青田淳は忙しく動き回っていた。
設営チームの責任者である立場から、皆に指示を出し質問を受ける。
しかし心の中では、ずっと彼女のことを気にしていた。
先ほど、大量の段ボールを整理するよう仕事を言いつけたのだ。
「君はキッチンの方やってくれる?そこの箱に材料が入ってるから、倉庫に運んでくれ」
明らかに彼女は困惑していたが、それは想定内だった。
淳は戸惑う雪の姿を探して、店内に視線を走らせる。
しかし倉庫で作業中なのか、そこに彼女の姿は無かった。
ふぅん、と小さく息を吐く淳。
そして淳は再び作業に戻った。
だんだんと出来上がっていく内装。皆淳のアドバイスを聞き、また彼に助けを求める。
そこでの仕事に終わりが見えたので、淳はその場を離れた。
「もういいかな?」
良い頃合いだ。
淳は足早に倉庫の方へと歩いて行く。
すると大量の段ボールが積んであった場所はすっかり片付いて、
すでに箱は残り一個となっていた。
驚きのあまり目を見開く淳。
そして残りの一個に手を伸ばそうとした矢先、倉庫の方で何かが床に落ちる音がした。
そっと近付いて中を窺うと、そこには痛そうに手を庇う雪の姿があった。
重い段ボールを持ち上げきれず、落とした拍子に指を痛めたらしい。
いたたた‥と暫し呻いていた雪だが、不意にドアの所に佇んでいる淳に気がついた。
目を丸くしてこちらを見つめる彼を見て、雪は眉をひそめて視線を逸らす。
ヒリヒリと痛む指先に、雪は息を吹きかけて痛みを逃していた。
小さく細い彼女の指が、黒く汚れている。
それを目にした淳は、反射的に手を伸ばした。
痛むであろう彼女の手を取ろうと、身体を屈める。
しかしふと我に返った。ここで手を取るのは違うだろ、と。
淳は屈んでいた姿勢を正し、伸ばしていた手を引っ込める。
と同時に、しゃがんでいた雪も立ち上がった。
気まずい空気が二人を包む。
淳が倉庫の中を見回してみると、そこはきちんと片付いていた。
箱の中身は選別され、カテゴリーごとに棚に収納されている。
思い出せる限り、この棚には何も乗っていなかったはずだ。
倉庫内も、もっと雑然としていたと思ったのだが‥。
淳は雪の方を振り返りながら、もしやと思い聞いてみた。
「これ‥全部‥?」「いえ、外に一つ残ってます」
「いや、そうじゃなくて一人で‥」
雪はそれには答えず、彼に背を向けて黙々と作業を続けた。
淳は信じられない思いで、そんな彼女の背中を凝視する。
想定していた計画が、だんだんと破綻して行く。
淳は倉庫の外へと走り、そこに残っていた最後の段ボールに手を伸ばした。
ある程度の重さを予想して持ち上げると、それは予想に反してすごく軽かった。
簡単に顔の高さまで持ち上げられ、淳は少し拍子抜けする。
それを持って再び倉庫に入ると、雪は無表情のままこう言った。
「あ、それで最後です。手伝って頂いてありがとうございました」
雪はそっけなく淳から箱を受け取ると、早速中身を開けて整理した。
どうやら箱の中身はタオルだったらしい(軽いわけだ)
作業を続ける雪の後ろで、淳は驚きを隠せず立ち尽くしていた。
今の状況は、完全に彼の想定外なのである。
苦々しい気持ちまでもが、胸の中に広がり始めた。
淳は廊下に出ると、その大量の段ボールを担当していた同期を見つけ声を掛ける。
「ちょっと!」
「段ボールの中身、軽い物しかないって言ってたよな?
