Trapped in me.

韓国漫画「Cheese in the trap」の解釈ブログです。
*ネタバレ含みます&二次使用と転載禁止*

その意義(2)

2013-07-27 01:00:00 | 雪3年1部(開講~二人の写メ)
青田先輩と一緒に取っている授業だが、今日の雪の隣は空席だった。

なぜかというと、四年生は皆卒業写真の撮影が入っているのだ。教室も所々空席が目立つ。

教授は「あのイケメンの子が居ないから寂しいわ」と言って、雪にプリントを渡す役目を任せた。









卒業写真撮影の建物の周りには、スーツ姿の四年生達で賑わっていた。

雪は携帯画面を見ながら、幾分の緊張を持て余す。



実は自分から青田先輩にメールを送るのは初めてだったのだ。

考えに考えて、とりあえずシンプルな文面を作成した。

先輩 プリントを渡したいのですがどこにいますか?”



するとすぐに返信が届いた。

学館の二階まで持って来てもらえると嬉しいな^^



雪は学館へと向かう。






学館といってもその建物は大きく、今日は人が多く集まっていることもあり、

雪は先輩の姿を探してしばし彷徨った。



すると通りがかった空き教室から、カシャッと携帯のシャッター音が聞こえ、

雪はそちらの方を見る。



振り返ると、青田先輩が自分に向けてカメラを構えているところだった。



「せ‥先輩?」



「‥あ」








先輩は撮影の順番まで結構あるから暇でさ‥と決まり悪そうに頭を掻いた。



二人の間をなんとも気まずい空気が流れる。

「学校でスーツ着ることなんて滅多にないだろ。記念にね‥」



恥ずかしいとこみられちゃったな、と先輩は照れていた。

雪は先輩が言っていることには共感出来るけれど、この人がこういうことをすることの違和感を、

訳もなく覚えてしまう。

「あ、そうだプリント。ありがとな!」



こんなに戸惑った彼は初めて見る。

でもその笑顔はなんとも爽やかで、雪はなんだかムズムズした。



自分があの顔なら確かに毎日自撮りしてるかも‥

こうして見るとやっぱりかっこいいかもしれない‥。

‥って何を考えてるんだ!赤山雪!



