夢見るババアの雑談室

たまに読んだ本や観た映画やドラマの感想も入ります
ほぼ身辺雑記です

「だ・れ・だ・・・・・」

2019-07-04 08:38:49 | 自作の小説
ー殺す男ー

知らないアドレスから送られてきた「あなたの全てを知っています」に始まるメールは男をギョッとさせた
迷惑・詐欺メールの類(たぐい)に決まっている
そう思いつつ そのまま削除できなかったのは 男に心当たりが多すぎるからだった

男はーこのままにはしておけないー
そう考えたのだ
送り主にとっては不幸なことに この男は・・・いささか拘る性質だった
それなりの変な技術と知識もあり 駆使することに「力」が感じられて好きだった

その男の中は 今
ー誰が送ってきた
送り主は 誰だ 誰だ 誰だ!ー
その思いでいっぱいだった

ひっそりと人を殺し続けてきた男
好みの女性を見つけると尾行して その生活を調べ上げ
襲いやすい場所を選ぶ
狙い続けていると うまく事が運ぶ時間が必ず見つかる

廃墟のようになっている空き家は多い
存分に遊べた

根気と我慢強さ
これと狙いをつけたら諦めないこと
それが大事だった

男はこうした異様な執念深さで自分にメールを送ってきた相手を突き止めた


ー殺される男ー

ちょっとばかり人よりあった知識を利用して 小遣い稼ぎをしていた男

この世には 人に知られたくない秘密を持った人間が案外といるもので

男が送るメールに反応してくれる人間は割といた

便利なシステム

その男のもとに 届いたメールは
「人に話されては困ります 私の何をご存知なのでしょう ぜひともお会いしたいです」
男は鼻であざ笑う
ー時々こんなどうしようない馬鹿がいる
ー誰だ こんなメールにひっかかった馬鹿はー

メールにあった画像に 男は逡巡する
その自分だとする画像は とてつもない美女だった
しかも深い胸の谷間

ごくりと唾を呑みこむ

たいてい「釣り」のインチキだろうが もしもこれだけの美女が本当に 本当に来るのならー

約束した場所に現れるかどうか こっそり見るのだけなら害はあるまいーと男は判断する

もしも美女がいなかったら 自分をひっかけようとした相手から どうにかして一生かけて金をだまし取り続けてやる

スケベ心は破滅のもとだ


多少は期待したが女が「待っている」と知らせた場所に該当する女はいなかった
アブナイ 危ない 罠だったわけだ

では どんな人間が自分をおびき出そうと考えたのだろう

暗闇で男は考える

まっすぐ帰宅せず 電車を乗り換えつづけ遊んだ方が良さそうだ

男の判断

そして尾行している人間はいないーと判断した男は帰宅することにした

男は自分より賢い人間はいないと思い込んでいたのだ

どんな世界にも上には上がいる


男が帰宅すると するりとドアが開いた
ーまさか戸締りするのを忘れていたのだろうかーー
些かの不安を覚えつつ部屋に入る

キッチンまで行ってー音に気付く

ドアが閉まる音
誰かいるのかー
振り返れば

ドアを閉めてドアチェーンまでかける人間の姿
その人間は「不用心ですからね 戸締りはきちんとしなければ」と笑いー続けて尋ねてきた

「さて教えて下さい 僕のどんな全てを知っているんです」


「だ・・・誰だ お前は!」


「おや おかしいですね 全てを知っていますーと御親切に連絡下さったのは御自分じゃありませんか」

ーこいつは俺のした事を知っているー男はゾッとした
相手の男は穏やかな微笑を浮かべているが それがとてつもなく恐ろしい

「お留守の間に調べさせていただきましたが 僕に関するものは見つけられませんでした
何処に隠してあるんです
早く教えてくれませんか」

「何の事だ 俺は何も知らない あんたは誰だ」

相手は溜息をつく
「素直じゃありませんね それはとても悪い事です そしてあなたは嘘つきだ 僕の事は何一つ知らない
そうですね
全く それで強請るなんて
お金を払わせようとするなんて 
ねえ それは大変にいけないことです」


「だったら どうだと言うんだ」

怯えが増す男に相手はにっこりと笑ってみせた
「もちろんお仕置きです 子供の時に教わりませんでしたか 
いけない事をしてはいけないと

大丈夫 僕がもう悪いことはできないようにしてあげます」


「や・・・やめろ!」男が叫ぶ


「僕だってね こんな事はしたくないんです
男を殺すなんて僕の趣味じゃないんでね
だから あっさり死なせてあげますから ご安心下さい」


もはや抵抗する気すら起こせない へたれな脅迫者は 男は・・・弱弱しく首を振るばかり
「そんなつもりじゃなかったんだ ただの ただの悪戯だったんだ」


相手の人間は優しく微笑む
「ほらほら動くと痛いですよ 怖かったら目を閉じていらっしゃい」

相手の人間は何かを持った手を男に当てた
びくんと男の体にショックが走り 男は意識を失う

それは束の間だったのか

相手の人間の話す声が聞こえる
「嘘をついたら閻魔様に舌を抜かれるーって教わりましたっけ 
僕だってこんなモノ触りたくないんです」

烈しい痛みが走る 痛い 痛い とてつもなく痛い
両目に涙が滲む
鼻水も出る
男の足元に何かが捨てられた

「もう必要ないでしょうから パソコンとスマホ いただいていきますよ
では ごきげんよう」

相手の人間は どうやら出ていったようだ
ドアの閉まる音
ごていねいに鍵のかけられる音

残された男の口からは 血が溢れている
近くには切断された舌が落ちている

ー誰だ 自分をこんな目に合わせたのは誰なんだ -
痛みに苦しみながら男は考え続ける
痛みがマシになることを願って・・・・・


やがて痛みが口の中だけは無いことに気付く
ーどうして気付かなかったのか 胸も刺されていた 足の付け根も 足首あたりもだー

口から血を滴らせながら 男は自分の体を眺める
ー人でなしめ あいつは誰だったんだー

だ・れ・だー
命の消える最期の瞬間まで男は問い続けていた






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