食材とか発泡スチロールの容器とか、そんな物ばっかりだったんだよな?」
「あ、食材は明日到着するんだ。鍋と台所道具が先に来たから、それを置いてたんだよね。
また明日残りの作業もしなきゃってこと、お前に話すのウッカリ忘れてたわー」
淳の脳裏に、先ほど彼女に言いつけた自分の言葉が蘇る。
「全部軽いからさ。
皆も忙しいし、とりあえず一人でやっておいて」
事情を知らなかったとはいえ、実質的に嘘を吐いたことになってしまった。
淳は咄嗟に踵を返す。
「あ‥」「先輩!」
しかしその一歩を踏み出す前に、別の後輩に捕まった。
後輩は強気な態度で淳にこう迫る。
「テーブルの配置見てくれるんでしたよね?手伝って下さい!」
淳はその場に立ち止まり、倉庫に居る雪を窺った。
彼女は一人で黙々と作業を続けている。誰にも助けを求めず、たった一人で。
助けを求めてくる後輩と、淳から背を向け一人で作業する雪と。
どちらへ向かえばいいのかなんて自明だった。
分かり切ってる‥。
淳は笑みを浮かべると、後輩の方へと踏み出した。
「分かった」
けれどなぜだろう、足が進まないのは。
こんなにも一歩が重く感じられる。
想定外の出来事が、彼をその枠から外し、理性と感情を四方八方に引っ張って行く。
思い通りにならない現実が、計画が、そして彼女が、淳の頭を悩ませる‥。
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<雪と淳>想定外 でした。
淳‥やっちまったなぁ~の回でした。
雪を気にしない素振りをしつつ、気になりまくってる淳が読者的には微笑ましいですね。
(雪ちゃんには何一つ伝わってないけど‥)
次回は<<雪と淳>空回り>です。
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この一文に思わず吹き出してしまいました‥。やっぱり本国の方もそう思ってらっしゃるんですね。。マッチョ淳‥
ドラマ化、ゆっくりですが進展してるようで良かったです!放映が楽しみですねー!!
お久しぶりでございます!二度目のコメント嬉しいです!
そしてぽぽたむさんもご出産されたのですね。おめでとうございます(^O^)
もう少しで離乳食ですよね~あー大変そう‥(世間話)
あ、ドラマ化の話ですが、着々と進んでるそうですよ!
私の知る限りでは、ドラマは今年12月か来年1月放映で、キャストも淳がパクヘジン、雪がキムゴウン、亮がソガンジュン、太一がナムジュヒョク、というところまで決定してるらしいです。
淳役と雪役の役者さんは演技力がすごいとの噂ですよ(^_^)亮役の方はピアノが弾けるとか。
放映が楽しみですね~!!
はじめまして!コメントありがとうございます。
拙い翻訳ですが、これからも頑張ってまいりますー!!
ありがとうございます!
でも名前が‥!分からない‥!
先輩が雪に抱いている感情‥。
なんだかとっても思春期チックですよー
先の展開をお楽しみに!
いやあの体格は笑って然るべきですよ‥笑
この後もオロオロする先輩続きますのでお楽しみに!
最初で最後の投稿と言っときながら気になりすぎて投稿してしまいましたすいません…。
私事ですが私も3月に出産したので、産後の大変さをタイムリーに感じていました。こんなに早くにチートラ和訳の投稿をなされるなんて驚きです!すごいです!
チートラ愛にあふれる、このブログに出会えてとても嬉しいです。
着々と終わりに近づいているチートラ。
私はドラマ化が立ち消えになってしまったのか気が気でありません。韓国のニュースでも去年の一度きりで、個人的に探しましたが最新のニュースも見つからず…。
あんなにキャストで盛り上がってたのに!!
原作ありきのドラマ化って本当ピンキリですが、チートラは是非ともドラマ化して欲しい派ですー!
長文失礼致しました…。
更新頑張って下さい!
先輩はゆきちゃんが助けを求めにくるのをまってたということでしょうか?
現時点での先輩がゆきちゃんにもってる感情がどの様なものなのか気になりすぎてやばいですw
続きが楽しみです!!
可愛いよ…可愛いよ!!
想定外に驚きまくる先輩!!
誰にも頼らず黙々と作業する雪ちゃん、男前だなあ。
二人とも、なにかピンチの時は真っ先に誰かのせいにしたりしないところが好きだ(思ってても行動に出したりしなかったり)
なんかこの先萌えポイントが待ってる気がして更新が!!やはり!!楽しみすぎる!!
やっぱり先輩好きだ!!!
体格笑ったりしてメンゴ!!