雪と香織が廊下で騒動を繰り広げたほとぼりがまだ冷めぬ頃、その人はA大の構内に居た。
広いキャンパス内をあてもなく歩いていた彼女は、やがて構内を歩く二人の女学生に声を掛ける。
「こんにちは?」
二人の女学生は幾分驚いた。声を掛けてきた女性は背が高くスタイル良く、どう見ても女優かモデルだ。
サングラスをしていてその顔の全貌は分からないが、相当の美人に違いない。
「ちょっと聞きたいことがあるんだけど‥」
そう口にする彼女‥河村静香の言葉に、女学生達は足を止めた。
「ここの大学の経営学科に、青田淳っているでしょ?」
静香からの質問に、女学生二人は頷いた。幸い彼女達は淳を知っているようだ。
そこで静香は、今青田淳はどこにいるのか、と続けて尋ねた。すると彼女達は首を傾げる。
「それが‥四年の先輩達のことはよく分かんなくて‥」
「インターンかな?」 「授業かな?」
彼女達は暫く思案していたが、不意に二人の内の一人がとある人物を見つけて指を差した。
「あっあれ!あの人!あそこを歩いてる三年の赤山雪という先輩に聞いてみて下さい!」
誰だって? と静香は尋ねた。すると女学生は、前方を歩く女性をもう一度指差す。
「あの変わったズボンを履いている先輩です」
その子は確かに変わったズボンを履いていた。一度目にしたらその印象を焼き付けてしまうような。
そして女学生は更にその子についての情報を、静香に向かって口にする。
「あの先輩が、青田先輩の彼女さんなんです!」
静香はその思いもよらない情報に幾分驚き、軽くサングラスを下げた。
「彼女‥? へ~ぇ‥」
あの先輩に聞いてみて下さい、と女学生はもう一度口にすると、静香は頷いた。
「ハイハイ、分かったからあんた達はもう行きな」
もう用無しと言わんばかりにシッシッと手を振る静香に、女学生達は呆れながら去って行く。
静香は”淳の彼女”の後ろ姿を見ながら、一人呟いた。
「彼女ねぇ‥。暫く居なかったのに、一体いつの間に‥。
てか淳の野郎‥私がこんなザマでいるってのに、自分はちゃっかり彼女作って遊んでたってこと?」
静香の中に居る癇癪の虫が、そのプライドを刺激されて騒ぎ始める。
静香は去って行く”淳の彼女”を、その長い足で追いかけて行った。
「フフフフ‥」
そして淳の彼女‥ではなく清水香織は、一人笑い声を漏らしながら大学の構内を歩いていた。
香織は両手でリュックの持ち手を掴みながら、満足感や達成感に身を委ねていた。
やっぱり‥私が勝った!横山君の言う通りにしたから‥
そして香織の脳裏に浮かんでくるのは、先日横山翔に呼び止められた時のことだった。
横山は香織が雪の真似をしている事実について、彼なりのアドバイスをしたのだ。
「いや~別に君が間違ってるって言いたいんじゃなくてさぁ、
人は誰でも誰かを参考にして生きてるもんじゃない?皆そうやって成長していくんだと俺は思うけどね~」
そして横山は、万が一そのことで赤山が何か言ってくるようならば、
それは赤山が幼稚なのであり、香織に非があるわけではないと言った。
「君なら十分に言い返せるって。そうだろ?」
そう言って笑顔を浮かべる横山を前にして、香織は自信無さげな表情で俯いた。
「まぁ‥でも服装に特許出したわけじゃないし‥。そ、それに雪ちゃんは弁が立つし、
平井さんとも渡り合うくらい‥。私は‥ノロマだし‥頭の回転も遅くて‥」
そんな弱気な香織に、横山は事も無げにその改善点を口にした。
「そういうとこが変わればいいってことだよね?言葉よりまず行動!だよ」
横山は、言葉が出ないなら行動を起こせばいいと言った。
それがどんな行動かを、横山は笑顔で口にする。
「ああだこうだ言われたって、先に泣いたらそれで終わりなんだから」
そして香織は、先ほどの際それを実行したというわけだ。
ニヤニヤ笑いが止まらない。
今まで私が成し得なかったことを、横山君が解決してくれた‥
脳裏には、号泣する自分を見て虚を突かれた表情を浮かべる雪が思い浮かんだ。
あんないい人を嫌ってる雪ちゃんって変な子‥。
本当‥大したことないじゃない
いつも自分の目標としていた指標が、いつの間にか自分の下に成り下がっていたような、
そんな優越感を香織は感じていた。口元に笑みをたたえながら、彼女は自分自身への自信を一人噛みしめる。
私は、十分雪ちゃんに勝てる‥!
