蟋蟀庵便り

山野草、旅、昆虫、日常のつれづれなどに関するミニエッセイ。

梅花散る

2005年02月17日 | 季節の便り・花篇

 満開の飛梅が、戯れる寒風にほろほろと散った。2月17日、大宰府天満宮「祈念祭」。五穀豊饒を祈るこの日から農事が始まる。豊饒を祝う11月23日の新嘗祭に至る地道な農作業事始めの祭である。
 朱塗りの本殿の前の椅子に座り、頭を垂れた。折からの入試に向けて学業成就を祈る参拝客や観光客のざわめきが、宮司の朗々とした祝詞に包まれていく。
 町内の隣組の評議員に選ばれ自治会長に選任されると、自動的に公民館長となり、市の行政区の区長として特別職地方公務員を拝命し、区長協議会の幾つかの委員会の中で「太宰府市明るい選挙推進協議会」会長に推挙され、さらに太宰府天満宮伝統文化振興会役員となり…こうして次々と肩の上に役職が重なって、いつしか40年近い企業人としての垢をそぎ落とし、地域に溶け込んできた。既に4年が過ぎようとしている。
 お陰で百年に一度の菅原道真公「御神忌一千百年大祭」の全ての神事に参列するという得難い経験をした。「太宰府市市制二十周年」にも立ち会った。百年の夢を叶えた「九州国立博物館」の起工式と竣工式にも招かれた。望んで叶えられるものではない。それは時の運だった。殆どの仕事はボランティアだが、精神的に報いられたものは大きかった。
 身近になった天満宮が、今梅の盛りを迎えようとしている。献梅で増え続ける境内の梅の木197種6000本が、色とりどりに1月から3月まで花をつないで、天満宮が最も華やかになる季節である。巫女の「榊の舞」の奉納の後、玉串を捧げて式典が終わる頃、木枯らしにさらされた身体はすっかり冷え切り、直会の席の熱燗が腹にしみた。
 例年、大晦日に天満宮の傍らの光明寺で除夜の鐘を撞くのが我が家恒例の過ぎ越しの儀式となって久しい。娘婿と小学校2年生の孫娘を連れて、この年の煩悩を払った。孫は真剣な面もちで初めての鐘を見事に響かせた。
 「農事の祭は祈りと感謝。全ての人々にあまねく祈りと感謝の心が行き渡れば、世の中はきっと平和になるでしょう」と結んだ宮司の挨拶が心に残った。
 梅の香りを拡げながら、ひと雨ごとに太宰府の春が近付いてくる。
              (2005年2月:写真:飛梅)