雪は再び自分を諌めた。あの笑顔に騙されてはいけない、と。




プリントを渡しながら、先輩はブログかなんかやってるんですか、と雪は尋ねた。



先輩は笑いながら否定する。

そんなに俺が自撮りしてるのが不思議だった?と。

「普段は写真なんて滅多に撮らないよ。

あんまり好きじゃないんだけど、たまに気が向いた時、撮ったりするんだ」




先輩は彼を見上げる雪を見て、その気持ちを語る。

「今、この瞬間は今しかないだろ?今しかない特別な瞬間を、メモしてあげるみたいにね」



「そうすることによって、意義を感じられるだろう?」




意義‥。



雪の心には、その”意義”という言葉が強く残った。


今日は”卒業写真を撮る日”ということで一枚撮ったと先輩は言う。

どこかにアップこそしないけれど、心の中のブログみたいなもんだとも。



とにもかくにも、もう話すネタも無くなってしまった。



雪はそそくさとこの場を去ろうとした。

すると、先輩は雪を呼び止め言う。

「ねぇ雪ちゃん、一緒に写真撮ろうよ」



「は‥はぃぃ?!」



雪は動揺した。この人はいきなり何を言い出すのだ‥。

しかし先輩は雪を手招きして、こっちにおいでと微笑んでいる。



その笑顔を前にしては断り切れず、雪は彼の隣りに並んだ。

私は写真写りが良くないと言う彼女に、先輩は気にすることないと笑う。

「雪ちゃんと撮りたかったんだ」



「‥‥‥‥」



雪は彼がなぜこんなことをするのか分からなかったし、幾分戸惑ってはいたが、彼の要求に応じた。

なぜならその言葉の裏に、腹黒いものを感じなかったから。

彼は「自撮りしてるの見つかっちゃったから、その口止め料な^^」と無邪気に冗談まで言っている。



雪は緊張の面持ちで、カメラの前に立った。

シャッターが切られる。



出来上がった写真を二人して覗き込んだ。



「ぎゃっ!!」



雪は写真の出来を見て取り乱した。

髪の毛はボサボサだし、目はラリッてるし、マヌケな顔してますよとテンパっている。



先輩は変なところは何もない、俺だって前髪で目が隠れてるでしょ?と言うと、雪に携帯を取られないよう高く掲げた。

(雪が「先輩の前髪はいつも屋根みたいじゃないですか」と言うと、彼は少しショックを受けた。


半泣きの雪に対して、先輩は誰にも見せないし自分が記念に取っておくだけだと言った。

「それに全然変じゃないよ!可愛いよ」



雪は赤面した。きっとからかっているだけだろうけど。







雪は街を歩きながら、やっぱり撮るんじゃなかったと後悔していた。

あれじゃあ芸能人と写メ撮った一般人みたいだ。

雪は恥ずかしさに悶絶した。



ふと、見覚えのあるショーウインドウの前を通りがかった。

「あっ!ブーツ!」



幸いあのブーツはまだ残っていた。

値段は張るが、これは雪に履かれる為に生まれてきたものと考えて、雪は店に入った。



レジまで進み、お金を出そうと財布を開けた時だった。



ふと、紙幣を取り出す手が止まる。

店員さんはもう箱詰めされたブーツを手に雪の支払いを待っていたが、

雪はお金を置いてきちゃったと言うと、そのまま店を出た。












雪は父親から貰ったお小遣いを封筒にしまうと、

それを本の間に挟んでページを閉じた。



布団に入って目を閉じると、父親の小言が鼓膜の内側に反響する。

父の後ろ姿は、暗く陰っていた。

女の子は高いお金を出してまで大学に通う必要は無いからな

またすぐ行かなくちゃならないんだよ 蓮のこともよろしく頼んだぞ




しかし振り向いた父は、その表情が窺えるほど明るく、頼もしく見えた。

お前は父さんに似て賢いからな 久しぶりに顔を見たんだ。お小遣いでもやらないとな



雪の脳裏に、続いて青田先輩が映った。

今しかない特別な瞬間を、メモしてあげるみたいにね。

そうすることによって、意義を感じられるだろう?




雪は誰に話すでも無く、心の中で呟いた。

すみません。

褒められてお小遣いをもらったのが久々過ぎて‥。

いや初めてで‥。

もったいなくてお金を使うことができませんでした。




意義?

それはよく分かりません。

けれど‥

それが何だって言うんだろう。




意義を付けるなら、ブーツを買って所有欲を得れば良かった。

意味を持たせるなら、通帳に入れて学費の足しにすれば良かった。


けれど雪が大切にしたかったのは、大事に仕舞っているのは、初めて貰った父親からの気持ちだった。


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<その意義(2)>でした。

行動全てに意義や意味を持たせようとする先輩と、それが問題じゃないと思っている雪。

並んで映った写メでは二人の距離は近いですが、その価値観はやはり離れているように感じます。


次回は<憂鬱な環境>です。


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その意義(1)

