二人は、雪の家へと続く道を歩いていた。
この角を曲がれば、家はもうすぐそこだ。
角を曲がる直前のところでふと、
建物と建物の間の小さな路地が、雪の気に留まった。
色々な物が乱雑に置いてあるそこが、微かに動いた気がしたのだ。
雪は首を傾げる。
しかし目を凝らして見ても、ゴミが雑然と置いてあるだけだ。
気のせいだろうか‥。
先輩が歩きながら、「こっちで合ってる?」と道を聞いてくる。
この辺りは道が複雑で、一度や二度訪れただけでは大抵の人は覚えきれない。
雪は先輩に道を教えつつ、やはり先程の建物の間が気になっていた。
チラ、と振り返る。
雪の叫びが、夜の道に轟いた。
キャアアアア!!
突然の絶叫に、先輩が咄嗟に雪の方を振り向く。
勢いで両手に持っていた資料が舞い、腰を抜かした雪はその場で思わずしゃがみ込んだ。
確かに今、あの隙間に人間の手が見えた。
震えながらそこを指差す。
先輩はすぐに路地を覗き、誰が居るのかどうか確認したが、
そこには誰も居なかった。
先輩は何度も路地を見回したが、何も確認することは出来なかった。
「い‥いないですか?」「うん。猫か何かと見間違えたんじゃない?」
そんなわけない。確かに人の手が見えたのだ。
雪は改めて路地を覗き込んだが、そこにはゴミしか置かれていなかった。
「暑さでおかしくなってたのかも‥」と言う雪に、
先輩は「暗いからそういうときもあるよ」とフォローする。
そして二人は、地面に散らばった資料を集め始めた。
先輩が笑いながら、「雪ちゃんってなんだかんだよく転ぶよな?」
とその派手な転び方を茶化すので、雪は恥ずかしさと決まり悪さで、下を向いて赤面した。
先輩が、「去年も何度か見かけたし」と言葉を続ける。
雪は弁解しようと口を開きかけたのだが、ふと目に留まったものがあった。
散らばった書類、
先輩の靴‥。
沈めてあった、しかし消して拭えなかった記憶が鮮明に蘇ってくる。
ぶちまけた書類を必死に掻き集めている雪の向こうで、
彼は佇んでいた。
散らばった書類が彼の足元にあった。
君は度々間違いを犯すね
そう言って書類を蹴った。
その高そうな靴で。
俯いたまま固まった雪に、先輩が声を掛ける。
「雪ちゃん?」
あの時は、顔が上げられなかった。
言葉から伝わってくる嫌悪感に気圧されて、
ただ視線を彷徨わせることしか出来なかった。
顔を上げた。
あの時と違い、今は目の前に先輩の顔がある。
目を見開いて、雪のことを見ている彼。
雪は掠れた声で、恐る恐るこう言った。
「先輩の足元にある書類‥取ってもらってもいいですか?」
脳裏には書類から遠ざかって行く靴の映像が蘇る。
雪は瞬きも出来ないまま、彼の出方を窺った。
淳はその怯えた表情とその言葉で、彼女が何を思い出しているのかを悟った。
緩やかに振り返ると地面に散らばった書類に目を落とし、それに手を伸ばす。
淳が動くと、彼女はビクッと身を震わせた。
二人の間の空気が緊張する。
淳は彼女に書類を手渡した。
短く「はい、」と声を掛けながら。
淳の表情は険しかった。
落胆とも苛立ちとも取れる、厳しい顔。
ツゥ、と背中を伝う冷たい汗。
あの時感じた屈辱感とは、また違った感情が彼女の胸を騒がせていた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<フラッシュバック>でした。
盛り上がってまいりました!そして次回はついに‥!
<告白>でございます。。
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この角を曲がれば、家はもうすぐそこだ。
角を曲がる直前のところでふと、
建物と建物の間の小さな路地が、雪の気に留まった。
色々な物が乱雑に置いてあるそこが、微かに動いた気がしたのだ。
雪は首を傾げる。
しかし目を凝らして見ても、ゴミが雑然と置いてあるだけだ。
気のせいだろうか‥。
先輩が歩きながら、「こっちで合ってる?」と道を聞いてくる。
この辺りは道が複雑で、一度や二度訪れただけでは大抵の人は覚えきれない。
雪は先輩に道を教えつつ、やはり先程の建物の間が気になっていた。
チラ、と振り返る。
雪の叫びが、夜の道に轟いた。
キャアアアア!!
