手術から5日目
面会時間に行ったら、病室がナースステーション前の個室に変わっていた。
「あれお母さんじゃない?」中で治療中らしい車椅子の女性を見て嫁が叫ぶ。
確かにそうだ。ぐったりと首を横にうなだれているが、オバサンに違いない。
気丈な妻の面影は無い。「部屋で話しますか?」看護師さんが気を遣ってくれた。
頭を撫でながら彼女に話しかける「頑張れよ」不覚にも瞼がじわり。
「死ぬんだから頑張れない」そんな意味の事をたどたどしく口にする彼女。
「何言ってんだよ」何か言おうとしても言葉にならない。そっと頬に手を添える。
「お父さん、手を握ってあげて」嫁にせかされ手を・・何年振りだろう・・
右手は麻痺が無いようで驚くほど力強い。こんなに綺麗な手だったか・・
強い力で何度も何度も握ってくる。「しっかりしなさいよ」と言われているかのよう。
治療中なので直ぐにナースステーションに戻った彼女。後ろ姿にまた涙。