2013-07-26 01:00:00 | 雪3年1部(開講~二人の写メ)
雪は聡美と電話しながら、一人街を歩いていた。



週末を利用して、服や食べ物を取りに実家へ向かっているのだ。

商店街を歩いていると、ふとショーウインドウに並んだブーツが目に留まった。



まさに一目惚れ。雪はそのまま店に入ると、すぐさま試し履きした。

聡美は「もう夏なのになんでブーツなんか買うんだ」と言っているが‥。



店員さんはニコニコと、「もうそれ残り1つしかないんですよ~。セール品なのでお得ですよ」と言った。

しかし値段を聞くと八千円。

貧乏学生である雪にとって、それはとても高かった。

顔を見合わせた店員さんと雪の間に、電話越しの聡美の声が響く。

「あんたやめときなって!もったいない!」






「ブーツ‥」



結局、雪はブーツを諦めて実家へ向かった。

電車に揺られていても、バスに乗っていても、家に向かう道すがらも、ずっとブーツのことを考えて悲しくなる。

マンションの入り口で、久しぶりに会う管理人さんと挨拶をして、上に上がった。



久々に帰ってきた実家。そこには誰も居ない。



雪はその後、部屋の掃除をしたり読書をしたり、今日の夜久しぶりに会う友達とご飯の約束をしたりと、

のんびり過ごした。

♪僕が選んだあなたを信じてる~♪僕が選んだあの夜を~♪



好きな音楽を聞きながら、ソファでうたた寝をしていると、ぐぅとお腹が鳴った。

一人、混ぜご飯を作って食していると、不意に玄関のドアが開く。



雪が迎えに出ると、そこには父親が居た。

なぜ雪がここにいるのかと不思議そうにしている。

父親は雪の顔を見ること無く、着替えを始めた。

「たしか寮に入ったんだったよな。どうだ?そこは」



雪は下を向きながら、寮じゃなくて一人暮らしなんだけどな‥と小さく言った。



「そうだ!お昼ごはん食べた?混ぜご飯作ったんだけど一緒に‥」



父は雪の言葉を遮って、今から取引先との急な打ち合わせがあるからすぐに出て行くと言った。

雪は差し出した手を引っ込めると、そのまま父の身支度を手伝う。



父はジャケットを羽織りながら、学校にはちゃんと行ってるのかと聞いた。

もちろんだよと答える雪に、父親は何気なく言葉を掛ける。

「そうか。頑張って今学期も奨学金貰うんだぞ。

女の子が高いお金出してまで大学に通う必要なんて無いんだからな」




雪は何も言えなかった。

父親は雪と前後に並んで玄関に向かいながら、

奨学金さえ受けられれば、前みたいに休学してアルバイトする必要も無いだろうに、と溜息を吐いた。



雪は一昨年休学した理由はそれだけじゃないことを伝えようとしたが、父親の耳には届かない。

「この頃母さんの仕事も上手くいってないし、頭が痛いよ」



続けて父親は、弟の蓮についての気がかりを雪に吐露した。

留学費用もバカにならない、あいつは長男なのに大丈夫なのか‥。



そう言って頭を悩ませる父親の後ろ姿は、雪のことを話していた時とは違い、心から心配しているように見えた。

それでも雪が「心配ないよ」と笑顔を見せると、父親は雪の頭を撫でて言った。

「お前は父さんに似て賢いからな。自慢の娘だ。エリート大学の上に成績もトップ。

後は良いとこに就職して良いとこに嫁に行けば、父さんはもう何も言うことはないぞ」




蓮のこともよろしく頼む、と父親は言って靴を履いた。

雪が見送ろうとすると、ふいに鞄から財布を取り出した。

「久しぶりに顔を見たんだ。お小遣いでもやらないとな」



突然の出来事に雪は困惑し、断ろうとしたが父親は財布から紙幣を取り出す。

「もらえる時に貰っておきなさい。お前は本当に手のかからない子だ。

父さんはこんな性格だから上手くは言えないが、とても自慢に思っているよ」




雪はお小遣いを受け取った。

大切に使うねと、そのお金を胸に抱いて。




父親の出て行った後の家は、またしんと静まり返った。



雪は台所に戻ると、テーブルの上に置かれた食べかけの混ぜご飯の前に座る。








心の中も、色々な感情が混ざったような、不思議な思いがした。



その後、雪は混ぜご飯を食べながら、貰ったお金であのブーツを買おうと思った。

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<その意義(1)>でした。

雪がソファに寝転びながら聞いていた歌はこれです↓

ユン・ジョンシン 「本能的に」(Feat. Swings)


「本能的に」という歌を聞きながら、本能的にお腹が鳴った雪でした(笑)


次回は<その意義(2)>です。


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始動

2013-07-25 01:00:00 | 雪3年1部(開講~二人の写メ)


青い青い空の下。

ここは都心から遠く離れた田舎町。


”氷屋”



