
時は雪の卒業式より一年程前に遡る。
淳がその涙と共に心の扉を開け放し、雪の目の前に立つその時に。

本音を口にした淳が、雪に問う。
「もう俺のこと嫌になった?」

涙を流し続ける彼は、いつしか消えて無くなりそうに儚かった。
自身の選択で決まる彼の正否。
雪はただ無言でその場に立ち尽くしていた。

淳はしゃくり上げながら、止まらない嗚咽を漏らし続ける。
「ふっ‥うっ‥うっ‥うっ‥」

「ううっ‥」

堪らず雪は彼に近付いた。
「先輩‥」

「本当に私の知ってる先輩ですか?まるで子供みたいだから‥」

淳は泣きじゃくりながら、雪に向かってこう聞く。
「こんな俺は嫌?」


いつも大人っぽくて、スマートで、常に笑顔の”青田先輩”。
それは彼が彼女の手を握り続ける為に演じて来た幻影だった。
今雪の前で情けないほどの姿を晒すこの彼こそが、押し隠して来た本当の青田淳なのだ。

嘘を吐かれていたとか、偽りを信じさせられていたとか、感じないわけではない。
雪は彼から目を逸らす。

そして改めて考えてみた。
それでも全てひっくるめて、彼の傍に居たいと思えるかどうかをー‥。

”こんな俺は嫌?”

「いいえ」

雪は真っ直ぐに彼に向かって手を伸ばした。
開け放たれた扉の中へ、そっと入って行く。
「泣かないで」

その扉に合う鍵は、彼の目から零れ落ちるその涙は、とても温かだった。
それに触れながら雪は、ようやく本当の彼を抱き締める。
「先輩のこと、嫌いになんかならない」

「一緒に戻りましょうよ‥」

触れた体温は温かく、彼の実体をありありと感じた。
彼の流した涙の行方を、雪はしっかりと受け止めるー‥。
「そこで何しとるんだ?」

ドン!と反射的に雪は彼の身体を突き飛ばした。
なんと赤山家が揃い踏みで、抱き合う二人を見ていたのだー‥!
「んなっ‥」

「ななな何で?!どうして皆こんな所にいるの?!」
「店が終わってから皆でチキンを食べて来たんだ」「姉ちゃんの分もテイクアウトして来たぜ」
「路上でイチャつくのは止めなさい。まったく‥」

顔面蒼白で取り乱す雪と、思い切り突き飛ばされて地味にダメージを食らっている淳‥。
淳は手の平で顔を隠しながら、こそこそと声を出す。
「あ‥あの‥」「ん?」

「なんだその顔は。何かあったか?泣いたのか?」
「えっ?もしかして淳さん泣いてたの?」「あらあら目が真っ赤!」

赤山家の人々はそう言って淳の顔をジロジロと覗き込んだ。
雪がなかなか越えられなかった壁が、ガラガラと音を立てて崩れて行く‥。
「なんだ?どうしたんだ」「雪と喧嘩でもしたの?」
「ちょっと顔見せてみなさい」「や‥止めてあげて‥!」

淳は(ト‥トラウマが‥)と高校時代のことを思い出して気が気じゃなかったが、
どうやら赤山家はそんなことを微塵も気にする人達では無かったようだ。
「どー見ても二人、喧嘩して別れの危機だったけど結局仲直りしたってとこだろ!」

最後は蓮にそうキレイにまとめられ、あれほど深刻だった事態は途端に平凡なものとなった。
淳は一つ深く息を吐く。
はぁー

「すみません、お父様お母様。見苦しい姿を‥」
「その様子じゃ運転は無理じゃないか?」

「明日は土曜だし、家に泊まって行ったらどうだ」
「それが良いよ淳さん」「あらそれじゃ朝ご飯の準備しとかなくちゃ」

「ほら帰るぞ」「行きましょ〜」

あれよあれよと言う間に、事態は思いもしない方向へと転げ出す運びとなった。
まだ充血している瞳を見開きながら、二人は呆然とその場に立ち尽くす。


早くおいで、と赤山家の人達が二人に手招きをしていた。
顔を見合わせていた二人はすぐに、駆け足でその後に続いたのだった‥。
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<エピローグ(1)ー涙の行方ー>でした。
皆様、最終話に沢山のコメントをありがとうございました


また追々お返事致しますので、気長にお待ち頂けると幸いです

さて!エピローグ編に入りました〜

何が嬉しいって、淳号泣祭りは終わらなかったってことですよ


あの続きが読めるなんて嬉し過ぎて小躍りしてましたが、まさか赤山家全員が祭りに参加することになるとは(笑)
泣いてるのめっちゃイジられてましたね

けど本当良かったですよね‥淳はようやく本当の自分を受け入れてもらえた。
雪ちゃんに菓子折り渡したいくらいです(何者)
さて二人は赤山家へと向かう運びとなりました。寛容な赤山家、良いですね〜!
三人でチキン食べに行ってるのも微笑ましいです(笑)
次回は<エピローグ(2)ー扉の中でー>です。
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