授業終了後、なぜか雪は柳瀬健太に呼び止められ、空いている教室へと連れて来られた。
そこに居たのは糸井直美で、彼女は不本意そうな表情でこう言ったのだった。
「だからあたしは自販機の所に行って来ただけなの!
そしたらその間に誰かがあたしの席に過去問を置いていったんだって!
何度説明したと思ってるんですか!」
いきなりそう説明した直美の話を、白目になって聞く柳と雪。その隣には健太と典。
直美は身振り手振りを交えながら、健太に向かって声を荒げている。
「それで騒ぎが収まったら返そうと思っていたんですよ!」
するとそれを聞いた典が、直美に向かって質問した。
「それじゃどうして雪ちゃんに返さずに破いたの?」
思わずビクッと怯む直美。
「それは‥!」
直美は俯きながら、苛ついた口調で言葉を続けた。
「突然変な噂が立って‥
事が大きくなった上に、雪ちゃんとは元々仲が良くなかったのもあって‥
あたしの仕業だって言われるかと思って‥つい‥」
追い詰められた直美は、柳を始めとする「雪側」の人間に向かって怒鳴り散らした。
「きっとこうなるだろうと思ったからよ!皆で寄ってたかってどうしようって言うんですか?!」
「は~いストップストップ~」「いや俺は赤山ちゃんをガードしに‥この男がいるから‥」
すると柳瀬健太は幾分大仰な態度で、直美の前に躍り出た。
「とりあえず糸井は赤山に謝った方が良いな?な?ほらほら!
まぁ丸く収めようぜ?だから俺、こういった場を設けたんだよ」
「これからはこんなこと無いようにな!ははは!」
「どういうことですか?!」
すると健太のそんな態度が、直美の逆鱗に触れたようだ。
「今後こんなこと無いようにって‥あたしが何かしたとでも?!
呆れますよ本当!ありえない!」「うおお!」
直美はそう言って健太の手を振り払うと、皆に向かってこう言い切った。
「あたしの話を信じようが信じまいがどうぞご勝手に!
あたしは間違って無いから!!」
直美はそう言ったきり、一度も振り返らず教室を後にした。
その後姿を、柳瀬健太はまるで軽蔑するかのような目付きで見ている。
直美が去ってから、健太は直美のことをブツブツ悪く言った。
すぐに得になる方に立場を変える、この人の常套手段だ。
「アイツだって同じ穴のムジナだな。持ってる過去問独り占めしやがって」
「あ~はいはい、わりと仲良かったのに誰かさんも貰えなかったですもんねー赤山ちゃん行こー」
「クッソこいつ‥」
しかしそんな健太の本性など、もう皆お見通しである。
柳は勿論、皆健太には辟易していた。
「もう止めて下さい。健太先輩が直美さんにこんなことする理由なんて‥」
するとその雪の言葉に、異論を唱えた人間が一人。
「アンタ、おかしくない?」「え?」
黒木典だった。
典は雪の態度に違和感を覚え、それをすぐに皆の前で口に出す。
「だってアンタ学科長に話しに行ったのに、
どうしていきなり優しくなってるの?一番大騒ぎしなきゃいけないのはアンタのはずでしょ?」
雪は典の言葉を聞きながら、実際には話してないんだけど‥と真実を心の中で思ってみたが、
口には出さずに違う理由を説明した。
「直美さんの話聞いてみたら、本当っぽいから‥」
「あんな言い訳信じるの?大学生にもなって、誰が盗んでわざわざ他人の席に置くのよ?
それこそ陰謀説じゃないの!」
しかし典は聞く耳を持たない。
けれどここで、学科長の元に乗り込んだ健太の話をするわけにもいかない‥。
だって健太先輩が‥ 「赤山ぁ」
すると二人の間に、健太がまたしても割り込んで来た。
「俺がよ~~く説得してみるからよぉ、あんま気にすんな。な?」
「あ、触んないで」
健太は、いつも変なところで介入してくる。
雪は今の状況とこの場の空気の両方を読みながら、言い出すなら今だと決心した。
「健太先輩」
そう呼びかけて、胸を張った。
鋭く切れ長のその目が、健太を見据える。
そして雪は瞬きもせずに、一息でその言葉を言い切った。
「気を回して頂いてありがたいですが、もう結構です。
これは私の問題ですから、これ以上は関心を寄せないで頂けると幸いです」
その言葉を聞いた健太は、想像通り顔をしかめた。
「はぁ~~?」
しかし健太が暴言を吐く前に、ガード柳が雪の背を押しここからの退出を促した。
「そういうこと!どーしてこの人最近急になれなれしくしてくるんでしょ~ね~?
赤山ちゃん行こ!勉強会勉強会!」
教室の外には、佐藤や海など、雪主催の勉強会メンバーが彼女を待っていた。
胸の中にはわだかまりがまだ残っているが、雪は健太に背を向ける。
「‥‥‥」「行こう」
去り際に目にした健太の顔は、明らかに曇って口元には不満が現れていた。
彼に対する疑心のせいで、姿全体がどこか陰って見えるほどにーー‥。
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<噛み合わない真実(2)>でした。
あ~モヤモヤしますね‥
しかし本当健太は信頼の置けない人間ですね(今更ですが)
コロコロ立場変えて、あわよくば青田過去問GETを狙ってるんでしょう‥
はやく‥はやく先輩!休学ノートに健太の名前を!!
そして柳が健太から雪を守るガードマン化している‥!
きっと電話で淳から頼まれたんだろうな。
柳、大好きな淳からの頼みだからはりきって「まかせとけ!」って引き受けたんだろうな。
‥と考えると微笑ましくてたまりません(笑)
次回は<私の傍には>です。
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