しかしそんな香織の優越感も、そこで佇む彼女と出会うことで終わりを告げることになる。
この先にはとんでもない災難が、香織を待ち受けている‥。
同じ頃、ここはA大音楽学部の校舎。
ピアノ科教授・志村明秀は、授業が終わり学生達に別れの挨拶を告げられているところだった。
携帯を取り出し画面を見る。
気になっている”彼”からの着信は無い。ふぅむ、と志村は息を吐いた。
志村が教員室へ続く廊下を歩いていると、そんな彼を待ち受ける人物の姿があった。
目立たぬよう目深にキャップを被った上にフードまで被せていた彼だが、その異風な出で立ちに皆が視線を留めていく。
志村は彼を認めると、おお、と声を掛けた。
ずっと待っていた相手だった。
志村が目にしたのは、河村亮だった。
亮はポケットから名刺を取り出すと、彼に見えるよう高く掲げた。
志村は亮に近づくと、連絡を待っていたと言って微笑んだ。
亮は少し決まり悪そうに、頭を掻いてここに来た理由を口にをする。
「い、いやただ‥そちらさんが超オレに来て欲しいみてぇだから‥」
亮はそう言うと、腕組みをしてふんぞり返った。
「まぁその、あれだ!一度話を伺いましょう!」
相変わらずの無礼な態度、尊大な振る舞い。
志村は高校時代と変わっていない亮を前にして、一つ息を吐く。
けれど心は踊っていた。
錆びついた宝石は、一体どこまで輝くことが出来るだろう?
志村は密かな胸の高鳴りを感じ、柔らかく微笑んだ‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<河村姉弟現る>でした。
ということで、<太一への陰謀>にしろ<雪への陰謀>にしろ、そこをコントロールしていたのは横山だったのでした。
そして散々読者をイライラさせてきた香織ちゃんは、次回とんでもない目に合うことになります。
本家のコメ欄が「静香マンセー!」になった回、
<暴行>です。
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広いキャンパス内をあてもなく歩いていた彼女は、やがて構内を歩く二人の女学生に声を掛ける。
「こんにちは?」
二人の女学生は幾分驚いた。声を掛けてきた女性は背が高くスタイル良く、どう見ても女優かモデルだ。
サングラスをしていてその顔の全貌は分からないが、相当の美人に違いない。
「ちょっと聞きたいことがあるんだけど‥」
そう口にする彼女‥河村静香の言葉に、女学生達は足を止めた。
「ここの大学の経営学科に、青田淳っているでしょ?」
静香からの質問に、女学生二人は頷いた。幸い彼女達は淳を知っているようだ。
そこで静香は、今青田淳はどこにいるのか、と続けて尋ねた。すると彼女達は首を傾げる。
「それが‥四年の先輩達のことはよく分かんなくて‥」
「インターンかな?」 「授業かな?」
彼女達は暫く思案していたが、不意に二人の内の一人がとある人物を見つけて指を差した。
「あっあれ!あの人!あそこを歩いてる三年の赤山雪という先輩に聞いてみて下さい!」
誰だって? と静香は尋ねた。すると女学生は、前方を歩く女性をもう一度指差す。
「あの変わったズボンを履いている先輩です」
その子は確かに変わったズボンを履いていた。一度目にしたらその印象を焼き付けてしまうような。
そして女学生は更にその子についての情報を、静香に向かって口にする。
「あの先輩が、青田先輩の彼女さんなんです!」
静香はその思いもよらない情報に幾分驚き、軽くサングラスを下げた。
「彼女‥? へ~ぇ‥」
あの先輩に聞いてみて下さい、と女学生はもう一度口にすると、静香は頷いた。
「ハイハイ、分かったからあんた達はもう行きな」
もう用無しと言わんばかりにシッシッと手を振る静香に、女学生達は呆れながら去って行く。
静香は”淳の彼女”の後ろ姿を見ながら、一人呟いた。
「彼女ねぇ‥。暫く居なかったのに、一体いつの間に‥。
てか淳の野郎‥私がこんなザマでいるってのに、自分はちゃっかり彼女作って遊んでたってこと?」
静香の中に居る癇癪の虫が、そのプライドを刺激されて騒ぎ始める。
静香は去って行く”淳の彼女”を、その長い足で追いかけて行った。
「フフフフ‥」
そして淳の彼女‥ではなく清水香織は、一人笑い声を漏らしながら大学の構内を歩いていた。
香織は両手でリュックの持ち手を掴みながら、満足感や達成感に身を委ねていた。
やっぱり‥私が勝った!横山君の言う通りにしたから‥
そして香織の脳裏に浮かんでくるのは、先日横山翔に呼び止められた時のことだった。
