ガタンゴトンと地下鉄が揺れる。
今は大学からの帰宅途中。
真っ暗な外のせいで、ガラス窓には自分の顔がしっかりと映り込んでいて、
雪は地下鉄の揺れに身体をまかせながら、ぼんやりと自分の顔を眺めていた。
脳裏に、先程柳瀬健太から言われた言葉が蘇る。
「赤山、お前ものすごい変わったぞ。分かってっか?」
野生の勘を持つ健太からの指摘。
いつもなら健太の言葉になど耳を貸さない雪だが、今回ばかりは引っかかった。
何だろ‥。確かに私って他人に振り回されがちだけど、別に良い子ぶってたつもりなんて‥
そんなことないって思ってたけど‥
ガラスに映った自分の顔は、地下鉄の振動のせいでゆらゆらと揺れていた。
今まで自分と思っていた自身の輪郭が、どこか曖昧にぼやけて行く。
脳裏に浮かぶのは、去年の平井和美との場面場面だ。
「本当自分のものにしようと必死ね。さぞご満悦で?」「なんじゃごりゃあ!」
「青田先輩のこと気になってるなら分からないはずがないわ!特にアンタならね!」
「だから興味ないって何回言わせれば‥」 「逃げるよ!」
内心面倒でしょうがなかった平井和美に、一体何度手を差し伸べたことだろう。
誰も頼んでいなかったし、自分も望んだわけではなかったのに‥。
知らず知らずの内に被っていた”良い子”の仮面が、雪を”こうであるべき”方向に動かしていた。
「ほら、持ってけドロボー!」 「元気出せよ!」
横山翔との因縁の関係の始まりだってそうだった。
哀れに見えた横山にお節介を焼いたお陰で、あんなにも大変な目に合うことになったのだ。
変な正義感を纏って、その場その場を取り繕って生きていたあの頃の自分。
そして結局、そのツケは自分に回ってくることになる。
「グループ5は全員Dです」
あれはその影響を受けた最たる出来事だった。
気まずい場を避けたかったが為に、一人で奮闘したが、結局最悪な結果が待っていた。
あれが去年、そして今年のはじめにかけての自分。
先輩と付き合う前、河村氏と深く関わり合う前の私‥。
しかし他人に振り回され、影響を受けてばかりだった雪も、次第に変わっていくことになる。
あれは今年の夏の終わり、英語塾での出来事。
「A大がB大がって大学の名前を出して人を判断する前に、
まずは自分の言動を慎重に省みたらいかがです?」
自分の頭で考え、一番相手が堪える状況で意見を言ってやった。
勿論、自分一人の力で解決出来たわけではない。
男から殴られそうになった時、河村氏が庇ってくれた。男と対決する前夜、先輩からアドバイスも貰った。
そしてつい最近では、蓄積した気持ちを公衆の面前でぶつけ合った。
清水香織との一件。
今までならば我慢しただろう。気持ちを飲み込んだだろう。
けれど自身を奪われたくはないと、気が付くと何もかも忘れて掴みかかっていた。
柳瀬健太の一件についても同様だ。
「先輩の個人的な事情に、何故私達全員が巻き添えを食らわされなければいけないんですか?
