夢見るババアの雑談室

たまに読んだ本や観た映画やドラマの感想も入ります
ほぼ身辺雑記です

「よたばなし」-5-

2018-12-01 00:32:12 | 自作の小説
ー或る女ー

そりゃあ 心中しようか 一緒に死のうかとするほどですから そりゃあ惚れておりましたさ
でもね なんと言っても女郎でございます

とうにさ 本気の惚れたはれたなんざ諦めきっておりましたのさ

こっちは口説(くぜつ)とこの体で客の気を惹いてつなぎとめて また来たい またあの女を抱きたい
そう思わせておあしを稼ぐのが商売じゃありませんか

お日様の下など歩いちゃいけない身の上です
いつかは悪い病気など持ってさ
野垂れ死ぬ・・・・・・


そう思っておりましたさ

稼ぐうちは店も多少は大事にしてくれる
ならば少しでもいい客を掴むんだ

ふふん
すれっからしでございます

心なんぞ 邪魔なんでございますよ
何の役にも立ちはしない

割り切って それに慣れて・・・・・・


ああ
厄介なものでございます


馴染みの客
通ってくる男

ええ 見かけの良い男でござんした
色白で


その男が言うのでございます

一緒に死のうと・・・・

お前を嫁にしたいが身受けする金も無い

だからと言ってもうお前が他の男に抱かれるのはイヤだ
自分ひとりのモノにしたい

この世ではかないそうにない
いっそ一緒に死んでくれと

何を馬鹿なーとね 思いましたよ
のぼせ上って

けど三月(みつき)半年と同じ言葉が続いて

いつか ああ ずうっと色んな男に体をいじられ続けて生きるのも
などと思うようになり


ならいっそ この男の言うように
それもまたいいじゃあないか

生きていても死んでも同じ地獄であるのなら
せめて夢を見ながら死のうかと


一緒に死のうと約束して
男が待つという小屋に 店を抜けて忍んでまいりました

男が用意した死への道具は毒でした

優しい声で男が言います
「先にお行き すぐに追いかける 毒で苦しんで着物が乱れて 女のお前がみっともない死にざまを晒してはいけない」

男は約束したのです
ーすぐに追いかけるー


その言葉を疑う心はありませんでした

素直に毒の入った酒を仰ぎました
ひと息にー

・・・・ああ胸が焼ける 苦しい苦しい苦しい苦しい・・・・・・
喉をおさえて 胸をかきむしり
苦しさは続くのです


いつか真っ暗な闇の中におりました


男ですか

来ませんでしたよ


全部 嘘だったのでございます


あたしには違う店に稼ぎを競う女がおりました


これで人気があったんです

あたしか その女か


その女の企んだことでした

あの男は その女をこそ口説いていたのです

その女は 男があたしを本気にさせて 心中を受けたら

そこまでしたら女房になってもいいとー


酷い話

男なんて信じたあたしが馬鹿なんです

だから いまもまだ迷い続けておりますよ

苦しんで死んだこの場所に縛られて


どれほどの時間 こうして迷い続けているんでしょ

あたしの姿は鏡やガラスに映るそうで


小屋は無くなり違う建物になっても

あたしは やっぱりこの場所を離れられないんでございます
因果なものでございますねえ




恨みをはらそうにも あの男も女もとうに死んでしまっております

だから あたしは ただ ここに出るしかないんですよ


最新の画像もっと見る

コメントを投稿