横山は香織が雪の真似をしている事実について、彼なりのアドバイスをしたのだ。
「いや~別に君が間違ってるって言いたいんじゃなくてさぁ、
人は誰でも誰かを参考にして生きてるもんじゃない?皆そうやって成長していくんだと俺は思うけどね~」
そして横山は、万が一そのことで赤山が何か言ってくるようならば、
それは赤山が幼稚なのであり、香織に非があるわけではないと言った。
「君なら十分に言い返せるって。そうだろ?」
そう言って笑顔を浮かべる横山を前にして、香織は自信無さげな表情で俯いた。
「まぁ‥でも服装に特許出したわけじゃないし‥。そ、それに雪ちゃんは弁が立つし、
平井さんとも渡り合うくらい‥。私は‥ノロマだし‥頭の回転も遅くて‥」
そんな弱気な香織に、横山は事も無げにその改善点を口にした。
「そういうとこが変わればいいってことだよね?言葉よりまず行動!だよ」
横山は、言葉が出ないなら行動を起こせばいいと言った。
それがどんな行動かを、横山は笑顔で口にする。
「ああだこうだ言われたって、先に泣いたらそれで終わりなんだから」
そして香織は、先ほどの際それを実行したというわけだ。
ニヤニヤ笑いが止まらない。
今まで私が成し得なかったことを、横山君が解決してくれた‥
脳裏には、号泣する自分を見て虚を突かれた表情を浮かべる雪が思い浮かんだ。
あんないい人を嫌ってる雪ちゃんって変な子‥。
本当‥大したことないじゃない
いつも自分の目標としていた指標が、いつの間にか自分の下に成り下がっていたような、
そんな優越感を香織は感じていた。口元に笑みをたたえながら、彼女は自分自身への自信を一人噛みしめる。
私は、十分雪ちゃんに勝てる‥!
しかしそんな香織の優越感も、そこで佇む彼女と出会うことで終わりを告げることになる。
この先にはとんでもない災難が、香織を待ち受けている‥。
同じ頃、ここはA大音楽学部の校舎。
ピアノ科教授・志村明秀は、授業が終わり学生達に別れの挨拶を告げられているところだった。
携帯を取り出し画面を見る。
気になっている”彼”からの着信は無い。ふぅむ、と志村は息を吐いた。
志村が教員室へ続く廊下を歩いていると、そんな彼を待ち受ける人物の姿があった。
目立たぬよう目深にキャップを被った上にフードまで被せていた彼だが、その異風な出で立ちに皆が視線を留めていく。
志村は彼を認めると、おお、と声を掛けた。
ずっと待っていた相手だった。
志村が目にしたのは、河村亮だった。
亮はポケットから名刺を取り出すと、彼に見えるよう高く掲げた。
志村は亮に近づくと、連絡を待っていたと言って微笑んだ。
亮は少し決まり悪そうに、頭を掻いてここに来た理由を口にをする。
「い、いやただ‥そちらさんが超オレに来て欲しいみてぇだから‥」
亮はそう言うと、腕組みをしてふんぞり返った。
「まぁその、あれだ!一度話を伺いましょう!」
相変わらずの無礼な態度、尊大な振る舞い。
志村は高校時代と変わっていない亮を前にして、一つ息を吐く。
けれど心は踊っていた。
錆びついた宝石は、一体どこまで輝くことが出来るだろう?
志村は密かな胸の高鳴りを感じ、柔らかく微笑んだ‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<河村姉弟現る>でした。
ということで、<太一への陰謀>にしろ<雪への陰謀>にしろ、そこをコントロールしていたのは横山だったのでした。
そして散々読者をイライラさせてきた香織ちゃんは、次回とんでもない目に合うことになります。
本家のコメ欄が「静香マンセー!」になった回、
<暴行>です。
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引き続きキャラ人気投票も行っています~!
次の展開、本家のコメントは確かに静香への応援一色でしたね(笑
今日最新エピソードの静香は悪い予感しかしないんですが。
なるほど!シックリ!
修正させて頂きます~ありがとうです!
最新エピ、静香は横山に会おうとしてるんですか?
確かに不安この上ない‥。
けれど前半は亮祭り、神輿を上げてのお祝いでも良いくらいじゃないです?!
みなさん~太鼓太鼓!
あとはちょびこ姉様の櫓組み待ちってやつですかね?
彼は今、一人でチートラ内の少女漫画の部分を背負って立っていると言っても過言ではありません…!
萌えましたよー
しかも片思いって宣伝のとコで、言った~
これから何が起きるのか
ふふふな展開なるかなー