一人の男が、近頃急に暑くなったと頭を掻きながら歩いていた。



汗だくの彼が首にかけたタオルで額を拭いていると、

ふと建物の影に一人の青年が座っているのに気がつく。



彼は帽子の上にフードを被り、何やら携帯電話をいじっていた。



その手に握られている携帯は、最新の機種だ。

「何その携帯!新しいやつ?買ったの?」



男がそれを見ようと身を乗り出すと、青年は汚れるからヤダとさっさと仕舞った。

男は青年が携帯を持っているのを初めて見たので、

これで”公衆電話代”としていつも金をむしっていくことは無くなるかと青年に尋ねた。

その他にも色々な理由を付けられて、男は青年から度々金をせびられていたのだ。



青年は金は借りてるだけだと言った。返すよ、返せばいいんだろうと若干苛つきながら。

「上京する前に全部返してやるよ。全部でいくらだ?」



その言葉に男は驚いた。上京するなんて、初めて聞いたからだ。

「いつ行くの?」という男の問いに、青年は「もうすぐ」と答え、

「どうして?」という男の問いに、青年は「なんでもいいだろ」と答えた。

「オレがいつまでもこんな田舎に大人しく居ると思うか?」



そう言った青年の横顔は、瞳こそ帽子とフードで見えないが、とても端正な顔立ちをしていた。

その異質な佇まいといい、雰囲気といい、青年の言葉通りこの荒廃した田舎町にはどこか不似合いに思える。



「行ってどうするの」と男が青年に尋ねると、

青年はそのしつこさに辟易したが、やがて言った。

「ここよりは暇しないだろ」



その台詞は、青年がここに来た当初にも男は聞いたことがある。

あっちよりは暇しないだろと、同じ台詞を言っていた。

「‥‥‥‥」



青年はしばし黙っていたが、やがて「気が変わったんだよ」と言って立ち上がった。

「死んでも故郷で死ぬべきだろ。それに、一人で死んでたまるかよ」



キャップのツバを手にして佇む彼の後ろ姿は、逆光を背負ってどこか暗かった。

力の入らない左拳を握り締めたまま、青年はそのまま歩き出す。

「どこへ行くの?」



男は青年の背中を見ながら涙ぐんだ。それに気付いた彼は足を止める。

「オレがいねぇからってピーピー弱音ばっか吐いてねぇで、しっかりやれよ。分かったな」



あんまり電話してくんなよな、と言い残して、彼は今度こそ男に背を向けて歩き出した。

さよならを言う代わりに、手のひらを上に上げながら。



青年はもう帰ってこないと言った。


上京して様子を見に行きたい人物が二名いる。

一人はたった一人の肉親である姉。


もう一人は‥



彼の脳裏に、あの疎ましい後ろ姿が浮かんだ。


暗澹たるあの事件の記憶。

肩を掴んで追及したあの時。



あいつは言った。

「俺じゃない」




河村亮はバスに長時間揺られながら、一人都心を目指した。


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<始動>でした。

過去編以来、初めて亮が出てきた回です。これから物語が大きく動いていきます。

次回は<その意義(1)>です。

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日常の中の波乱

2013-07-24 01:00:00 | 雪3年1部(開講~二人の写メ)
その日雪は、目覚まし代わりの着メロが鳴ると同時に目を覚ました。



すぐに携帯をオフにすると、しんとした部屋は壁を叩かれることもなく、

気持ちの良い目覚めとなった。完璧!とガッツポーズも出る。



今日は朝からお米も炊けている。



ポロシャツにもアイロンがかかっている。



髪の毛‥は置いといて。



時間もピッタリ!



