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社会保険労務士としての日々の業務を行う中で、考えたこと、感じたこと、伝えたいことを綴る代表コラム。

在職老齢年金の見直しについて

2025-01-19 23:04:00 | 法改正

令和6年は5年に一度の財政検証の年でした。社会保障審議会の年金部会で様々なテーマで議論がされましたが、昨年12月に議論の整理が行われ、厚労省は令和7年の通常国会に法案を提出する予定です。かなり広範なテーマになっていますが、法改正のセミナー用レジュメを作成する中で気になったので、在職老齢年金の見直しについて少し取りあげたいと思います。

社会保障審議会の年金部会では、高齢者の活躍を後押しし、できるだけ就業を抑制しない、働き方に中立的な仕組みとする観点から、現行の在職老齢年金制度を見直すことで概ね意見は一致したということです。60歳代前半の特別支給の老齢厚生年金は今年の春以降原則としては支給が終了するので、在職老齢年金は65歳以上の人が受給する老齢厚生年金に係る話になってきます。以前早稲田の法学研究科の授業で調べたところによると昭和40年には65歳以上の在職者に対しての在職老齢年金は存在していたようですが、昭和61年の大改正の際にいったん廃止され、平成12年の改正で高在老が導入されました(当時TACの講師をしており、テキストに60歳代前半の在職老齢年金を「低在老」60歳代後半の在職老齢年金を「高在老」と記載することを申し合わせたことはまだ記憶に残っています)。さらに平成16年改正で70歳に到達して被保険者資格を喪失した場合でも「70歳以上被用者」ということで、保険料を支払う義務はなくなった場合でも、在職している限り在職老齢年金の仕組みが適用されることになりました。

現行の支給停止基準額(50万円)の支給停止対象者数は約50万人(在職受給権者の約16%)で支給停止額が4500億円となっていますが、今回の改正では3つの試算が提示されており、完全に廃止する案も案1としてその中の一つになっています。案2で支給停止基準額を71万円に引き上げると停止対象者数は半分の23万人(同約7%)支給停止額が1600億円、案3で支給停止基準額を62万円に引き上げると停止対象者数は約30万人(同約10%)支給停止額が2900億円とされています。

議事録をみると「撤廃」が議論の出発点だと思われますが、在職老齢年金制度を撤廃した場合は将来世代の給付水準が低下するため、現行制度を維持すべきといった意見もある。このため、在職老齢年金制度を撤廃する案に加え、基準額を引上げる案を検討することとしてはどうかということで、案2と案3も提示されているようです。

元々定義としては「『在職老齢年金』は、本来『退職』を前提とした『老齢』を支給事由とする老齢年金の例外的措置」。今や70歳代でも働ける時代となれば前提の「退職」は外して、「老齢」のみの支給事由により支給されることが保険料を長く収めてきたことを考えても適切ではないかと思います。低在老が消滅する今、高在老も廃止のタイミングでもあり、今後65歳以上でも働いてもらいたいという企業からのご相談が多いことを考えると、就労抑制にもなり得る在職老齢年金は廃止が妥当ではないかと考えます。

母の怪我もだいぶ良くなって一安心しています。今回転んでも骨折しなかったことは本当に感謝です。ご心配おかけしました。それにしても4月と10月の育介法の改正条文は勉強すればするほど難解です。今週からセミナーが開始しますのでしっかり簡潔に説明できるように頑張りたいと思います。

早く暖かくなると良いですね。