それに、そういった事情を抱えているのは先輩だけだと思います?」
「それは先輩の事情です」
数ヶ月前言えなかった言葉も、躊躇いなく口に出来た。
自身を揺らし続けるさざ波に、固い意志を持って相対した‥。
雪はガラスに映る自分自身を見つめながらこう思う。
私も確かに変わった。あの時から‥
復学し、初めて先輩を目にした時から、その変化は始まっていたのだろう。
来るべき時が来るまで、まるで分からなかったけれど。
時間が経つにつれて、単に先輩との関係性が変わっただけじゃなくて、私自身もすごく‥
頭の中に、出会った頃と今現在の二人の姿が浮かぶ。
考えてみたら、先輩も河村氏もすごく変わった
嫌悪は好意に、疑心は信頼に、彼らに対する雪の感情は変化して行った。
おそらく、先輩と河村氏が自分に対して抱く感情も。
雪は一人頷きながら納得する。
やっぱりヒトは変わっていくものなんだ‥
無意識の中、手の平を見つめる。
うん、もう周りに振り回されない、囚われもしない‥
手の平の中にある無数の相。
それらは交差し、絡み合い、雪を導いて行く。
どうして手の平を見ているんだっけと、当の本人は疑問符を浮かべていたけれど。
雪は腕を組むと、自分に言い聞かせるようにこう思う。
とにかく‥結論としては、自分がしっかりしてればそれで良いんだ。
私にも重要な時期が近付いて来てる‥
重要なのは自分自身だよ、雪
変わっていくことを、受け入れること。
ありのままの自分になることを、恐れないこと。
ガラスに映るもう一人の自分は、雪の方を見て頷いている‥。
するとポケットの中の携帯が震え、見てみると先輩からの着信だった。
雪の表情がパッと華やぐ。
「!」
「あ、先輩!電話くれるなんて!
夜ご飯の時間ですか?私は今帰りの地下鉄です!」
「ですよね!最近日が落ちるのが早くって‥」
そして雪は、暫し先輩と会話を楽しんだ。
ガラス窓に映る自分が、嬉しそうに笑っている‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<変わる彼女>でした。
昔は良くも悪くも”良い子ちゃん”だった雪が、先輩や亮の影響を受けて、
自分の言いたいことをちゃんと口に出来るように変わっていった‥。
そんな軌跡が垣間見れた回だったですね。
そして最後、地下鉄内で電話する雪ちゃんですが、韓国では日本ほど、電車内での通話は気にされないようです。。
さて次回は、今回と対になります。
<変わらない彼>です。
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今は大学からの帰宅途中。
真っ暗な外のせいで、ガラス窓には自分の顔がしっかりと映り込んでいて、
雪は地下鉄の揺れに身体をまかせながら、ぼんやりと自分の顔を眺めていた。
脳裏に、先程柳瀬健太から言われた言葉が蘇る。
「赤山、お前ものすごい変わったぞ。分かってっか?」
野生の勘を持つ健太からの指摘。
いつもなら健太の言葉になど耳を貸さない雪だが、今回ばかりは引っかかった。
何だろ‥。確かに私って他人に振り回されがちだけど、別に良い子ぶってたつもりなんて‥
そんなことないって思ってたけど‥
ガラスに映った自分の顔は、地下鉄の振動のせいでゆらゆらと揺れていた。
今まで自分と思っていた自身の輪郭が、どこか曖昧にぼやけて行く。
脳裏に浮かぶのは、去年の平井和美との場面場面だ。
「本当自分のものにしようと必死ね。さぞご満悦で?」「なんじゃごりゃあ!」
「青田先輩のこと気になってるなら分からないはずがないわ!特にアンタならね!」
「だから興味ないって何回言わせれば‥」 「逃げるよ!」
内心面倒でしょうがなかった平井和美に、一体何度手を差し伸べたことだろう。
誰も頼んでいなかったし、自分も望んだわけではなかったのに‥。
知らず知らずの内に被っていた”良い子”の仮面が、雪を”こうであるべき”方向に動かしていた。
「ほら、持ってけドロボー!」 「元気出せよ!」
横山翔との因縁の関係の始まりだってそうだった。
哀れに見えた横山にお節介を焼いたお陰で、あんなにも大変な目に合うことになったのだ。
変な正義感を纏って、その場その場を取り繕って生きていたあの頃の自分。
そして結局、そのツケは自分に回ってくることになる。
「グループ5は全員Dです」
あれはその影響を受けた最たる出来事だった。
気まずい場を避けたかったが為に、一人で奮闘したが、結局最悪な結果が待っていた。
あれが去年、そして今年のはじめにかけての自分。
先輩と付き合う前、河村氏と深く関わり合う前の私‥。
しかし他人に振り回され、影響を受けてばかりだった雪も、次第に変わっていくことになる。
あれは今年の夏の終わり、英語塾での出来事。
「A大がB大がって大学の名前を出して人を判断する前に、
まずは自分の言動を慎重に省みたらいかがです?」
自分の頭で考え、一番相手が堪える状況で意見を言ってやった。
勿論、自分一人の力で解決出来たわけではない。
男から殴られそうになった時、河村氏が庇ってくれた。男と対決する前夜、先輩からアドバイスも貰った。
そしてつい最近では、蓄積した気持ちを公衆の面前でぶつけ合った。
清水香織との一件。
今までならば我慢しただろう。気持ちを飲み込んだだろう。
けれど自身を奪われたくはないと、気が付くと何もかも忘れて掴みかかっていた。
柳瀬健太の一件についても同様だ。
「先輩の個人的な事情に、何故私達全員が巻き添えを食らわされなければいけないんですか?