雪は大分一人暮らしにも慣れて来た。

実家から通っていた頃は通学に二時間かかっていた分、出来る事も制限されていたが、

今は何と言っても睡眠時間が増えたことが嬉しかった。

気分が良いと、構内を歩く足取りも軽くなる。



すると談話室の方で、健太先輩が女学生と話しているのが聞こえて来た。

相手は青田先輩にアタック中の、キノコ頭の後輩である。

「お前ら可哀想だな~一年以上も思い続けてるってのも健気だが、もうそろそろ諦めたらどうだ?」



続けて健太先輩は、とんでもないことを口にする。

「青田と赤山は、二人で仲良く勉強したりするんだぞ~?赤山はツイてるよなぁ。

なんてったって、青田を独り占めだからな!」




気分が良かったはずの雪の顔からは、みるみる血の気が引いていった。

続けて健太先輩は、二人は去年は口こそ聞かなかったが今ではラブラブだし、

お前たちには縁が無かったんだなとズバズバ言った。



雪は健太先輩に「もう先生来てましたけど、そろそろ授業行かれた方が‥」と声を掛けると、

彼はワハハと笑って去って行った。



残ったのは、ムスッと唇をとんがらせたキノコ頭の後輩‥。



雪はわざとらしく笑いながら、健太先輩の言うことはアテにならないことと、

青田先輩とは偶然会った成り行きで一緒に課題をやったことを説明しようとしたが、

キノコ頭は途中で雪の話を遮った。

「言い訳とか別にいいですよ。心配しなくても誰も信じてないんで」



雪は軽く苛ついたが、それはそれでまぁ良いか、と力なく笑った‥。



「あんた、青田先輩と一緒に授業聞いてるんだって?」



聡美が、青田先輩の後ろ姿を指差して言った。

先輩たちから聞いたというから、噂はもう学科中を回っているらしい。

雪は思わず頭を抱えたが、周りの学生たちには、

青田先輩自身が「赤山と偶然会ったついでに一緒に授業を聞くことになった」と説明しているらしく、

幸い変な風な噂にはなっていないみたいだった。

しかしなぜか聡美はニヤニヤと笑っている。



「いや~、あたしは正直まんざらでもないと‥」「やめて!!」



そう言ってほくそ笑む聡美に、雪は怒涛の勢いで抵抗する。

「やめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめて!」



普段冷静な雪が大変な剣幕なので、聡美はもう逆らわなかった‥。

すると同期の女子、そして直美さんが、青田先輩に宿題やってもらってるんだって?と声を掛けて来る。



あの子たちは今こそ笑っているが、裏ではボロクソに言っているに違いない。

聡美がそう言うと、雪もそれが嫌だから誰にも言ってなかったんだ言ってと肩を落とした。

「もっと胸を張れ!勝算もあるんだから!」

「いやだからね、あんた何か誤解してる‥」




「あーもう!やめて下さい!」

その時、一際大きな声が聞こえた。



雪たちが驚いて振り返ると、健太先輩と佐藤広隆が揉めているところだった。



喧嘩が日常茶飯事の二人だが、今日は尚の事大きな声で騒いでいる。

どうやら佐藤の持っているミュージックプレイヤーを貸す貸さないで揉めているようだった。

「貸しても返さないくせに!もうほとんど泥棒じゃないですか‥!」



あまりにもキツイ佐藤の言葉に、健太先輩がキレた。

「てめぇー!!」



あわや大惨事になるかと思われたその時、青田淳が割って入る。

「先輩、落ち着いて下さい!」



青田淳は「一旦冷静になりましょう」と言って二人の間に立った。

拳を握ったまま舌打ちをする健太先輩。

青田淳は佐藤に「言いすぎだ」と注意すると、彼は苛ついた視線を淳に送る。



周りを見回すと、あらゆる人々がこちらを見ていることに、佐藤は気がついた。



睨む健太先輩、呆れる柳、ドン引きの後輩達、野次馬の同期生‥。

「佐藤?」



そしてその中心に居るのは、何食わぬ顔で場をしきる優等生、青田淳。

佐藤は放っといてくれとそのまま踵を返した。



苛ついた健太先輩が喧嘩を止めた淳に対して不満を言ったが、

淳はにっこりとその場を治めた。

「そんなにピリピリしないで下さいよ。ね?」



「行きましょう」「お‥おう」



周りの学生たちはざわざわと、青田淳の鮮やかな場のまとめかたに感嘆した。



女学生たちは頬を染めながら青田淳を誉めそやす傍ら、

健太のことは借りた物を返さないと盗人扱いの発言まで聞こえる。



柳からはすぐカッとしすぎだとダメ出しされ、健太は苛立っていた。

チラリと隣を見ると、青田淳は涼やかな顔で澄ましている。



健太は何も言えなかった。

ふいに柳が淳に今何時かと聞いた。青田淳は左手につけたブルガリの時計を見て、時刻を答えた。



健太の目に映る高級時計。

いけすかない何かを感じて、彼は黙り込んだ。




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<日常の中の波乱>でした。

雪は朝はご飯派なんですね。しかも結構てんこ盛りですね!