突然の絶叫に、先輩が咄嗟に雪の方を振り向く。
勢いで両手に持っていた資料が舞い、腰を抜かした雪はその場で思わずしゃがみ込んだ。
確かに今、あの隙間に人間の手が見えた。
震えながらそこを指差す。
先輩はすぐに路地を覗き、誰が居るのかどうか確認したが、
そこには誰も居なかった。
先輩は何度も路地を見回したが、何も確認することは出来なかった。
「い‥いないですか?」「うん。猫か何かと見間違えたんじゃない?」
そんなわけない。確かに人の手が見えたのだ。
雪は改めて路地を覗き込んだが、そこにはゴミしか置かれていなかった。
「暑さでおかしくなってたのかも‥」と言う雪に、
先輩は「暗いからそういうときもあるよ」とフォローする。
そして二人は、地面に散らばった資料を集め始めた。
先輩が笑いながら、「雪ちゃんってなんだかんだよく転ぶよな?」
とその派手な転び方を茶化すので、雪は恥ずかしさと決まり悪さで、下を向いて赤面した。
先輩が、「去年も何度か見かけたし」と言葉を続ける。
雪は弁解しようと口を開きかけたのだが、ふと目に留まったものがあった。
散らばった書類、
先輩の靴‥。
沈めてあった、しかし消して拭えなかった記憶が鮮明に蘇ってくる。
ぶちまけた書類を必死に掻き集めている雪の向こうで、
彼は佇んでいた。
散らばった書類が彼の足元にあった。
君は度々間違いを犯すね
そう言って書類を蹴った。
その高そうな靴で。
俯いたまま固まった雪に、先輩が声を掛ける。
「雪ちゃん?」
あの時は、顔が上げられなかった。
言葉から伝わってくる嫌悪感に気圧されて、
ただ視線を彷徨わせることしか出来なかった。
顔を上げた。
あの時と違い、今は目の前に先輩の顔がある。
目を見開いて、雪のことを見ている彼。
雪は掠れた声で、恐る恐るこう言った。
「先輩の足元にある書類‥取ってもらってもいいですか?」
脳裏には書類から遠ざかって行く靴の映像が蘇る。
雪は瞬きも出来ないまま、彼の出方を窺った。
淳はその怯えた表情とその言葉で、彼女が何を思い出しているのかを悟った。
緩やかに振り返ると地面に散らばった書類に目を落とし、それに手を伸ばす。
淳が動くと、彼女はビクッと身を震わせた。
二人の間の空気が緊張する。
淳は彼女に書類を手渡した。
短く「はい、」と声を掛けながら。
淳の表情は険しかった。
落胆とも苛立ちとも取れる、厳しい顔。
ツゥ、と背中を伝う冷たい汗。
あの時感じた屈辱感とは、また違った感情が彼女の胸を騒がせていた。
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<フラッシュバック>でした。
盛り上がってまいりました!そして次回はついに‥!
<告白>でございます。。
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そうか~あそこはW meaningにしなければいけないとこですもんね。
本家版で全部読んでこられたCitTさんがうらやましい~~!
本当にそうなってますか?ひどい!
ここは雪が転んだことについて言ってるようにも、
雪が青田先輩の悪口を言ったことについて
言ってるようにもしなくちゃいけないのに・・・!
公式版は何を考えているのかな?まったく。
(こうして日本語版を読んだこともないCitTの心の中で
公式の日本語版のイメージはどんどん悪くなる)
書類蹴っ飛ばし事件は、ユジョンにしては結構感情的な行動だと思いませんか?
それだけソルに自分を看破されたのが気に障ったんでしょうが‥。ソルがトラウマになるのも無理ありませんよね。
そしてこの事件も、ヨンゴンにソルを吹っかけた事件も、去年までのユジョンなら想定の範囲内だったのに、初めて自分の予想を超えて、ソルへの興味が出てきた。
自縄自縛、その通りだと思います。
そしてそうなる自分自身を、初めてユジョンは知るのだと思います。その結果が自分を苦しめることも。
連載再開が待ちきれませんね~
そしてちょびこ姉さん、詳しくは今夜の<告白>を読んで頂ければわかりますが、原文と日本語訳はそんなには変わってないです。
そして私はちょびこ姉さんが感じた”萌えない、なんだか言い回しや態度が気に障る”ってのはすごく正解なんじゃないか、と感じました。
だからこそ後々雪が先輩に懐疑心を抱くんだと思いますし、そもそも単純に”好き”って感情で告ってないですからね、先輩‥。
そしてそんな氷点下な先輩も抱きしめたい姉さんの懐の広さに拍手!
萌えは絶対零度も超える!
私の名言図鑑がアップアップ(笑)!
正直なところ、一連(←尾崎じゃない)の記事とコメを拝読して、
優しくあたたかいハズの会話が、一転、
距離感を示すものだったと納得した今(そう今さらジロー)、
冷気注入でもう凍えそうです。ガクブル
今夜の告り方にとても興味があります。
蒸気ムンムンで読んでた頃でも、日本語版での告りには
なんか萌えなかったというか、先輩が淡々としてたのもあるけど、
言い回しや態度が何か気に障るというか、
原語ではどう表現されてたのかなーと(気になったまま翻訳試みてない)。
青さん仰るとおり、私も蹴飛ばすのは「ありえない」って思いました。
それこそ当時先輩の裏側ばかり見ようとしてた雪ちゃんの過剰な妄想かと。
常に敵意を示す佐藤先輩にすら、そんな態度とってなかったろうに、
ん~先輩、よりによって雪ちゃんにしちゃうなんてぇ~ん。
もー、おバカちゃんね。抱きしめてあげたい。←冷気無意味(笑)
完全にトラウマ化しているソルちゃんだけでなく、ある意味それ以上に、あの一件はここに来てユジョン自身を縛っていますね。主観はともかく、自分の思うままに人を動かして生きてきたジョンが、ソルちゃんのことでは自縄自縛に陥っています。
しかし、ここから次回の展開に持ち込むというその「会話の寝技師」ぶりは、他人の追随を許さない極悪さですね。流石です。
どちらも嫌なやつなセリフですけど‥笑
ついに明日<告白>でございます。
むふーむふー(同じく蒸気)
「君は度々間違いを犯すね」って。
目線どこから?
ソコのわだかまりをスルーしたまま今夜の流れに突入。どーかと思うわぁ、先輩。
キッカケは、この書類だったのかな。
どの時点で申し入れを決意したのかなー。
むふー。むふー。←蒸気(朝っぱらから)