大分名物のだんご汁やカレーでランチ、娘や孫たちは「ソフト王国たけた 三つ星ソフト スタンプラリー」にハマり、沿線の「グリーンピア天神」の「黒大豆ソフト」、「道の駅たけた」の「イチゴソフト」、「スカイパークあざみ台」の「かぼすソフト」を食べ巡ってご満悦だった。
 外輪山の一角の大観峰で小休止して焼きトウモロコシを食べ、小国から杖立温泉経由日田から大分道に乗り、鳥栖で降りて夕飯に「うな勇」で鰻を食べて……慌ただしい束の間のグルメ旅(?)で、孫たちの「太宰府の夏」が終わった。

 翌朝、一家4人は慌ただしく沖縄に向けて飛び立っていった。娘にとっては懐かしい沖縄料理の数々が、またフェースブックに連なることだろう。
 ジジババの寂しい夏の終わりが待っていた。
                    (2012年8月:写真:原尻の滝)