薄曇りの曇天に、ビル群の明かりが反射し靄がかかる。
いつしか秋が去り、冬が訪れようとしていた。
青田淳は一人、夜の街角に佇んでいる。
冷たい空気の中で佇む彼は、どこか憂いを帯びた影を背負っていた。
ネオンが溶け込むその空気を背景にして、彼は人を待っている。
「あら?」
すると懐かしい声が掛かった。
その人物は親しげに淳の腕に手を回す。
「アンタ、寒いからってションボリ縮こまっちゃって」
「待った?」
「久しぶりね!」
その人は、淳の幼馴染みの秀紀であった。
実に一年半ぶりの再会。
二人はそのまま、夜の飲み屋街へと繰り出して行く。
騒がしい居酒屋の一角で、二人は酒を酌み交わしていた。
中でも秀紀は上機嫌で、楽しそうに杯を干して行く。
「やだぁ〜昔を思い出すじゃない。こういう所でアンタお酒おごってくれたわよね。
ほら、昔アンタの彼女が住んでた所でさぁ!あたしお隣さんで」
「‥そうだったね」
淳は若干の間を置いてから、少し淋しげにそう言った。
秀紀はそんな淳に対し、多少皮肉るように言葉を掛ける。
「アンタさぁ、あたしには二度と会わないなんて言ってたくせに、結局こうやって連絡して来たのよね?
あたしに対して悪いことしたと思ってんでしょ?どうなの?」
「ううん、全く」「何よっ!」
「ちょっと!アンタもうあたしのこと許したんじゃなかったの?!」
「いや、兄さんのことは未だに理解出来ないよ」「ひどくない?!」
「けど、」と淳は前置きをすると、穏やかな口調でこう言った。
「俺が許した許してないの問題じゃないから。
兄さんが俺に許しを請う必要なんてないよ」
秀紀はその淳の言葉を聞いて、ぽかんと口を開けた。
「どちら様?アンタ、淳よね?」「何言ってんの」
それは今までの彼とはまるで別人のような発言だったからだ。
秀紀はニッと笑みを浮かべると、続けてこう質問した。
「それじゃ今はもうあたしの気持ちも分かったのかしら?」
「あの時のあたしの‥情けなくてみっともなかった時のあたしの気持ち、よ。
今は理解出来るのね?」
去年、最後に二人が顔を合わせた時の記憶が蘇る。
思い浮かぶのは遠藤修を庇いながら、みっともないくらい必死に許しを請うた秀紀の姿‥。
淳は何も言わなかったが、眉を寄せて苦笑いを浮かべて見せた。
それが十分答えだった。
「あら、何その顔。
どうやらアンタもドキュメンタリー‥人間劇場撮っちゃったみたいね」
「昔よりずっと良い表情してるわ」
かつて彼が理解出来なかったことが、その価値観が、今はその穏やかな言葉の中にそっと息づいていた。
あの時もう二度と相まみえることは無いかと思われたかつての幼馴染みは、今再び向き合うことが出来たのだ。
「良いわ。今日はアンタの人間劇場の話、聞かせてちょうだいよ」
「ヤダ」
「何よっ!」
「もうウンザリだ」と言って頭を抱えていたかつての淳は、もうそこには居なかった。
秀紀はあの不器用な少年の横に座った時の気持ちを思い出しながら、笑いながら酒を飲む。
季節は寒い冬を越え、やがて暖かな春へと向かう。
二人の間にあったわだかまりも、ゆっくりと溶けて消えて行った‥。
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<最終章(3)ー越冬ー>でした。
久しぶりの秀紀兄さん!ちょっと垢抜けましたね!
かつて幼い淳に「いつも笑顔でいろ」と生き方を指南した秀紀兄さん。
それを曲解して笑顔の仮面で本心を隠して他人を陥れる方向へ行ってしまった淳ですが、
ようやくその本当の意味を理解出来るようになったのかな、という感じを受けました。
秀紀兄さんはいつも笑顔で人を許して来ましたもんね‥
二人が和解出来て本当に良かったです。
次回は<最終章(4)ーそれぞれの春(1)ー>です。
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