キノコ頭の後輩は「金城美沙」という名前なんですが、もうこのままキノコ頭でいいかと思ってます‥。


次回は<始動>です。


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苦い記憶

2013-07-23 01:00:00 | 雪3年1部(開講~二人の写メ)
今年もまた、球技大会の季節がやって来た。

太一は台無しになった去年のリベンジとして、今年こそ会食費を獲得しようと日々練習に励んでいる。



雪と聡美はそんな太一を前に、生意気だけど面白い彼を微笑ましく思っていた。



そんな折、聡美が太一と横山翔の、去年の球技大会前の一悶着についての話を振ってきた。

雪は二人の間に何か諍いがあったことは知っていたが、その内容については知らなかったのだ。



聡美は思い出すように、太一と横山の一悶着について教えてくれた。



練習の合間に雪たちの所に寄った太一に、聡美が今去年の横山の話をしているんだと言った。



太一がその記憶を辿り出すと、

そこには聡美にストーカーまがいの行為をした横山が、ありありと浮かんでくる。



「‥まさかとは思ってたんスけど、あそこまでとは‥」



太一には去年から心に引っかかっていることがあった。

あの時から横山の性質を知っていたのに、聡美を気遣うあまりそれを雪に知らせなかったこと‥。







練習が終わってから、聡美が席を外したのを見計らって、そのことを太一は雪に告白した。

「今更ですけど、俺、あの時横山先輩がおかしかったこと

雪さんに教えてあげるべきだったのに‥。俺のせいで雪さんが‥」




雪は太一の気遣いに、両手を広げて否定した。

「ちがうちがう!何言ってんの!もう終わったことだし。

それに他のことで頭いっぱいだったし、なんともないよ!」




それならよかった、と太一が言ったので、この話はお終いにした。


雪は帰路に着きながら、あの球技大会前頃は、

平井和美の嫌がらせが続いていた頃だと思い出していた。



あの頃に太一から横山の忠告を受けていたって、きっと何も行動を起こせなかっただろうという気がする。

それよりも気がかりなことが、いくつもあったからだ。

平井和美の嫌がらせもさることながら、何と言っても心にかかっているのは、青田先輩に書類を蹴られた事件‥。


今でも昨日のことのように蘇る、廊下に響く足音。



全身が震えて、生まれて初めて味わった屈辱。




雪は苦い記憶を沈めるように、空を仰いだ。



星は見えない都心の夜。

雪の心の中にも、暗雲が漂っていた。





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太一は球技大会が間近に迫ってくると、ますます練習に精を出した。

美味しいパスタ屋へ行こうという聡美からのミシュレン出陣依頼も、練習があるからと断る始末だった。



その熱血さに聡美が「お前はスラムダンクか!」とツッコむと、

太一はやたら詳しく突っ込み返してくる‥。

「それは人に対してつける名詞じゃありませんヨ。付けるなら桜木花道とか流川楓とか‥」

「ルセー」



太一は去年のリベンジに燃えていた。

パスタ一皿食べる時間があるなら練習し、会食費を取ってみせると意気込んでいる。



コートに向かう太一は、スラムダンクのオープニング曲を力強く口ずさんでいた‥。







そんな今年の球技大会はどうだったかというと‥。

猛特訓、栄養補給(摂り過ぎ)



食あたり


闘病&不参加、勝利


脱出&乱入


・・・・・


病院へ帰還


そして、一日にして回復。


太一の目標は勝つことでは無く、しこたま料理を食べることだった‥。

翌日退院した太一は、

「思い残すことは何もないッス!」と親指を立てた。



呆れる雪の隣で、「やっぱりあんたは最高のバカだ!」と聡美がケラケラ笑っていた‥。


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今回は少し短めです。今年の球技大会もみんなおそろのTシャツで応援したんですかね^^

太一が口ずさんでいた、スラムダンクのOP↓
SLAMDUNK OP


韓国でも人気だったんですね~!


次回は<日常の中の波乱>です。

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