それに、そういった事情を抱えているのは先輩だけだと思います?」
「それは先輩の事情です」
数ヶ月前言えなかった言葉も、躊躇いなく口に出来た。
自身を揺らし続けるさざ波に、固い意志を持って相対した‥。
雪はガラスに映る自分自身を見つめながらこう思う。
私も確かに変わった。あの時から‥
復学し、初めて先輩を目にした時から、その変化は始まっていたのだろう。
来るべき時が来るまで、まるで分からなかったけれど。
時間が経つにつれて、単に先輩との関係性が変わっただけじゃなくて、私自身もすごく‥
頭の中に、出会った頃と今現在の二人の姿が浮かぶ。
考えてみたら、先輩も河村氏もすごく変わった
嫌悪は好意に、疑心は信頼に、彼らに対する雪の感情は変化して行った。
おそらく、先輩と河村氏が自分に対して抱く感情も。
雪は一人頷きながら納得する。
やっぱりヒトは変わっていくものなんだ‥
無意識の中、手の平を見つめる。
うん、もう周りに振り回されない、囚われもしない‥
手の平の中にある無数の相。
それらは交差し、絡み合い、雪を導いて行く。
どうして手の平を見ているんだっけと、当の本人は疑問符を浮かべていたけれど。
雪は腕を組むと、自分に言い聞かせるようにこう思う。
とにかく‥結論としては、自分がしっかりしてればそれで良いんだ。
私にも重要な時期が近付いて来てる‥
重要なのは自分自身だよ、雪
変わっていくことを、受け入れること。
ありのままの自分になることを、恐れないこと。
ガラスに映るもう一人の自分は、雪の方を見て頷いている‥。
するとポケットの中の携帯が震え、見てみると先輩からの着信だった。
雪の表情がパッと華やぐ。
「!」
「あ、先輩!電話くれるなんて!
夜ご飯の時間ですか?私は今帰りの地下鉄です!」
「ですよね!最近日が落ちるのが早くって‥」
そして雪は、暫し先輩と会話を楽しんだ。
ガラス窓に映る自分が、嬉しそうに笑っている‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<変わる彼女>でした。
昔は良くも悪くも”良い子ちゃん”だった雪が、先輩や亮の影響を受けて、
自分の言いたいことをちゃんと口に出来るように変わっていった‥。
そんな軌跡が垣間見れた回だったですね。
そして最後、地下鉄内で電話する雪ちゃんですが、韓国では日本ほど、電車内での通話は気にされないようです。。
さて次回は、今回と対になります。
<変わらない彼>です。
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引き続きキャラ人気投票も行っています~!
だから自分が悪くないと思ってもツケが回ってきてた。これまでは。
自分自身、仕事でも子育てでも思い当たる節があって、考えされられます。
しかし前からというか、いつも思ってますけど、まるで実はスンキさんが日本語堪能で、日本人のためにこのブログをやってくれているかのような見事な表現…。素晴らしいですね。
保身で行動したことには、やがてツケが回ってくる‥。なるほど~~
雪ちゃんはそれに気づけたということですよね。淳と亮に出会って自分が変わって、自ずと気づく方向へ流されていた、という感じでしょうか。
ブログ、楽しんで下さって嬉しいです。
これからもがんばります‥!