アラスカ洋上3日目、初日の大揺れが嘘のように微動ひとつない静かなスイートのキャビンに目覚めて朝食に出たとき、ドアの外に嬉しい演出があった。キャプテンからの青いバルーンが二つと、『HAPPY ANNIVERSARY!』のメッセージが貼り出されていたのだ。(ツアーの関係で、お祝いのケーキとクルー達のお祝いの歌は2日後の2ndフォーマル・ナイトのディナーの席に用意された。)
2814名の乗客の内、日本人は34名、その中に日毎親しみを増していった二組のご夫婦があった。宮崎の歯科医のN夫妻と、千葉から参加のW夫妻。ある不思議な偶然が、この二組のご夫妻との距離を急速に縮めていった。Nさんは私のかつての会社の同僚とゴルフ仲間、そしてWさんは『地球交響曲』と星野道夫に想いを寄せるという共通の話題を持ち、しかも同じ結婚40周年のご夫妻だった。
はるばる8千キロを飛んだ東南アラスカのたった34人、その中で見つけた偶然の接点、これはもう奇蹟としか言いようがない。これこそが旅の醍醐味であり、出会いの不思議さでもあるのだ。
二度のフォーマル・ナイトの緊張も楽しい語らいでほぐれ、オプショナル・ツアーを一緒にしたり、写真を撮り合ったり、美しい洋上の夕日を見送ったり、カジノで遊んだり、ヴィクトリアの夜の街を散策したり…やや天候に恵まれずツアーが淋しかっただけに、この語らいは貴重だった。マルガリータやアラスカン・ビアを飲みながらダンスに興じたのも楽しいひとときだった。まさに『旅は道連れ』である。
ケチカン出航後の2ndフォーマル・ナイトの仕上げは、吹き抜けのロビーで開かれたシャンペン・ウオーター・フォールのパーティーだった。積み上げた数百個のグラス(本来、それ程に揺れない巨大クルーズ・シップなのだ)に注がれたシャンペンを囲んで、国籍を忘れた和やかなダンスで夜が更ける。こんな夜は日本古来の奥ゆかしさ、遠慮深さなど取り払って無邪気に盛り上がる…海外旅行の『脱・日常』の醍醐味はこれに尽きる。
帰国前夜のシアトルのホテルに、ロスに住む娘からお祝いのシャンペンとフルーツが届いていた。これもまた目頭が熱くなる絶妙の演出だった。
(2005年6月;フォーマル・ナイト)